会議
第何回目かも分からない制作陣会議。
けれど、その空気感はいつになく緊迫していた。
私は無意識に背筋を伸ばす。
「何なの?アレ」
レヴィの声が会議室に響く。
そりゃそうだよね。あれだけの出来じゃ1週間では到底間に合いそうもない。
「最高じゃない!」
え?
燃えてきたわ。想像以上よ。
そう言うレヴィのことが信じられず、私は自分の耳を疑った。
「最後の音楽、すごく舞台映えするわね」
「だろ?」
自慢げにルーカスが鼻を鳴らした。
他のセクションにもレヴィは興奮した様子で賛辞を贈った。
「ねぇ、エマのドレスヤバくない?私めっちゃ頑張ったんだけど」
「えぇ、最高だったわ。特にあのシルエット。エマのスタイルの良さが際立つわね」
「エマはいつでも綺麗ですよ?まぁあのドレスは傑作でしたけど」
さっきまで私と同じくビビっていたセドリックも、いつの間にか会話に入り込んでいる。
ちなみにセドリックは最近私の前肯定bot化している。王子のための役作りと思って甘いセリフも聞き流してはいるが、そろそろ控えて欲しい。
「あの……動画を見て私は危機感を感じたんですが、先輩たちは、その……」
「最初のリハなんてそんなものよ。プロの現場でもそうだし。ゲネまでには仕上げるわ」
私の不安をレヴィは当然だと笑い飛ばした。
プロの彼がそう言ったことで、今日の出来を不安に思っていた演劇経験の浅いメンバーも安心している。
「改善点をまとめるとこんな感じでしょうか?」
エドガーの出したスクリーンには、今日の反省として出た意見がセクションごとに細かく分けられている。色々出ているが、主な改善点は機材や演出に関することであった。
「やっぱり演奏に指揮者はいた方が良かったわね」
「そうだな。明日は俺が振る」
「よろしく。機材担当。キャストのマイクの音量もうちょっと上げて」
「わかりました」
「衣装も、今日ダンスでビジューが取れたものがあるからその付け直しと、とれないように工夫して頂戴」
「りょーかい。サイズ変更は今のところ聞いてないけどあれで大丈夫?体重の増減は見越して作ったつもりだけど、採寸の時とは全然違うから合わなかったら直すよ」
「ありがとう。後でアタシからキャスト全員に連絡とって報告するわ」
レヴィと各責任者の間でどんどん話が進んでいく。
エドガーはひたすらパソコンで記録を取っていた。
「あ、あとすみません。さっき運営委員会から予算の引き上げの連絡が来たんすけど、広報に回していいですか?どっか使いたいところあります?」
「いくら増えたんだ?」
「25万ペリエっすね」
アクアの質問にアルバートがスマホのメッセージを見ながら答える。
私の感覚的に多分ペリエは円と同じ価値なので、この場合25万円分予算が増えたということだ。
ちなみに元々この演劇には確か400万ペリエほどの予算が当てられている。
全国で放送するそうで、企画自体は初めてにも関わらず多くのスポンサー企業から破格の予算が用意されている。それに応じて他校もかなりのクオリティーの作品に仕上げてきているらしい。
「可能なら演出に5万ペリエほど使わせてほしい」
「あ、もしかして諦めてた演出か!?」
「あぁ、予算があれば出来る」
アクアとイデアの申し出に誰も異議を唱えることは無く、追加予算は5万ペリエを演出が、残りの20万ペリエを広報に使うことで一致し、各々が改善点を確認したところで解散となった。
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それからリハーサルを続けること5回。
通しと反省会を重ね、完璧と言っても良いほどの完成度にまで仕上がった。
リハーサルと上映前後のトレーラーの撮影。
過酷すぎるハードスケジュールに皆睡眠不足と疲労で死んだ目をしていたが、キャストはほとんどがそういう役なので、その過酷さがより舞台の完成度を上げているというのが皮肉だった。
総合文化祭5日前から授業が休講になるので、ほとんどをこの準備に費やしていたが、それでも人手が足りないため休息の確保はかなり厳しかった。特にトレーラー撮影は撮った後の編集作業に駆り出された美術スタッフや演出スタッフは本当に死んでいた。それぞれが休める時に仮眠をとって、1日中誰かが働いている状況。
かく言う私もメイクやヘアセットの間と私の必要ないシーンの練習中にしか眠れていない。
元気いっぱいの人魚姫を演じるため、序盤はメイクでクマなどを必死で隠しているが、後半はそのメイクを落として演技をする。最初はやつれたメイクをする予定だったのに、結果としてすっぴんが1番リアルにやつれているというのは正直ショックだった。
そうしてやっと迎えた前日。
と言っても1週間ある総合文化祭の2日目の企画なので正確には2日前だが、私たちは一般の生徒よりも1日早く現地入りしていた。
「こんな連続で寝たのいつぶりかしら……」
アイダ役のメリダが呟いた一言に、その場に居た全員が頷いた。
ウィンチェスターアカデミーからクリスタルカレッジまではおよそ4時間。
揺れる馬車の中で、私たちは爆睡していた。
心なしか体が軽くなったような気がする。
「お待ちしておりました。ウィンチェスターアカデミーの皆さん。ようこそクリスタルカレッジへ」
声のした方を見ると、数か月ぶりに見るノエルの姿があった。




