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無茶ぶり

キャストって、メインキャストとか言わないよね?

それより出演者はオーディションで決めるんじゃ……


「ちょっと待ってくださいレヴィ先輩」


流石のエドガーも驚いている。

というか私、今けっこう抱えてるものが多いからあんまり気が進まないんだけど。


「何よエドガー」


「エマさんは副会長の仕事に加えてウィーブルでのバイトとエイド先輩との共同研究もあります。劇のキャストは拘束時間が長いですし、彼女には荷が重いかと」


そうですそうです。そもそも演技経験なんてほとんどないし。

学校の劇にちょっと出てたくらいで。

しかし、エドガーの意見を聞いても彼の意見は変わらなかった。


「今年の劇のテーマは『恋愛』だったわね。こんな使い古されたテーマ持ってくるなんて正直気が進まなかったけど、今いいものを見つけた。アタシ、この子をキャスティングしないなら降りるわ」


「は!?」


珍しくエドガーが本気で焦っている。

無理もない。今回の劇はこちらとしても手探りのことが多い。重要な役職は経験や実力がある人間が務めなければ正直厳しい。

この間セドリックも演出監督を確保して、やっと最低限必要な劇の中枢の人間が見つかったと大喜びしていたところだ。


「内容はほとんど出来てる。あとはプロットを元に書き下ろすだけだったんだけど……残念ね。でもすごく面白いからこれはアタシの作品として後日出版することにするわ」


「わかりました!わかりましたから!……エマさん」


エドガーは腹を括れと言わんばかりに目線を向けてくる。

え、私今売られた?

しばらくウィーブルでのバイトはお休みさせてもらおう。有給扱いで。



なんだかよく分からないままチャイムが鳴って授業へ向かった。

参考程度にとレヴィの過去の小説をもらったが、これって全部……


「歴史ものばっかり……」


てっきりファンタジー小説を書いているものとばかり思っていたけれどそうではないらしい。

歴史の中でも特に戦争に関する作品が多い。

今回は完全オリジナルのフィクション作品のみなので、おとぎ話をもじった劇だろうと心のどこかで考えていたが、これはそんな単純なストーリーではなさそう。


「あ、エマ。さっきの魔法薬学はサボってたの?」


「エリカ。……ちょっと寝坊しちゃって、あはは」


「サボって正解。今日の調合馬鹿みたいに難しかったから」


「あーやっぱり」


結局生徒の半分は最後まで薬が完成せず補修を食らったのだという。

そんな課題を1限分の時間だけで終わらせるって。流石は天才と言うか何と言うか。

セドリックの優秀さを改めて感じさせられる。


「その本って、もしかしてレヴィ先輩の?」


「あぁ、うん。知ってるの?」


「当たり前でしょ!?こっちなんかこの間映画化されてたわよ。レヴィ先輩主演で」


彼女の見せるスマホの画面に目を向けると、トロフィーを持ったレヴィの姿があった。

大きな賞で最優秀賞を受賞したのだとか。

もちろん原作小説も大人気で今はどこの本屋を探し回っても中々手に入らないらしい。

学生ながらに大スターで大人気小説家。これからの人生何するんだろうくらいの勢いで活躍している彼に尊敬の念を抱くとともに、さっきの様子を思い出して、やっぱり才能のある人は変なんだなと思う。


「エマも先輩のファンなの?」


「ファンって言うか、レヴィ先輩が今度の総合文化祭で劇の脚本担当をしてくださるらしくって。私も一応音響の方で生徒会として携わるから、先輩の世界観を知るためにってもらったの」


「え!?レヴィ先輩が?」


絶対キャストやるわ。レヴィ先輩の書いた物語のキャラクターやれるとか最高。

1人でブツブツと言っているエリカを眺めていると、先生が入ってきて授業が始まってしまった。

折角だからレヴィ先輩のこと聞こうと思ってたのに。


ー---------------

授業後いつものように食堂に向かう。

一応まだ授業中ということもあって、もう私たちの特等席と化したテーブルにはソフィアしかついていなかった。


「あらエマ早いわね」


「錬金術の実習が早く終わったので。エリカはまだやってますけど、多分もうすぐきますよ。先輩こそ随分早いですね」


「3限は空きコマだったのよ」


ソフィアの向かいに腰掛けると、私はあることを思い出しスマホを取り出した。

フォルダーから先ほどの動画を探し、ソフィアに転送する。

ピロンとソフィアのスマホから通知音が鳴る。


「私も2限まで授業に出てなかったんですが、その時に見かけました。生徒会メンバーではないんですけどネタにはなるかと思って。ルーカスは人気みたいですし」


スマホを確認するソフィアに向かってそう報告した。

送ったのはさっきルーカスが1人で音楽室のピアノを弾いていた時の動画。これのせいで面倒なことに巻き込まれたが、ソフィア自身に非は無いし、何より言ったところでどうにかなる問題でもないのでそれは黙っておく。


「エマ、貴方……」


動画を開き確認したソフィアは、いきなり体をプルプルと震えさせ始めた。

え?ルーカスは好みじゃなかったかな?

まぁ要らないなら要らないでいいんだけど。


「最高じゃない!よくやったわ!」


ルーカスはそもそもどこにいるか分からないし、人といるのをめんどくさがるから中々普段の様子なんて知れないの!やっぱりピアノ上手ね!学校で弾いてるの初めて見たわ!

ここまでノンブレスで言い切る彼女に驚きながら、お役に立ててよかったですと伝えると、彼女は1人で妄想の世界へ飛んで行ってしまった。


結構いい仕事したっぽいし、これは報酬を弾んでもらわねば。

私は心の中でそんなことを思いながら、これをどうにか合法的にビジネスに出来ないだろうかと考えていた。ウィーブルでバイトをしていれば、嫌でもエドガーの商売魂に似てくるものなのだろうか。


「お疲れ、エマ。そういやレヴィ先輩に会ったって?セドリックから聞いた。えーっとなんていうか……ご愁傷様」


教科書を抱えたままのアルバートがやってきた。

耳が早い、おそらく3限の授業が同じだったんだろう。彼はさっさとランチを食べ始めている。


「ご愁傷様?何かあったの?」


妄想の世界から帰って来たらしいソフィアはアルバートに向かって尋ねた。


「レヴィ先輩に脚本お願いしたんすけど、突然エマがキャストじゃないと降りるって言いだしてて……ただでさえ忙しいのにキャストまでとなると」


「え!?羨ましい!……じゃなくて大変ね」


「ソフィア先輩もレヴィ先輩のファンなんですか?エリカもファンだって言ってました」


「まぁ……そうね。けど今回は有志企画で忙しいからどの道無理かな」


まぁそれもそうだろう。新刊のネタ探してるくらいだし。

多分締め切りも既に最終入稿ギリギリを想定している。


妹もそうだったけど、どうして徹夜して死にそうになるまで漫画や小説を書くんだろう。

趣味なら空いてる時間にやるものじゃない?と聞いても、いつも「趣味だから全力でやるんでしょ」と返されていた。


最近元の世界のことを思い出すことが多く、軽いホームシックかなと思いながらその気持ちを呑み込むように昼食を口に突っ込んだ。いつもなら先に食べ終わってしまっても他の人が来るまで待って一緒に話したりするのだが、今日はそういう気分になれず、私は2人に断りを入れて食堂を去った。



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