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宿命

制服の上着を乱暴に脱ぐと、そのままベットに放り投げた。

これからまだまだやることはたくさんあるのに、今日はもう何もやる気が起きない。

そういや研究をまとめようと思ってたのに何もできてないや。


「……疲れた」


私はベットに力なく倒れこむ。

いつもの授業と馬車移動で体力的にも疲れたが、この疲れはどちらかと言うと精神的な疲労だろう。


『貴方もいずれ貴族になるのでしょうから』


イレナのこの言葉には、正直驚くほか無かった。

え?貴族?私が?


驚きで頭が空っぽになった私を見て彼女は呆れながら説明をした。

貴族がその地位を保っていられるのは強い魔力があるから。

言い換えれば、平民はほとんどが魔力を持たないから貴族に従うしかない。そうすることでこの世界の身分社会は保たれている。


つまり、莫大な魔力を持つ私をウィンチェスターアカデミーに入れたのは、国の秩序を守るため。

クリスタルカレッジなどでは貴族以外の平民も生徒として在籍しているが、やはりそれも中流階級までの人間。成績も優秀とは言えない者が多い。


イレナによると、私は近い将来有力な貴族と結婚することが求められるのだという。

相応の相手がいれば別だが、いなければ国の決めた相手と結婚することになるだろうとも。


ここまで聞いて、私は自分の将来が決まっているということに動揺を隠せなかった。

食うには困らないけど、決められた相手と結婚して何もしないまま一生を終えろって?

冗談じゃない。いつの時代の話だよ。


「もしかしたら、ゲームの中のヒロインがあんなにか弱いふりして攻略対象に近づいてたのはそういう事情があったから?」


良く知らない相手と無理やり結婚させられるくらいなら、顔よし実力よしの攻略対象と恋して結婚する方がよっぽどいいもんね。結婚させられる男が同じくらいの年頃の好青年である保証なんてどこにも無いし、断れないことは確定してるのだから、そんな賭けに出るよりよっぽど確実だ。


案外ヒロインって、打算で生きてたのかも。

相手を惚れさせれば丁重に扱ってもらえるし、夫婦関係が良好ならある程度は結婚後も自由に過ごさせてくれる可能性が高い。

もしかして、ヒロインってかなり図太い?


もしそうだとしたら、嫌いだった元々のヒロインとも仲良くできるかもしれない。

賢い人は嫌いじゃないし。


「さて、私はどう立ち回るべきなんだろう」


いままで私はひたすらイベントが進まないように努力してきた。

攻略対象の接触も最低限に。

アメリアと出会ってからは、出来るだけ攻略対象と出会い、1人1人の関わりを浅くするという方法を取っていた。


しかし、その話を聞いた後だと、単にイベントを回避して恋愛モードに持って行かないだけではダメな気がする。もちろん死ぬのはごめんだし、アメリアにも迷惑をかけるわけにはいかない。

となると、攻略対象以外の人間と付き合うとか?

でもマジプリには隠し攻略対象のキャラがいて、それは通常のキャラよりも攻略難度が高く、死にゲーだと聞いている。


私はネタバレを見ていない上にそもそも全キャラの攻略を終えていないので、隠しキャラがどんな人かは知らない。以前アメリアに聞いたときも知らないと言っていた。

下手に付き合うと思わぬところで隠しキャラの攻略が始まっていて、失敗して死亡。なんてこともないとは言えない。


スペックやビジュアルを考えて怪しいのは、フラッグサバイバルのメンバー、クリスタルカレッジのレオンと双子。後はダミアン先生くらいだろうか。

正直皆顔も実力も素晴らしすぎるので絞り込むことが出来ない。

それ以外に関わりがある人も居ないから、この他から付き合うのは難しいし。


お見合い結婚を防ぐためには、国が用意する見合い相手と相応もしくはそれ以上の家柄が必要。

私自身の魔力量を踏まえると、最低でも侯爵か伯爵家くらいだろうか。

でもそれくらいの人ってもう怪しいしなぁ。最近流行りの愛のない契約結婚でいいから誰かいないだろうか。


そんなことを考えているうちに私は眠ってしまっていた。

朝起きると、急いで入浴や身だしなみを整える。頑張ったけれど、最初の授業には間に合わなかった。1限は魔法薬学の実験。確か2限続きの実験だった気がする。


魔法薬学の単位は心配ないし、実験に途中から参加しても正直意味がないので、私は諦めて食堂に朝食をとりに行った。しかし、ここまで人がいない食堂は見たことがなく正直落ち着かなかったので、私はサンドイッチだけもらってエイドの研究室に向かうことにした。


昨日やるはずだった研究のまとめをしたいし、エイドも授業中で居ないはずなのでやらなきゃいけなかった残りの実験も済ませてしまおう。普段は彼が実験道具を占領していることが多いので、やるなら今のうちだ。


「……あれ?この音」


研究室に向かう途中で誰かが演奏しているのが聞こえた。

気になって音楽室を覗くと、そこには誰も居ない音楽室で演奏するルーカスの姿があった。大方彼も1,2限の魔法薬学をサボっているのだろう。


「この曲、私がこの間弾いた……」


ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第14番 嬰ハ短調 作品27―2 

『幻想曲風ソナタ』 第二楽章


ベートーヴェンが三十歳の時に作曲した作品。「月光ソナタ」の愛称で広く知られ、第8番・第23番と並んで三大ピアノソナタと呼ばれる人気の楽曲。

この間何か弾いてと言われた時に私が弾いたものだ。クラシックが浸透していても、流石に異世界。彼はこの曲を知らなかったらしい。

この様子だと第一楽章から弾いているのだろう。


「1回聞いただけで弾けちゃうんだ……」


そう言えば彼の演奏を聞くのは初めてかもしれない。

下手ではない、むしろものすごく上手い部類の演奏。


ピッチは完璧だし、弾き間違いもない。

ビックリするくらい楽譜通りの演奏。

コンクールに出場して優勝するのも当然。そう思わざるを得ない演奏。


でもどうしてなんだろう。

完璧なのに、全然私にはそう思えない。

リストが第二楽章のことを「二つの深淵の間の一輪の花」と例えていたように本来第二楽章は明るく軽やかな曲調だ。だが彼の演奏には、苦しさや必死さといったものを感じてしまう。


弾けていないわけではない。


ただ、表現力が乏しいのだ。

いや、楽譜通りの表現は出来ている。けれどそれは、まるで機械が演奏しているよう。

演奏と言うのはどうやってもその人の癖が出る。中には顔を見なくても誰の演奏か分かってしまう人もいるくらい。なのに彼にはそれが全くない。


まぁコンクールでは間違いなく評価される演奏だけど。

私はそんな気持ちを抱きながらスマホでその様子を録画していた。

ソフィアに頼まれてたし、さっさと彼女たちが納得するネタを提供してしまおう。


「盗撮とはいい度胸だな」


「え……」


第二楽章が終わると、彼は演奏を止めこちらを向いた。


「お前授業は?」


「あー。寝坊して……」


「1,2限続きの魔法薬学だもんな。途中で行くわけにはいかない、か」


あははと笑ってごまかし音楽室を出ようとすると、ルーカスに引き留められた。


「せっかくなんだからお前も何か弾けよ」


「えー……私はちょっと」


「名門ウィンチェスターアカデミーの生徒が盗撮。完全に不祥事だな。学校のブランドに傷がつくしどんな処分が下されるんだろうなぁ?」


「やります、やらせてください」


こんなことなら動画なんてとらなきゃ良かった。

私は渋々何か演奏することにした。


ここまで読んでくださりありがとうございます。

先日なろう好きの友達が、50話超えた作品で毎日投稿続けられると逆に読む気が失せる。1週間に多くても3回くらいの更新で良い。と言っているのを聞いて更新頻度を落とそうかと考えている星奈です。

ストックはあるのですが、週末に投稿するのもアリかなぁ等とちょくちょく考えております。

よろしければご意見ご感想などいただけますと幸いです。

なんだかやる気が起きない季節なのでブクマ、評価などもいただけますとやらないとという使命感で筆を走らせることが出来ます。どうか作者に力を!

長々と喋りましたがこれからも「ヒロインって案外楽じゃないですよ?」をよろしくお願いします。

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