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エントリー……?

やっと私を悩ませていたエドガーの数学理論のレポート課題が終わった。

あーあ。こんなことなら数学部にでも進んでおくんだった。いや、工学部?

とはいえこれでまた図書館で勉強できる。レポートの手伝い中も朝は通っていたし、エドガーも教えてくれたから全く勉強できなかったわけではないけど。私は私で魔法薬学のレポート課題出てるし。

自由課題って苦手なんだよなぁ。テーマ何にしよう。


「久しぶりだね。エマ」


「あ、セドリック」


そういえば出かけに行った以来会っていなかったかもしれない。

セドリックとはあまり授業が被らないから、会うのはもっぱら放課後の図書館だったし。


「最近見なかったから心配していたんだ。その……嫌われたのかと」


「え!?いやいや、2年のエドガー先輩に頼まれてレポート手伝ってただけなんだけど……」


私がそう言うと、セドリックの表情は一気にパァ、と明るくなる。


「そういえばもうすぐ魔法競技大会だけど、エマはどの競技に出るの?」


「まほうきょうぎたいかい?」


何それ、そんなのあったっけ?

マジプリプレイしてたとき、そんなのなかった気がするんだけど……


「4校の魔法学校が集まって、学校別で魔法競技を競うんだ。出場する選手は学内の選考会で選ぶんだよ?前の年に優勝した学校で開催するんだけど、去年の優勝、というか9年連続ウィンチェスターアカデミーが優勝してるから、会場はここ。今年は10年連続優勝が懸かってるからみんなかなり気合が入ってる」


あぁ、思い出した。主人公は治癒の魔法があるからっていう理由で救護班になるんだよね。救護室での攻略対象と二人きりのシチュエーションは萌えたわー。なんで忘れてたんだろ。


「1年生には新人戦枠があるから実はそこまでハードルも高くない。選考会は誰でも出られるし、エマも参加してみたら?」


まぁ確かに救護班に回されて変に攻略対象と関わるより、選手として出てた方がマシか。

でもやっと勉強もスタートラインに立てそうなところなのに競技の練習もってなるとしんどいなぁ。今回はひっそり救護班でも……


「魔法競技大会には現役の魔法師たちや貴族はもちろん、魔法省や王家も見に来る。将来のためのアピールにもなるから出ておいて損はないと思うよ?」


魔法省に王家?貴族も?

……出るしかないな。


コネは無いなら作らなきゃ。アピールできる場があるのなら逃すべきではない。


セドリックは選考会の応募用紙を渡してくれた。これを期限までに生徒会室に提出すると選考会に出場できるらしい。セドリックはもうエントリーする競技を決めていると言って生徒会室に向かっていった。


わざわざこのことを伝えに来てくれたのだろうか?

セドリックのくれた応募用紙を見ると、応募用紙とは別に各競技の概要が書かれた紙もあった。

セドリック、君はなんてできる奴なんだ。


新人戦の競技は全部で7種目。これは本選も同じらしい。

団体戦が2種目に個人戦が5種目。

団体戦は男女混合だが、個人戦は男女別で行う。


団体戦の1種目目は、トレジャーハント。

男女混合3人のチームで、他のチームが隠した宝を探す。自分のチームも宝を隠し、他のチームに見つけられてしまうと失格となる。最後まで残ったチームの勝利。


2種目目は、フラッグサバイバル。

男女混合5人のチームで、他のチームの旗を取り合う。参加者は魔法感知スーツを着用し、魔法の銃を持つ。他のプレイヤーが打った光弾が当たると脱落。全員脱落するか旗を取られるとそのチームは失格。最後まで残ったチームの勝利。


思ったよりもルールが単純で助かる。

ただ私は団体戦にエントリーしない方がいいな。

攻略対象たちも参加する可能性が高いし、そうでなくとも平民出身のヒロインのことをよく思っていない人は多い。悪役令嬢が出てこないとも限らないし、やめておいた方が無難だろう。


個人戦の1種目目はウィザードシューティング。

箒に乗りながら現れる的に魔法を当て、最終的に当てた数を競う。


2種目目はフィジカルダービー。

障害物を避けながら、およそ1キロを走る速さを競う。道具を使わなければ何をしてもよい。


3種目目はパデルテニス。

四方を壁に囲まれた会場でテニスをする。壁に跳ね返っても良いものとし、一対一で得点を競う。


4種目目、ファーストポイント。

並べられた的の中から、一回ずつ合図とともに一つだけ光り、それに魔法を当てる速さを競う。


5種目目、パワーサープレッション。

一対一で行い、合図で同時に一つの的に魔法を当てる。所定の場所まで押し切った方が勝ち。


個人種目の方が単純だったわ。

個人種目は全て代表3名。実際には補欠もいるからもうちょっと選ばれるだろうけど……結構狭き門だな。

どれが向いてるかもよくわかんないし、とりあえず5種目とも出ちゃおうっと。




必要事項を記入すると、私はすぐさま生徒会室に向かった。

3回ほどノックをすると中からどこか疲れたような返事が返ってきた。


中に入ると、エドガーのいる正面の机の上には大量の書類が積まれていた。


「あぁ、貴方ですか」


そう言ったエドガーには全く生気を感じられない。

なんでも魔法競技大会の代表決めは生徒会が主体になって行うそうで例年忙しいが、今年の生徒会がエドガー一人ということもあってかなり追い詰められているようだ。

私はお疲れ様ですと言いながら、応募用紙を差し出す。


「はぁ……エントリーは一人2種目までです。やり直し」


ほぼ受け取る前に新しい応募用紙と共に突っ返された。

え!?2種目までなの!?

全く、と言ってエドガーは大きなため息をついた。

「ここにしっかり書いてあるでしょう?」と応募用紙の注意事項を指さす。

あ、ほんとだ。


エドガーに「もうここで書いてください」と言われたので、レポート課題を手伝うときに使っていた椅子に座る。

2種目か……どうしようかな。私は治癒魔法くらいしか使えないわけだし、やっぱり作戦とかで何とかなる競技の方がいいよね?

この中だとパデルテニスとフィジカルダービーあたりかな。

あんまり悩んでも仕方ないので、私はその二つに丸を付け、さっきと同じように必要事項を記入する。


「なぜこの2種目なんです?」


これまた大きなため息をついてエドガーは言った。

え?なぜって、なぜですか?

私には無理だと言いたいのだろうか。


「で、ですよね。私みたいに大した魔力もない人間では難しいですよね。あはは……」


実際ゲームの中の主人公は治癒魔法しか使えない設定だっだ。

私は治癒魔法すら使ったことないから……授業でもまだ座学ばかりだし、魔法薬学の実験の時も魔法が必要な作業はエドガーが全てやってくれていた。もしかして私、治癒魔法すら使えないのでは?


「何言ってるんですか?貴方に大した魔力が無いなんてありえないでしょう」


え?そうなの?

すると占い師が使う水晶玉のようなものを渡される。

あ、これ知ってる。教科書に書いてあった。確か……


「魔力測定器です。自覚がないようですから量ってみては?」


あぁそう!それそれ。凄く高価なものだって書いてあったけど、流石王国一番の商家の息子。

手をかざすとその人の魔力量を自動で量ってくれるんだよね。水晶玉の光の強さと長さで魔力の強さと量が分かるんだっけ。平均はランプくらいの光が3秒くらい。ウィンチェスターアカデミーみたいな名門校の生徒だったら同じくらいの光の強さで10秒程度は光り続けるという。


そういえば入学試験の時に測定するんだっけ?私は入学試験受けてないから知らないけど、確かゲームの中でセドリックが25秒光らせてたな。

まぁ10秒光ってくれたらありがたいなと考えながら魔力測定器に手をかざす。


さて、どうなるのかな……眩しっ!


その光はランプなんて生易しいものではなく、真夏の太陽のようにギラギラと輝いていた。

あまりの強さに私もエドガーも思わず目を閉じる。やっと光が消えたと思えばエドガーが信じられないといった表情で私を見ていた。


うん……私もまさかここまで光るとは思わなかった。


エドガーは黙ったまま時間を測っていたストップウォッチをこちらに向けた。その画面には30.5秒を表示されている。

え……マジすか。ごめん主人公。お前全然スペック低くなんかなかったよ。むしろハイスぺってかチート級じゃん。


「ま、まぁ、治癒魔法を使えるくらいですから相当な魔力は持っているだろうと思っていましたが」


ゴホン、と咳払いしたエドガーは自分に言い聞かせるように言った。

その後はお互い信じられないものを見たせいで何となく気まずくなってしまったので、私はエドガーに勧められるがまま、ウィザードシューティングとパワーサープレッションの2種目にエントリーし、生徒会室を後にした。


それにしても、どうしてゲームの中で主人公は救護班にいたんだろう。確かにこの上なく向いてはいるが、10年連続優勝が懸かっているような大事な場でヒロインを外すなんてことあるのだろうか。そう言えば、私はマジプリをプレイしている中で主人公が魔法を使っているのをほとんど見たことがない。悪役令嬢に殺されるエンドの時ですら魔法を使ってはいなかった。魔法を使うのは、攻略対象たちが自分を庇って怪我を負ったときの治癒魔法だけ。


どうして?これだけの魔力があれば悪役令嬢にやられっぱなしなんてありえない。反撃しないにしても、自分の身くらいは自分で守れたはずだ。どうして毎回怯えているだけだったのだろうか。


わざと反撃しなかった……とか?

まさかね。純粋なヒロインがそんなことするはずないし。


私は考え始めればキリのない疑問を胸に抱えて人気のない廊下を歩いた。


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