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呼び出し

お金はやっぱりあるに越したことは無いんだよね。

私は資産も家族もいないわけだし、何かあった時に自分で生きて行けるだけの蓄えは作っておかないと。


随分図太くなったなぁと自分でも感じながら寮に戻る。

今日は帰ってアリエスの研究をまとめなければならない。色々な人の協力もあって、私の方の研究はほぼ完成だ。エイドの方もほとんど終わったようなので、すぐに最終段階である実際の車を作る段階に入れるだろう。


エイドが今までの試作車に改良を加えて、理論上はこれで上手くいくはずだ。

あとは実際に組み立てて、テストを繰り返す。

なんだかんだこれが1番時間がかかったりするが、ずっとやってきた研究をついにその最終段階まで持ってこられたというのは素直に嬉しい。


早く論文用のレポートをまとめてしまおうとスキップで寮へ向かうと、ちょうど寮の目の前で誰かに呼び止められた。


「シャーロット。ついてこい」


待っていたのはダミアン先生だ。

先生は私の返事も聞かずに歩き出した。呼び出しと言う事だろうか。

私呼び出されるようなことしたっけ?

まぁ確かに単位が取れたから魔法薬学の授業には最近あんまり出てないけど。


「エリーチカが目を覚ましてな。お前に会いたいと言っている」


え、彼女が?

ほとんど何も聞かされないまま馬車に乗せられたので、私は彼女との記憶を必死に思い返していた。

何か呼ばれるようなことしたっけ。そもそも私彼女に嫌われてるし。

皆の前で彼女の魔法を打ち消したのが良くなかっただろうか。


追い出したいと言われている手前、何か無礼と捉えられたことで退学にでもさせられるのではないかと私は冷や汗が止まらない。

家柄で言えばトップレベルの人だし、正直私のことなどどうにでもなるのだろうから。


「どうぞ」


案内されたドアを軽くノックすると、中から彼女の声が聞こえる。

ちなみにダミアン先生は病院の前に着いた段階で「ここで待っているから」と私を見放した。

先生が連れてきたんだから病室まで一緒に来てよ!


恐る恐るドアを開けると、そこには病室とは思えないほど豪華な景色が広がっていた。

大理石の床に天蓋付きのベットがある病室なんて見たことがない。

すごいVIP待遇。流石は名家エリーチカ家という事だろう。


「御機嫌よう。待っていたわ」


「……ご、御機嫌よう。ミス・エリーチカ」


私は動揺を隠してアメリア直伝貴族のカーテシーを披露した。

にこやかな表情に反して、心臓はバクバクだ。ご機嫌ようなんて人生で初めて言われた。

正直私の周りの人たちは身分こそトップレベルだけど、普段は普通に接してくれるのでお嬢様言葉にはあまり慣れておらず、なんだか変に緊張してしまう。


「どうぞお座りになって。紅茶はお好き?」


ベットのすぐそばの一人掛けのソファーを勧められ、私はそれに腰掛ける。

メイドが持ってきた紅茶と焼き菓子は、私でも知っているくらい有名な超高級店のもの。

彼女は丁寧な動作でカップを持ち上げると、優雅に紅茶を一口飲んだ。


「貴方は国からの特待生だったわね。ウィンチェスターアカデミーの入学試験についてはご存じ?」


何の話?入学試験?

ゲームの中ではそんな話は無かったし、エマは国から治癒魔法の影響で特待生扱いで入学したから彼女の記憶の中にもそのようなものはない。

少し考えてから首を振ると、彼女は目線をカップからこちらに移した。


「ウィンチェスターアカデミーには入学試験の中で学力試験と魔法実技、そして面接があるの。両親も出席の個別面接よ。お分かり?いくら学力や魔力があってもそう簡単にウィンチェスターアカデミーには合格できない。同じ魔法学校のライトフォレストと比べても生徒数は圧倒的に少ない上に、実力ももちろん段違い」


突然向けられていた視線が鋭くなり、私は思わず背筋を伸ばした。


「貴族の子供たちは名門ウィンチェスターアカデミーに通うため小さい頃からたくさんの教育を受ける。合格は当たり前。不合格なら落ちこぼれ。そして地位が高い人間ほど良い成績や結果を出す必要があるの。魔法が強い人間こそ認められる、後継ぎの魔力が弱ければその家は確実に没落させられる。貴族たちにとってウィンチェスターは小さな社会であり、その能力を認めさせる場所よ。だから、貴方のような平民が何もかも持って行ってはいけない」


特別枠を用意しなくても実力でのし上がっていける方々は良いのでしょうけど、と彼女は小さな声で呟いた。きっとエドガーやセドリックのような人を指しているのだろう。

ウィンチェスターでは家柄によってはチャンスすら与えられない。それを不満に思うのは当然のことで、多くの非特権対象の生徒が実力主義に賛成している。


今回の選挙結果がそれを如実に証明している。

けれど、家柄至上主義の彼らとて好きでやっているわけではない。彼らが生きていくためには必要な事なのだろう。私はそんなことは全然分からないけど、魔法競技大会の時のエドガーや周りの様子を見ていれば、それが彼らにとって当たり前に求められていることなのだという事くらい察しが付く。


「だから、やっぱりわたくしは貴方はこの学校にはふさわしくないと思うし、追い出したいというのは変わらないわ。けれど、今回の件で分かってしまったわ。貴方の実力が本物だということ。……此度の件、わたくしの命を救ってくださったこと、真に感謝しております。そしてこれまでの無礼、お許しください」


彼女はベットから立ち上がって深々と頭を下げた。

こんなにちゃんとお礼を言われるなんて思っても見なかったが、彼女からすれば受けた恩に感謝出来ないのは「貴族の令嬢として恥ずべき行為」なんだそう。確かにこの世界の人は、謝ったりお礼を言うときはすごく丁寧な気がする。育ちってこういう事なのね。


「許すつもりはありませんけど、謝罪は受け取ります。あなた方の事情も少しは察しているつもりですし。ただ、私は私のためにこれからも学校生活を送りますので」


同情するつもりはないし、彼らのためにチャンスを譲るなんてもってのほかだ。

本当ならこれから私が彼らに譲る代わりに魔法省に推薦しろと言いたかったけど、先日エドガーにそれとなく頼んだら、推薦できるのは貴族のみだと申し訳なさそうに言われた。これはルールとして決まってしまっているらしい。


だから私は自分の力で学校の推薦枠を勝ち取る必要がある。学校の推薦枠に家柄の指定は無いらしい。(もちろん家柄による贔屓はある)魔法省の人間の推薦もその条件は無いけど、そもそも知り合う機会がないので、それを作るためにも私は頑張らなくては。


「事情を話しても同情はしてくれないのね。やっぱり思っていた通りの方ね。弱そうに見えて全く硬い芯をお持ちのようだわ」


彼女はベット横に置いていた扇を取って開いたり閉じたりしていた。

手がさみしくて触っているのかと思ったが、こちらを探るようにチラチラと視線を向けてくるところを見るとそうではないらしい。


『本当ひどい人だわ』


私はアメリアに教えてもらったものを必死に引っ張り出した。

確かこんな感じの意味だったはず。

私は持っていた魔法の杖を取り出して、微笑みながら頬を横になぞった。


『ごめんなさいね』


すると彼女は私の言わんとすることを理解したようで、「勉強したのね」と少し楽しそうに笑った。


「まぁいいわ。貴方もいずれ貴族になるのでしょうし、これからは正攻法で戦おうかしら」


彼女はそれだけ言うと持っていた扇をベット横に戻した。

何処か楽しそうな彼女とは打って変わって、私は言われた言葉の意味が理解できず黙ったまま固まっていた。



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