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思わぬこと

作曲家を確保したのはいいものの、特にやれることはない。

というのも、内容担当のアルバートは早くも脚本家を見つけたとのことだが、完成まではもう少し時間がかかるため、まだ曲の制作や演奏者の募集はできないのだ。

私は放課後いつも通りウィーブルでバイトをしていたが、上がりの時間になって店を出ると、店前にソフィアが立っていた。


「待ってたわ、エマ」


彼女は私の返事も聞かずに手を引いてどこかへ連れて行こうとする。

彼女のことは信頼しているし、特に行動から悪意も感じなかったため私は大人しくついて行くことにした。


「貴方にお願いがあるの」


珍しいセリフに驚いていると、目の前のドアが開いた。

連れて来られたのは図書室の一角の個室。前に勉強会で使った個室よりも奥の大きい部屋だ。

また勉強会だろうか。直近のテストは無かったはずだけど……

扉が開き中にいる人物を見た瞬間、私は思わず声を上げた。


「どうして……」


中にいたのはたくさんの女子生徒だった。

その中には見知った生徒もいる。学年や部活など特に共通点は見受けられなかったが、しいて言うなら私を良く思っていない人たちを集めたという感じだろうか。

単に私が気に入らないというよりは、攻略対象をはじめとした人物たちとの交流が許せないという私の中では危険度マックスの方々。


ヤバい。

直感がそう告げていた。

チラリと目線を逸らすと、ある女子生徒と目が合う。私が魔法競技大会の前に絡まれて脅かした生徒だ。あのことを根に持っているに違いない。

私は咄嗟にソフィアや彼女らから距離を取り、魔法の杖を構える。


すると彼女らはこちらへ向かって歩いてきて、あっという間に囲まれる。

あぁ終わった、ボコボコにされる。というか殺される。

ソフィアはいい人だと思って信用してたのに。


「エマ、お願いがあるの」


無表情で羅列された言葉。さっきも聞いたよ。

私はこの後に紡がれる言葉を無意識のうちに考えていた。

消えて、出て行け、彼らに関わるな。

こんなところだろうか。そう言えばソフィアもなんだかんだ彼らのことを目で追っていたし。


「貴方にしか頼めないわ」


心臓の鼓動を嫌なほど感じながら構えた杖にゆっくりと魔法式を移す。

もちろん打つのは打消し魔法レセプテイト。いつかかってきてもいいように彼女らの手元をしっかりと見つめる。

囲まれてしまっているため全方位から同時に攻撃されるとほとんど勝ち目は無いのだが、そんなことも考えられないくらい、私は焦っていた。


ソフィアがもう一度息を吸うのを見て、自分の背中から冷や汗が伝ってくるのが分かる。

やっと自分で歩き始めたところなのに。

私は、こんなところで死ぬわけにはいかない。


「私たちに……ネタを提供して欲しいの!」


「……は?」


ソフィアが頭を下げたのを見て、他の生徒たちも一斉に頭を下げる。

え、なに?ネタ……?

何のことですか?

全く身に覚えが無いのと息を吐くように毎日私の悪口を言っていた彼女らが私に向かって頭を下げているということが理解できない。


呆気にとられて何も言えずに立ち尽くしていると、1人の生徒が目の前に向かってくる。

先ほど目が合った彼女だ。後ろにはあの時の取り巻きの女の子たちもいる。

殴られる覚悟で私は彼女たちをまっすぐに見つめた。

彼女が動いたのを見て殴られると思った私は咄嗟に目をつぶって手を前に出した。


ところがいつまで経っても衝撃は襲ってこない。

私は恐る恐る目を開けた。


「あの時はごめんなさい!」


彼女もその取り巻き達も、揃って深々と私に頭を下げている。

私は驚きを通り越して冷静になった。

これはきっと裏があるに違いない。ネタというのはよく分からないけど、きっと弱みを握ろうとかそういうやつだろう。


「許さなくて結構よ!わたくし達はそれだけのことをしたんだもの!庶民の貴方がセドリック様やエドガー様と楽しそうにしているのが気に食わなかったの。最初は成績だって最下位だったのに、いつの間にか順位を上げて」


「貴方を階段から落としたのもわたくし達なの!貴方が予選会に出られなくなればいいと思って……」


「その後も予選会に出ず団体戦のメンバーに選ばれた貴方に嫉妬して、ひどいことをしたと思っているわ」


「貴方が優勝できたのもきっとあの方々に教えてもらったせいだと思い込んで、貴方に聞こえるように悪口を言ったわ」


階段の件もやっぱり貴方がただったんですね。まぁ特に今更驚いたりもしないけど。

それにしてもどうしてソフィアは私をここに呼んだのだろう。

この人たちが罪悪感に苛まれて許してもらえなくても謝りたいなんて人間には到底見えないのだが。


「彼らの瞳にわたくしたちが映らないのは辛かった。だからわたくし達は貴方に嫉妬していた。けれど私たちは気づいたの。……いいえ、気づかされたの」


「「女神であるソフィア様に!!」」


彼女らだけでなく、私を取り囲んでいた女の子たち全員が口を揃えて叫んだ。

女神?え、新手の宗教でも始めたの?

呼ばれた当の本人は自慢げに微笑んでいる。

……状況が全くつかめないんですが。


「彼らの素晴らしさは彼らだけのもの。わたくしが立ち入ってはいけない聖域」


「私たちは彼らを陰から眺めていたい。そう、壁のように」


「わたくし達は彼らのもたれる壁になりたい。いいえ、彼らの纏う空気になりたいの!」


何言ってんだこの人たち。


「私のしたためていた小説を彼女たちに読ませたの。そしたら思いのほか大好評でね」


図書館にある本に比べて厚みのない本。

何故か見慣れた表紙やタイトルの雰囲気。間違いない。

これは……異世界版薄い本!


「魔法競技大会の影響もあって評判が広がって、今やファンは学内に留まらないわ」


私を囲む彼女らは一斉に自分のお気に入りの小説を見せてきた。

え、いったい何冊書いたの?

よく本人たちにバレなかったね。


よく見ると彼女らの本のレパートリーは、ソフィア1人が書いたとは思えないほど豊かだった。

エドガーとセドリック。セドリックとアクア。アルバートとエイドなどなど。

私は彼女に抱いてきた謎がここで一気に解けた気がした。


どの世界にも腐女子っているんだなぁ。

まぁ小学生の時から腐ってた妹の書いた本と比べたら健全な内容ではあるけど。

妹元気かな、そう言えば今度のイベントの売り子頼まれてたのに手伝えなくてごめん。


「……ちょっとエマ、聞いてるの?」


「あ、すみません」


「でね、これを学外の子たちに届けるために今度の総合文化祭の模擬店で販売しようと思ったんだけど、新刊のアイデアが出なくて困ってるの。それで貴方にこれからネタを提供して欲しいの」


「え?私ですか?」


「アクア先輩以外は生徒会にいるじゃない。私に彼らの普段の様子を話したり写真を撮ってきてくれるだけでいいの。お願い!」


いやいや、そんなこと言われましても。

周りの生徒も「ソフィア先生の新刊が読めないなんて嫌!」と頭を下げている。

プライドの高いご令嬢たちが私に何度も頭を下げるなんて、BLと言う文化はすごいなと感心する。

まぁ実際言語の壁を越えて人気だったし、世界の壁を越えてもおかしくはない、のか?


「でもそんな盗撮みたいな真似……」


アニメやゲームのキャラならともかく、自分を対象にされていると知ったら、彼らもいい気持ちはしない気がするし(エドガーは飛んできそうな気もするが)やっぱり勝手にやるのは気が進まない。


「もちろんタダでとは言わないわ。報酬はもちろん支払うし、ネタの内容によっては追加の報酬も……」


「引き受けます」


貴方エドガーに似てきたんじゃない?と笑うソフィアに心外ですと返して私は図書室を去った。

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