生徒会始動
「おめでとうございます」
「貴方のおかげですよ。エマさん」
あの時はありがとうございましたと頭を下げられる。
立ち会い演説から1週間。イレナ・エリーチカが無事意識を取り戻し、改めて投票が行われた。
そして見事エドガー・ルイスは2年連続生徒会長に就任することになった。
久しぶりの生徒会室。
選挙期間中は物がなくガランとしていたが、就任からわずか数日で生徒会室は書類の山と化していた。
私が呼ばれた理由は他でもなく私を生徒会役員に指名するためだろう。
魔法競技大会の時から約束していたものだが、生徒会役員になるのは学校の推薦をもらう上で確実に有利になるのでありがたい。
「わかっているとは思いますが、今日貴方を呼んだのは生徒会役員に貴方を指名するためです。僕は生徒会副会長の席を貴方に任せたいと考えています。お引き受けいただけますか?」
断る理由などない。
私は二つ返事で「お引き受けします」とお辞儀をした。
そう言えば彼に見せるのは初めてだったかもしれない。交換留学中アメリアに鍛えられたカーテシーにエドガーは目を見開いていた。
この世界において礼儀やマナーは少し知っておくだけでも全然違う。
スパルタだったけど頑張って良かった。
「それと、他のメンバーも紹介します」
え?他のメンバー?
ノックと共に聞いたことのある声が聞こえる。
「同じく副会長のセドリック・バートン君と外務のアルバート・グレンジャー君です」
入ってきたのはセドリックとアルバートの2人。
確かに2人共優秀なので生徒会役員にと言うのは理解できるが、てっきりエドガーは生徒会にあまり人を入れたくない人だと思っていたので正直驚いた。
「よろしくね、エマ」
「まぁ頑張ろうぜ」
「うん。こちらこそよろしく」
軽く挨拶を交わすと、早速エドガーは最初の仕事だと言って大量の資料を指さした。
「これは昨年度までの論文コンテストの資料です。論文コンテストは知っていますか?」
論文コンテスト。アメリアが次は論文コンテストで会おうと言っていた。
ただ詳しいことは分かっていない。
「論文コンテストとはスターズの5校から代表がそれぞれ魔法研究の成果について発表する場です。既にウィンチェスターでも代表者選考のための論文の募集を始めています」
会場は毎年順番にローテーションとなっていて、今年の会場はクリスタルカレッジだという。
ついこの間までクリスタルカレッジにいた身としてはなんだか変な感じだ。
「我々生徒会の仕事は代表者の選考と当日運営の手伝い。だけのはずだったのですが……」
エドガーはため息をついて頭を抱えた。
「今年からは論文コンテストに加えて、総合文化祭を開催するそうです」
「総合文化祭?」
「各校の紹介ブースや模擬店を行い、論文コンテストは総合文化祭のイベントの1つとして扱われるそうです。そして総合文化祭の参加にあたり、学校として最低でも紹介ブースの作成と劇の舞台発表が必要とのことで……」
え?劇?
劇ってホントに文化祭でよくあるあの劇?
「劇の舞台発表は学校対抗で30分程度の劇を上演し、1位の学校には賞金が贈られるそうです。紹介ブースの作成は受験生の勧誘も兼ねて学校側が請け負ってくれることになっていますが、コンテストの代表者の選考と劇については僕たちがやらなければなりません。唯一救いなのは今年の開催校が当校でないことくらいでしょうか」
その他模擬店などの申請があった場合の手続きなども私たちの仕事だそうだ。
コンテストの代表者の選考は教師も交えてエドガーがやってくれるそうだが、いきなり劇を作れだなんて私たちには荷が重い。
「もちろん生徒会長として、劇の総責任者は僕が務めます。君たち3人には、円滑に進めるためそれぞれ劇の内容、美術、音響の分野のスケジュール管理や人事を任せます。具体的には演者や脚本家などの募集やスカウト、他分野との連携など事務的な責任者としてです」
内容、美術、音響。
どうしよう1つも出来そうなものがない。
そもそも私人脈もないしむしろ嫌われてるから結構詰んでない?
「俺演劇部の知り合いとか多いし、内容やろうか?」
「じゃあ僕は美術かな?衣装とかの話は割と分かるしね」
アルバートとセドリックはそれぞれ自分が出来そうな分野について話し始めた。
2人が内容と美術行くなら残るのは音響?
私なんか楽器弾けるくらいで知識とか全然ないんだけど。
でもそれはどの分野でも同じなので、私は残った音響を担当することとなった。
音響担当の仕事は主に当日劇で使う楽曲の製作と演奏者の確保。
今回の劇で使う楽曲は全て自作の曲でなければいけないという規定があるので、まずは作曲家と探さねばならない。また、聞けばこの世界の劇はオペラのような形式が主流らしく、曲も録音ではなく生演奏なので指揮者や演奏者の確保がいる。
必要に応じて作詞家や音響監督が必要だが、ひとまず作曲家と演奏者及び指揮者の確保が優先だ。
幸いにもこの学校には音楽や楽器をたしなんでいる人間が多いので必要な人材が居ないということは無いだろう。協力してくれるかは分からないけど。
しかし募集と言ってもどのような形で行えばいいのだろうか。
演奏能力の確認のため一応オーディションのようなものは必要だと思うけど、私はそこまで楽器に詳しいわけではないので正直選ぶ自信がない。そもそもどのような曲を作るかによって必要な楽器も人数も変わってくる。
そうなるとまずは作曲家だろうか?
でも作曲家ってどうやって探せばいいんだろう。
「あぁ、作曲なら彼に頼むといいですよ」
エドガーにいい人が居ないか尋ねてみると、間髪入れずに彼しかしないと言い放った。
エドガーにそこまで言わせるなんて、その人は余程すごい才能を持った人なのだろう。
声を掛けに行くため学年を教えてもらおうとすると、今は学校に居ないと言われた。もしかして研修中の4年生だろうか。
私が考えていたことが分かったのか、エドガーは笑って貴方と同じ1年生ですよと言う。
1年生?4年生ではなく?留学にでも行っているのだろうか。
「もうすぐ戻ってきますよ。停学が明けるので」
え?




