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暴走

最後は立候補者による公開討論会。

これが終わるとすぐに投票となる。

お互いの主張に対し、質問や反論をし議論を交わす。


正直今の会場の空気感では余程のことが無い限りエドガーの当選は堅い。

司会のアナウンスに合わせてまずはイレナが主張する。主張している内容は先ほどのスピーチと同じだが、先ほどまで慎重だった言葉選びが若干雑になっているような気もする。


対してエドガーは落ち着いて質問をし、自分の主張を織り交ぜる。

イレナも十分な答えを返しているが、これで逆転を狙うのは難しいだろう。


『続いてはエドガー・ルイスの主張に移ります』


エドガーも先ほどと同じような内容に、より具体性のある主張をする。

完全にエドガー側の会場ではその主張を聞いて拍手や歓声を上げるものもいた。

イレナや一部の熱狂的なイレナ派は悔しそうにそれを見つめている。


『続いてイレナ・エリーチカより質問及び反論の時間となります』


エドガーがマイクから少し離れたところに立つと、イレナはそれを見ながらマイクの前に立つ。

先ほどまでの優雅な歩き方とは打って変わって、なんだかどんよりとした空気を纏っている。


「……、……のに……」


彼女の言葉はマイクを通しているはずなのに上手く聞き取ることが出来ない。

先ほどのクリアな聞き取りやすい声ではなく、ひたすらブツブツと小さな声で呟いている。

明らかに様子がおかしい。

それに気づいた前方の客席からどんどんと不安と動揺と心配の声が波のように伝播する。


「わたくしは、アスカニア王家の血を引く侯爵家の令嬢なのに……実力だってちゃんとありますわ!!」


彼女の叫びと共に会場が凍っていく。

マズい。

そう思ったのは私だけではなかったはず。


しかし、誰にも止めることは出来なかった。

気付けば講堂内は氷漬けになっていて、私たち観客も脚元から凍り始めていた。


「わたくしはルイス家に軽んじられる存在ではない!わたくしだって、ウィザードシューティングで優勝できたのよ……わたくしだって」


彼女はもう周りが見えていない。

ずっと1人で一点を見つめながら泣き叫んでいる。

信じられないほどの魔力。


これは間違いなく魔力の暴走だ。

私たち魔法師は、無意識のうちに自分にリミッターをかけていて、どんなに全力で魔力を使っても生きるのに必要な魔力は必ず温存している。

しかし、今の彼女はそれが外れてしまっている状態。


リミッターが外れているとはいえ、講堂全体を氷漬けに出来るというのはそれなりの実力のある証。

しかし、恐らく彼女は既に魔力をかなり消費している。このまま暴走を続ければ間違いなく魔力欠乏症で倒れるだろう。


魔力欠乏症とはその名の通り体内の魔力が著しく低下してしまう病気の事で、最悪の場合死に至ることもある。以前クリスタルカレッジでの発表の時にメアリも説明していたが、現段階での根本的な治療法は確立されていない。暴走を続ければいずれ魔力は尽きる。魔法師にとって血液のような魔力が全てなくなるということは、それはもう死ぬという事。


魔力が尽きる前に暴走を止めなければ彼女は助からない。

しかし皆、見ているだけで何もしなかった。いいや、出来なかったと言った方が正しい。


講堂全体を覆うだけの魔法を止めるには、それと同等かそれ以上の魔力が必要だ。

補欠とはいえ選手に選ばれた実力者。

リミッターが外れた今の彼女の魔法を覆すのは容易なことではない。

下手に止めようとすれば、自分の命が危うい。


身動きが取れなくなり混乱する会場で、私は舞台の上のエドガーを見た。

彼とその隣のセドリックは非常事態が起きているとは思えないほど落ち着いていた。

彼女の近くにいる彼らはもうほとんど凍っていて顔と指先くらいしか動かせないようだったがその状態でも平然と2人で何やら会話をしている。その様子を眺めていると、不意に2人と目が合った。


エドガーがこちらに対して何かを言っているが、混乱する会場の喧騒で聞き取ることが出来ない。

首をかしげていると、セドリックが私に向けて杖を振る。

すると私を覆いかけていた氷は解け、解放される。


どうして私に。そう思ったけれど、その理由はエドガーを見ればすぐにわかった。

彼は私が聞こえていないのを知ってか、口パクでゆっくりと「貴方なら止められるでしょう?」と言った。


確かに、打消し魔法を使えばわざわざ氷を溶かすことなく元の何もない状態を上書きできる。

けれどこんな大規模な魔法に対して使ったことは無いし、正直やりたくない。

レオンみたいに世話になったわけでも無いし、この子が死んでも私は関係ないしなぁ。むしろ私を排除しようとしている人間は消えてくれた方が、と自分に言い聞かせて見たが、私には他人の死を見過ごす度胸は無かった。


成功しなかったら、きっと無事では済まない。

成功しても、私が魔力不足に陥るかもしれない。

だけど仕方ないじゃんね。助けられるかもしれないんだから。


私は立ち上がり、杖を彼女に向けて集中した。

私の持つ魔力を杖の先へと流すイメージを固める。


「レセプテイト」


届け。

私の杖の先から出た光が彼女にぶつかる。

すると、彼女は力が抜けたように意識を失って倒れこんだ。それと同時に講堂を覆っていた氷が消え、私たちを覆っていた氷も嘘のように消え去る。


どこからともなく沸き上がった拍手が恥ずかしくて立ち上がっていた私はすぐに座って顔を下げた。

エドガーや先生たちによって彼女は運ばれていく。

すぐ近くの大きな病院に搬送されるそうだ。

ギリギリ最低限の魔力くらいは残っているはずだから命に関わることは無いと思う。


選挙どころではなくなってしまったので、選挙は中止となり私たちは投票をすることなく自室に戻るよう指示された。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

これにて生徒会長選挙編は終了となります。

次回からは総合文化祭編へと移行する予定です。

(魔法競技大会編より長くなるかもしれません)

是非お付き合いいただければ幸いです。


そして、総PV数が2万PVを達成いたしました!

皆様本当にありがとうございます。これからも面白いお話をかけるように精進してまいります。

しかし沢山の方に読んでいただける一方、反応が無いと不安になってしまいます。

もしよろしければ、ぜひ!

ブクマ、評価、感想お待ちしております。


総合文化祭編は相当長くなりそうなので、もしかしたら前編、後編に時期を分けて投稿するかもしれません。只今鋭意執筆中ですが、全く知らない分野を勉強しながら書いているのでかなり苦戦しております(笑)

新キャラも登場しますので、どうぞお楽しみに!

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