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演説

置いておく?不正をわかっていて見過ごすという事だろうか。

静かだったVIPルームが再びざわめきだす。

エドガーは再び手を上げて場を制した。


「負けた原因が分かってホッとしました。この理由なら僕が負けることはありません」


エドガーは自信たっぷりにそう言い切った。

あまりにも自信たっぷりに言うので誰も反論することが出来ない。

もう時間も時間だということで、エドガー陣営は明日に備えて解散ということになった。


私も色々と気になることはあったが、聞きに行ける雰囲気でもないので大人しくそのまま寮へと戻った。


ー---------------

『ただいまより立ち会い演説会を始めます』


講堂に全校生徒が一堂に集まる。

普段は学校にいないことが多い4年生もこの日ばかりはみな出席していた。

この学校において生徒会は絶大な権力を持っている。

任期は1年なので来年4年生になる3年生は出馬せず、1年生と2年生が立候補の対象だ。


信任投票だった昨年度に比べ、今年は朝からかなり盛り上がっているという。

この日は授業がなく、午前中の演説の後投票が行われ、午後に選挙管理委員会による開票作業の結果が発表される。


ほとんどの生徒たちは缶バッチがブレスレットのどちらかを付け、既に意思を表明している。

最初はほとんどエドガー派だったのに、今日は缶バッチを付けている生徒の数がかなり多い。

6割買収したのだから当然と言えば当然ではあるが、それでもやはり驚いてしまう。


私は講堂の前の方の席に座った。

ステージの上に座っているエドガーや応援演説のセドリックと目が合う。

私は口パクで頑張ってと伝えた。みんなと違って今までほとんどサポート出来なかったし、今日くらいは応援しよう。


立ち合い演説が始まると、まずはイレナの応援演説が始まる。

応援演説をしているのがあのカミラだったので少し怖かったが、内容はイレナ自身の事であったり学校の伝統についてなど無難にまとめてきていたのでほっとした。

彼女が話し終わると、次はイレナの番。

何を言うのかとヒヤヒヤしたが、買収のこともあり攻める必要がないのか思っていたよりもかなり大人しい演説だった。


その後のセドリックの応援演説も滞りなく終わる。

特にセドリックは女子からの人気が高く、少し微笑めば必ずどこかで悲鳴が上がっていた。

ずっと私を見ながら話していたのは気のせいだと思いたいけど……


『次は生徒会長候補エドガー・ルイスによる演説です』


拍手と共にエドガーが立ち上がる。

彼はマイクの前に立ち、生徒をまっすぐ見据える。


「この度生徒会長に立候補しました、エドガー・ルイスです。僕は昨年度の生徒会選挙において、学校の中での平等を実現することを公約にしていました」


彼は会場をゆっくりと見回し、深く深呼吸をした。


「皆さんは平等とはどうすれば実現できると思いますか?」


その問いかけに聴衆は意図せず自分で考える。


「僕はそれをこの1年考え続けた。それで出した答えがこうです……後から変えられるもので評価する」


純粋に上手いなと思った。

聴衆に考えさせる間を取りながら、答えを導き出す前に言ってしまうことであたかもそれが正解のように感じる。話にどんどん引き込まれる。


「生徒会長には様々な権限があります。多くの行事における代表選手の選考、部活の費用の決定などなど。今までの生徒会の判断基準には必ずこう書いてあります。『選考において同率の評価の場合、身分による選考を行う』魔法競技大会においては、侯爵家以上の出身の者に特別枠が用意されていました」


過去に連続優勝が止まったのも、その年は出場を望む侯爵家以上の家柄の者が出場枠の過半数を占めたからだという。もちろん身分が下の者が上の者に逆らうことは誰も言わないが、その制度自体をおかしいと思っている人間がいるのも事実。


「後から変えられるもので評価するというのは、家柄や身分、性別といった生まれたときから選べず変えることの出来ないものではなく、それぞれが努力次第で伸ばすことのできる、勉学、スポーツ、音楽、芸術などの観点において正当に評価することです」


正直、すべてを平等に評価するのは不可能だ。

何故なら皆同じにするということは、それぞれが持つ個性や感性を潰してしまいかねないことだから。


「もちろんこれにも才能というものは存在します。しかし、それは何であっても同じです。選手を抽選で決めても運のいい人は有利なのですから」


会場からクスクスを笑いが起こる。

もうこの段階で、聴衆はエドガーの話に釘付けだった。


「だからこそ努力次第で変えられるものを評価することが平等につながると考えました。よって僕が生徒会長になったら、これまでと同じ、それ以上に実力で生徒を評価していきます。役員や選手も全て、それを担うだけの実力が伴えば学年や経験が無くても大丈夫です」


そう言った瞬間、一部の生徒の目が輝きだした。

まだ活躍の場が少ない1年生や比較的身分の低い層の生徒たちだ。


「そして平等であるための制度作りも僕の仕事だと考えています。生徒の中には様々な事情があり十分な学校生活を送るだけのお金が不足している生徒がいるのも事実です。今後はそう言った生徒に対し、寄付金の免除や奨学金の交付を行う予定です。校内のカフェ・ウィーブルは僕が創設したものですが、人件費や諸経費を差し引いた売り上げの7割を今後そう言った奨学金などに充てます」


バッチを付けていた生徒のうちの何割かが、バッチを外し始めた。


「僕は皆さんが充実した学校生活を送るための環境を保証します。皆さんはそれぞれの分野で思い思いに学び能力を伸ばしてください。この学校で過ごす4年間は、皆さんにとってかけがえのない4年間なのですから」


彼が両手を大きく前に出し、にこやかに言い切ると座っていた生徒たちは続々と立ち上がって拍手をする。ブレスレットを付けている生徒だけでなく、バッチを付けていた生徒たちも。


学校の立ち合い演説でスタンディングオベーションなんて初めて見た。

満足そうに自分の席へと戻って行くエドガーには圧倒されっぱなしだ。

序盤は完璧な間と問いかけで聴衆を引き込み、中盤から終盤にかけては巧みな声の抑揚とボディーランゲージでさらに聴衆を引き込み、具体的な案でイレナに買収された生徒たちをこちら側に引き戻す。


言葉は武器だ。

誰かが言ったその言葉が頭の中にこだまする。

ほぼ敵側だったはずの聴衆を、たった数分のスピーチで味方にしてしまった。


鳴りやまない拍手にイレナとその隣のカミラが焦っているのが見える。

この様子だと、買収したはずの票は半分も集まらないだろう。

当然だ。この1回のために今後の可能性を失うか、その場限りの現金を捨てて明るい未来に賭けるか。そもそも投票は匿名なので誰が誰に入れたかなんて分からない。

そんな不確定な中で、本当にお金は支払われるのか。弱みをバラされたりしないのか。


イレナが勝たない限り、きっとそれらが叶うことは無い。

会場の空気は一変し、完全にエドガーの空気になっていた。


『最後に立候補者同士の討論会を行います』


そして、最後の勝負が始まろうとしていた。


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