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パーティー……?

かけていたスマホのアラームで目を覚ます。

どうやら寝ていたらしい。

時刻は5時ちょうど。パーティーは6時30分からなので、そろそろ準備をしなくては。


「よし」


シークレット・ポンフリー。前にセドリックと行ったブティックで限られた人しか着ることのできない超高級店。変に目立ちたくなかったのでもう少しリーズナブルな店でオーダーしようと思っていたが、他の店でオーダーすると、サイズを測りなおしに行かなければいけないので仕方なく。そのためだけにアスカニア王国に戻るのも面倒だし、クリスタルカレッジ周辺のお店は他の生徒たちの予約でいっぱいだった。使う機会が無くてお金が有り余ってたからちょうどいいっちゃちょうどいいんだけど。


出来るだけシンプルにとオーダーした甲斐あって、シンプルながらも品のあるドレスに仕上がった。

深めの青を基調としたAラインのフルレンクス。踊りやすいようトレーンは短く、ラメやフリルを使わない分アクセントにパールが配置され、軽めのレースを付けることで重たくならないように工夫されている。


魔法で髪をアップスタイルにセットしてアクセサリーを付けた。

流行りのイブニングドレスと比べるとそこまで露出は多くないが、私はこれくらいの方が落ち着く。

肩を出さないデザインのためグローブは省略し、シルバーの高いヒールのパンプスを履く。

レッスンの成果か、高いヒールを履いてもふらつくことは無い。


「一緒に送るとは言ってたけど、まさかこれを送ってくるなんて。正直めっちゃありがたいけど」


会場に入ると、カラフルなドレスで着飾った生徒たちで溢れかえっている。

これだけの参加者がいても白いドレスを着た生徒がいないのは、白はデビュタントでのみ着用する色だからだそう。この世界では卒業後のプロムまでは学校主催のパーティーにしか参加できない。

プロムが終わってからデビュタントを経て、やっと社交界デビューできるのだとか。


私はデビューしたいだなんて全く思わないが、他の令嬢からすれば社交界は憧れで、このパーティーは学生の自分たちでも参加できる数少ないパーティーであり、気合が入っているのが見て取れる。


私はこのパーティーの主役として最初に軽く挨拶をしなければならないため、前方のステージの方へと向かった。もう1人の主役であるメアリは先に着いていたようだ。


「セドリックは挨拶しないんですか?」


辺りを見回しても彼の姿はない。途中からとはいえ一応留学してきたんだし、私たちと同じく今日が最終日なのでてっきり彼も挨拶をするものだと思っていたんだけど。


「正式な交換留学生じゃないからしないって」


どうせ面倒なだけでしょとメアリがため息をつく。

正式かと問われれば私も違う気がするので出来るなら辞退したいんだけど。

そんな私の心情を見透かしたように彼女はこちらを見てニッコリと微笑んだ。


赤いマーメイドラインのノースリーブドレス。髪は巻いて右肩へ流している。

メアリのセクシーな魅力が余すことなく発揮されているが、グローブなしでかつマーメイドライン?

大丈夫なのかと思ったが、今日はドレスコードがあるわけでも無いし、周りの反応からしてもセーフなのだろう。


「君たち準備はいい?」


実行委員長のノエルが声をかけに来た。おそらくもうすぐ出番なのだろう。

緊張しながらも「うん」と答えると、ステージに上がるよう指示される。

学長のありがたい話の後にメアリの挨拶。

やっぱり離れしてる感がすごかった。


メアリの挨拶が終わると次は私だ。

この1か月間みっちりしごかれた動きでマイクの前に立ち、言葉を発する。


「緊張したー」


「やるじゃない。ちゃんと挨拶出来てたわよ?」


横で見ていたアメリアにそう言われた。

内心パニックだったけど、アメリア直伝の女優の表情管理方法は伊達じゃなかった。

表情だけでなく、声色や呼吸も管理することで堂々として見えるし、聴かせる挨拶になる。


一通り運営委員に挨拶を済ませると、私はすぐにレオンの元へ向かった。

セドリックが最初のダンスを踊ろうと言ってくれたので、それを断るのは心苦しかったが。


「御機嫌よう。レオン皇子」


ドリンクを片手に隅で他の令嬢たちをあしらっているレオンに、私は優雅に挨拶する。


「へぇ?見れるカーテシーになったな」


そうだろうそうだろう。

私がこのカーテシーにどれほど苦労したことか。

カーテシーとはくらいの高い人に対して女性が行う挨拶のこと。初対面の印象に大きくかかわることや今回だけでなくこれからも絶対必須になることもあって、礼儀のレッスンでまず初めに覚えさせられた。


片足を斜め後ろに引き、もう片方の足の膝を軽く曲げながら背筋を伸ばしたままお辞儀をする。

これをふらつかずに背筋を伸ばしたまま出来るようになるまで、いったいどれだけかかったことか。

私のグラグラの見ていられないようなカーテシーを知っているレオンはからかい半分で褒めてくれる。


「私に貴方と最初のダンスを踊る名誉をくださいませんか?レディ」


手の甲にキスしながらそう丁寧に言われると、交流パーティーぶりに女性扱いをされたのでなんだか癪だが照れてしまう。しかしラッキーだ。これで違和感なくレオンの近くに居られる。

私はこれ幸いとダンスを承諾し、エスコートされながら中央へと移動した。


中央には既に何組か居り、私たちは空いているスペースに移動して曲が始まるのを待つ。

しばらくすると、実行委員のノエルの指示で、オーケストラによる曲の演奏が始まる。


1曲目は踊りやすい3拍子のワルツ。

レッスンで嫌と言うほどレオンと踊った曲。私がリクエストしたものだ。

見られることへの緊張はあるものの、体で覚えた軽快なステップは私の意識とは違い、いつも通りの動きを見せている。


「ほら見ろ。皆お前を見てる」


「いや、あれはレオンを見てますよ」


先ほどまでレオンを取り巻いていた女子生徒。

純粋に羨ましいと思う気持ちと妬ましさの半分半分の目でこちらを見つめている。

他にも何組か踊ってはいるが、妙に視線が集まっている気がする。

一応主役とこの国の皇子が踊ってるんだもんな。当然と言えば当然だ。

ダンスのレッスンしてもらってほんとに良かった。


「エマ。僕とは踊ってくれないの?」


1曲目が終わると、すぐにセドリックが駆け寄ってきた。

踊って親密度を上げるようなことはしたくないんだけど、仮にも公爵家の令息だし、無下には出来ない。彼がその気になれば私なんてどうとでもなるような存在。まぁそんなことはしないだろうけど。


仕方なくそれを承諾し、再び中央へと戻る。

レオンはヨハンやノエルと一緒にいるし、見えるところに居れば大丈夫だよね。

曲は最近流行りのタンゴ。

社交ダンスの種目にあるのは知ってたけど、実際の社交界でも踊るんだなと驚いた。

なんでもパーティーなどで踊られるようになったのは最近なんだとか。


華やかさを表現し、まさに見せるダンスといった感じ。

ステップやらタイミングやらが難しいけど、セドリックのリードが上手いこともあってかなり踊りやすい。セドリックは普通に授業を受けていたため、練習はほとんどレオンと行っていた。

レオンのリードに慣れすぎて、他の人とは自信が無かったけどセドリックが配慮してくれていることもあって、やりづらさは全く感じなかった。


2曲目が終わると、知らない男子生徒に囲まれる。

どれもダンスの誘いだったが、これ以上レオンのそばを離れるのは怖いので、疲れてしまったことにして丁重にお断りした。


「随分レオンのこと気にしてるね。どうして?」


レオンの元へ向かおうとすると、セドリックに引き留められた。

ダンス中にレオンの方ばかり見ていたのがばれてしまったらしい。


「レオンのことが好きになった?僕じゃダメ?僕はずっと君を見てきたんだ」


え、何この展開。

マズくない?なんかセドリックの様子おかしいし。こんなキャラだった?


どうしようかと思っていると、少し遠くにいるレオンに1人の給仕がドリンクを運んでいるのが見えた。絶対あれだ。

私は何故かその時確信してしまった。

何故って?だって、その給仕のポケットに魔法の杖らしきものが入っていたから。


学校におけるパーティーの給仕は基本的に、学校内の清掃や管理の専門の業者に給仕の求人を出して募集する。魔法がすべてのこの世界において、魔法という特別な力を認められたものは基本的に魔法師か研究者、教師や役人などの職に就く。ほぼ日雇いの給仕の仕事なんてするはずがない。

そもそも魔法の杖は、魔法学校の学生か専門のライセンスを持つもの以外は所持が禁止されている。


「はぁー!喉乾いちゃった。レオン、これ貰ってもいいですか?」


私はセドリックを無視し、レオンの元へと急いだ。

明らかにマナー違反のその行為に、レオンを始め周りにいたヨハンやノエル、メアリやアメリアまでもが驚いている。


「別に構わないが?」


何かあると確信したレオンは、ニヤニヤしながら私に許可を出す。

ニヤニヤしてるけどな、私は今お前の命を救ってやってるんだぞ?なんて心の中で悪態をつきながら渋る給仕からグラスを奪い取る。


「……やっぱりね」


嵌めていた指輪をグラスの中に落とし誰にも聞こえないような声で呟いた。

ドレスと一緒に送られてきた指輪。エドガー達から送られてきたものだが、それが何なのか私にはすぐわかった。中央に嵌めてある赤い石はサンゴ石と呼ばれる指輪。

人魚に関するものに反応し、青く光る。


本来は昔奴隷として高値で取引されていた人魚が魔法によって変身したものでないことを証明するための物だった。本来は血を垂らして確認するが、体の一部である人魚のうろこが入っていれば、当然石は青くなる。


そして今、指輪の石は青くなっている。


私は偶然を装ってグラスを地面に落とした。

不自然でも何でもいい。この人魚のうろこは飲みさえしなければそこまで有毒ではないのだから。

給仕の表情を見るに、予備の毒は用意していないのだろう。まぁ当然か。人魚のうろこは学校でも厳重に管理されているし、自分で買うにもかなりの手間がいる。1枚入手するのにもかなり苦戦したはずだ。


一件落着かな。

と安堵した瞬間、後ろから強力な魔力を感じて、反射的に横にいたレオンを庇うように抱き着いた。


「危ない!!!」


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