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正反対……?

「メアリさんは?」


「メアリ先輩は魔法薬学の研究室。花粉の実験結果が出たんだって」


私は今日もアメリアと禁書の棚の本を読んでいた。

といってもメアリの結果が出るのなら、無理をして禁書の棚のレシピを使う必要もないので、今日は特にこれといった目的もなく気になる本をパラパラとめくっていた。


魔法界における3大禁忌について。

うわ流石禁書の棚。禁忌についても丁寧にやり方が書いてある。

やり方自体はそこまで難しいものでもないけど、やっぱり危険なのだろう。


「そう言えばゲームの力を止める方法、見つかった?」


「全然。ここまで来ると、元の世界に帰るほうが現実的な気がしてきたわ」


まぁ私多分向こうじゃ死んでるけど、なんて笑いながら言う彼女に私も苦笑いを返した。

ゲームのシナリオを進めないためには第一に登場人物と出会わないこと。

これはもう既に出会ってしまったためアウトだ。

次にゲームのイベントを発生させないこと。

これも防ぐのは難しい。そもそもゲームと全く一緒でなくてもイベントに近いものは発生してしまうんだから。


「今出会ったのはセドリック、エドガー、アルバートの3人よね?」


「うん」


「その中で私が出会っているのはセドリックだけ。だからセドリックルートでシナリオが進行し始めている」


もう最初のスチルはゲット?しちゃったし、それは間違いないだろう。

交換留学が終わればシナリオもストップするかと思ったが、やっぱりその考えは甘いと言わざるを得ないだろう。アメリアにその場に居なくたって悪者に仕立て上げられることが無いとは言えない。

それに今までの感じだと、私の恋愛感情に関係なくお話は進んでいく。


「一体どうすれば……」


「いっそのこと全員と出会ってしまった方がいいかもしれないわね」


「え!?」


「今出会っているのはセドリックただ一人。でも5人全員と出会ってしまえば誰とのルートになるかは決まらないはずだし、上手くいけば全員とそれなりの距離を保てるかもしれない」


うーん。そんなに上手くいくかな。

でも現状そうするほか策が無いのだから仕方ない。

でもどうやって出会うの?アメリアがクリスタルカレッジにいる以上は無理じゃない?


「会えるとしたら今度の論文コンテスト。少なくとも何人かは会場に見に来るはず」


「論文コンテスト?」


「スターズで毎年行われる論文コンテスト。発表するのはほとんど4年生だけど、希望者は見学することが出来る。少なくともエドガーは来るでしょう」


へぇーそんな大会があるんだ。

皆どんな研究してるんだろう。私もちょっと見に行きたいかも。


ゴーンゴーン


「あ、もうこんな時間。ランチ行きましょうか」


「うん」


昼休みの合図とともに私たちは食堂へ向かった。

私たちが着いたときにはまだあまり人が居らず、いつもの隅の席に座って日替わりワンプレートランチを注文した。


「やぁエマ。お疲れ」


「セドリック」


ランチを食べていると授業終わりのセドリックがやってきた。

授業が終わってそのまま来たのか、腕には実験用の白衣がかかっていた。

それにしてもクリスタルカレッジの制服が似合う。やはりイケメンは何を着てもイケメンなのだろうか。軍服のようなかっちりしたデザインだが、セドリックが着るとそこまで堅苦しくは見えない。


「アメリアさんもこんにちは」


「こんにちは。魔法薬学を受けていたんですか?」


「いや、錬金術だよ。今日はエメラルドの錬成だった」


確かそれ夏休みにやったな。ダミアン先生に教えてもらったんだっけ?


「君たちはいつも通り図書室?」


「うん」


他愛もない話をしながら3人で食事をとる。

食べ終わるとセドリックはすぐに次の授業の準備があると言って立ち上がった。

私たちも午後はレッスンをする予定だったので、自室で着替えてからボールルームに向かった。


「私が言うのもなんですけど、レオン授業でなくて大丈夫?」


「俺はいいんだよ。ちょっとやそっとサボったくらいで単位は落とさない」


ちょっとやそっとってレベルではないと思うんだけど……

レオンは毎日ダンスの練習に付き合ってくれている。

流石皇子というだけあって上手いし、教え方もわかりやすい。最初こそ足を踏んだりして嫌味を言われていたが、段々と踏むこともなくなって今ではちょっとだけダンスを楽しいと思えるようになってきた。


流行りのアップテンポは難しいが、スピードやタイミングになれてしまえばリズムに乗りやすく思っていたよりも踊りやすい。この1ヶ月でだいぶ体力もついて5曲くらい連続で踊っても息切れを起こさなくなった。


「エマ、良かったわ」


曲が終わるとアメリアからそう声を掛けられた。

え?今褒められた?多分初めて褒められたよね?


「まぁ及第点ってとこだな」


「ふふ、素直じゃないわね」


レオンのセリフにアメリアが笑う。

これはツンデレというやつなのだろうか。

良く分からないが2人にもお墨付きをもらえたところで今日のダンスレッスンは終了した。


恒例のアフタヌーンティーを楽しんだ後、私はメアリに呼ばれて魔法薬学の実験室へと向かった。

実験室は魔法薬学室の向かいの建物。

つい昨日のことを思い出してしまうが、出来るだけ思い出さないように平然を装って実験室に入る。


「あ、エマこっちー!」


中に入ると他にも何人か人がいたがそれを避けて、メアリのいる一番奥のスペースに向かう。

私はここに来る条件に専用の研究室をもらったけど、共用の実験施設ってこんな感じなんだ。

中心にたくさんの器具が置かれたスペースがあり、他は簡易の壁で区切られて1人ずつの個室になっている。個室には大釜や最低限の道具は揃っているが、それ以外の道具は中心のスペースに取りに行く必要があるようだ。


メアリのスペースに入ると、そこには大量のレピュタスが置かれている。

状態も種やつぼみ、開花後など様々だ。

私はそれらを一瞥してメアリに声を掛けた。


「お疲れ様です。コレ差し入れなんですけど……」


おそらく徹夜で作業していたであろうメアリにハーブティーとクッキーなどの焼き菓子の詰め合わせを差し入れた。

それを受け取ったメアリはちょうど休憩しようと思っていたところだったと、実験用の机の上を片付けビーカーでお湯を沸かし始めた。


あ、なんかこの感じ懐かしいかも。

中学の時昼休みなどに理科室に行くと、先生がビーカーに沸かしたお湯とティーバックを入れて紅茶を作り、ポテトチップスなどと一緒に持ってきてくれた。

どの世界でもビーカーでお茶を飲むのは一緒なんだなと思うとなんだかちょっと可笑しい。


「私が呼ばれたということは何かわかったんですか?」


「うん。魔力を溜めたり放出したりしてるのはこの花粉で間違いない。正確にはこの花粉に含まれる微量の鉱石」


「鉱石?花の中に?」


「正確には鉱石ではないんだろうけど、見た目は完全にそう。ほらそれ見て見なよ」


メアリが指さしたのは顕微鏡のようなもの。

私は促されるままレンズを覗く。

見えたのは花粉の粒子と、それに交じる青い石のようなもの。

なるほど、確かにこれは鉱石に見える。


「ソレ結構硬いのよ。圧力を加えても形が変わらなかった」


圧力を加えても形が変わらないほど硬くて、この見た目。

でもこんな鉱石見たことない。


「あとね。レピュタスは10年に1回しか咲かない花じゃない」


「え?でもだから希少な花だと……」


「育て方を間違えてるのよ。レピュタスを育てるには月光が必要。これは開花時だけでなく常に。そして月光以外の光に当てると開花が遅れる」


あ、そう言えばここの植物園では日中は絶対太陽の光に晒されるはず。

というかどこで育てようが特別意識しなければ、絶対に月光以外の光に当たるだろう。


「今月光だけで種から育ててるけど、この様子だと1ヶ月か2か月くらいで咲くと思う」


そんなにすぐに?

レピュタスの種自体は大量に出回っているものだし、育成方法さえ守れば大量生産が可能ということだ。それならエネルギー源としても使える。でも花粉に含まれるサイズでは到底足りないからやっぱり錬金術で作るしかない?

そもそも月光から魔力を吸収するならエネルギー源としては厳しいか。


「私の研究はあくまでレピュタスの研究。だからエマが求めてるものを一緒に研究してあげる義理は無いけど、可愛い後輩だしね。ちょっとだけアドバイス。私の考えでは、もう1つの花はこれと正反対の性質を持っているはず。まぁちゃんと研究したわけじゃないから絶対じゃないけど。相談くらいなら乗ってあげるから調べてみたらいいんじゃない?」


もう1つの花。

そう聞いて、私は急いで植物園に向かった。

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