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お出かけ……?

13時55分。

私は寮の噴水の前に立っていた。セドリックはまだ来ていない。

なんかすごく楽しみにしてるみたいじゃない?違うから!日本人は5分前行動しかできないんだよ!


心の中で悪態をつきつつ待っていると、寮の入り口に大きな馬車が現れた。

傷一つない黒の馬車。ドアの部分には何やら剣の入った家紋のようなものが描かれている。


「申し訳ない。待たせてしまったかな?」


ドアの中から出てきたのは私服を着たセドリックだった。漫画に出て来るようなその服装は、普通の人が着れば確実にイタイ人になるが、彼ほどの容姿になると何の疑問も感じないから不思議だ。それに比べて制服姿の私。いや、まともな私服持ってないから仕方ないんだけど。このイケメンの隣に並んで歩くなんて恐れ多すぎる。


そんなことを考えているうちに私は馬車に乗っていた。

エスコートが自然すぎて気づかなかった、怖い。


セドリックはずっとこちらをニコニコと見つめていて、何となく気まずくなった私は窓に視線を移した。学校から中心街までは思ったより近いらしく、すでに遠くに街が見える。ずっと思っていたのだが、この世界は科学技術の発展が遅いらしい。魔法に関する研究はとても進んでいるが、いや、進んでいるからこそ科学技術の発展が遅れているのかもしれない。移動手段は馬車だし、街灯は恐らく石油を使用したもの。イメージで言うと中世のヨーロッパのイメージに近い。魔法があるから不便を不便と感じないのだろう。


街に到着するとセドリックの手を借りて馬車を降りる。正直こういう扱いにはまだ慣れない。

セドリックにまず連れていかれたのは、ドアマンが立つ高そうな服屋。ブティックというやつだろうか。普通の大学生な私はもちろんこんなところ入ったことが無いので内心ビビりまくっていると、店に入った瞬間、奥からオーナーのような人物が飛んできた。シンプルだけど仕立てのいいドレスを着ていて、ザ・マダムといった見た目。


「セドリック様!ようこそお越しくださいました」


「マダム・ポンフリー。この子に似合う服を何か見繕ってくれないか?」


「はい!かしこまりました!」


え?私に?

まぁ確かに制服で横歩かれたらいやだよね。

にしてもマダム・ポンフリーってどこかで聞いたことあるような……


セドリックにいってらっしゃいと見送られて連れていかれたのは、明らかにVIP用のフィッティングルーム。そりゃ公爵家って言ったらまぁVIPだもんね。パーティー用のキラキラドレスとかだったらどうしようと身構えていたが、彼女が持ってきたのはスカートのふくらみの少ないシンプルなドレス。お出かけという事情を汲んでくれたようで、決して地味ではないが悪目立ちせず、洗練された美しいラインのドレスだった。髪や靴、メイクまでしてもらうと、元の容姿がそれなりに可愛いこともあいまって本当にどこかのお姫様のように感じられた。


「よく似合ってる。すごくかわいいよ、エマ」


また手の甲にキスをされると、顔に熱がこもった。今頃自分はきっと赤面しているんだろう。

だって仕方ないじゃないか、顔が良すぎるんだもん。

ちょっと気を抜けば惚れてしまいそうになるのだから乙女ゲームというのはタチが悪い。

元々来ていた服を紙袋に入れてもらうと、そのロゴを見て思い出した。

クラスの女の子たちが休み時間に話していた、限られた人しか着ることのできない超高級店、シークレット・ポンフリー。喋ったことすらない子たちだが、彼女たちだって貴族。一人は会話の中で、伯爵令嬢だと言っていた。伯爵令嬢ですら着れないドレスを今着てるの?


「あの、セドリック。私ドレス買うお金なんか……」


伯爵令嬢ですら買えないドレスを平民の私が買えるわけがない。借金をしても一体返済に何年かかるのか。考えたくもない。


「払わせるわけないでしょ?これは僕からのテストの順位が上がったお祝い。迷惑でなければ受け取ってもらえませんか?」


そう言われれば、もう何も言い返せない。その言い方はずるくないですか?

というか微笑まないでもらって。私の心臓が持たないです。


渋々引き下がると、マダム・ポンフリーが店からのサービスだと言って綺麗なネックレスをくれた。ドレスにも合うデザインだったのでそのままつけようとすると、セドリックに僕がつけてあげると言って私の手からネックレスをヒョイととった。

セドリックは私の正面に立って私の首に手を回す。抱き着かれるような動作に思わずドキドキしてしまう。……なぜ正面からつける。私は無心になるために頭の中でひたすら円周率を数えていた。


店を出ると顔の熱が冷めるようにとセドリックにバレないよう手で顔を仰ぐ。

少し歩くと、そこには小さいけれど、雰囲気のいいとてもおしゃれなカフェが見えた。

セドリックにエスコートされながら店に入ると、内装もさっきのブティックのようなラグジュアリーな空間ではなく、季節の花が咲き乱れ、天井のガラス窓から優しい日差しが差し込む温室のような落ち着く内装で、次はどんな高級店なのかと緊張していた私の心もいくらかは落ち着いた。


店員は二人しかおらず、若い夫婦が二人で始めたお店のようだった。二人ともとても物腰が柔らかく、私たちは店のおすすめだというアフタヌーンティーセットを注文した。

3段のケーキスタンドにはマドレーヌやクッキーといった焼き菓子をはじめ、マカロンやスコーン、4種類ほどのプチガトーが乗せられている。


大学の時も空きコマがあれば友達と奮発してホテルのアフタヌーンティーとか食べに行ってたなぁ等と思いながら、クッキーを口に運ぶ。

あ~美味しいー。サクッ、ホロッのマカダミア入りチョコクッキー。チョコが甘すぎないから重たくないし、何個でも行けちゃいそう。


「エマはほんと美味しそうに食べるね。見ていて飽きないよ」


そ、そうでしょうか。そんなこと初めて言われたんですが。

だってこのクッキー美味しいし。

セドリックがずっとこっちを見ているので若干気まずかったが、だんだん会話も弾むようになり、こっちに来てから初めて笑ったような気がする。

時間が過ぎるのもあっという間で気が付けば夕方になっていた。


奢ってもらってばかりで申し訳ないと思いつつ、かといってお金に余裕があるわけではないので結局セドリックの厚意に甘えさせてもらった。

それにしても手の甲へのキスはいい加減やめて欲しい。別れ際にもされたが、私は乙女ゲーム産のレディーではないのでやっぱり恥ずかしいし、自分がお姫様だと勘違いしてしまいそうになる。


公爵家とのつながりは魔法省に就職するうで必要なコネに繋がるし、むしろありがたいのだが、それが許されるのは友達としてのみ!何を狂ったのか恋人関係、もしくはそこまでいかずとも私が彼に片思いするようになってしまえば致死率90パーセント以上のデスゲームに突入する羽目になる。それだけはするまいと心に誓い、もらったネックレスやドレスを丁寧に仕舞った。




休み明け一発目の授業は魔法薬学だった。今までは座学中心だったが、これからは実習中心の授業になるらしく、白衣を着て薬学実習室に集合していた。実習室には見覚えのある1年生の他に知らない生徒たちがいた。他クラスの人なのだろうかと思いながら後ろの方の席に座っていると、バンッという音と共に実習室の扉が開いた。


「よく来た迷える子羊ども。今日から実習だ。危険な薬品も扱うので十分注意するように」


出ましたダミアン・フリードリヒ先生。毎日パリを我が物顔で歩いていそうなおしゃれな服装。自身もウィンチェスターアカデミーの卒業生で教師としてもとても優秀なのだが、いかんせん癖が強い。大人な魅力があり、実は陰で女子生徒から絶大な人気を誇っている。なんで攻略対象じゃないんだろうってくらいイケメンだしね。実は授業だけで言えば先生の授業が一番好きだ。だってこんな先生を拝みながらの授業なんて最高じゃね?


「それともう気付いている子羊もいるかもしれんが、今日は2年との合同授業だ。初回から貴様らだけで調合させるのは危険極まりないからな。今からくじでペアを発表する。呼ばれたものは前に来て材料を取りに来るように。今日の課題は初級の浮遊薬だ。材料を受け取ったペアから作業を始めろ、完成したペアから終了とする」


なるほど、見たことない人たちは2年生だったのか。浮遊薬は前回の座学の時に習ったし、わからないところは自分で図書館に行って調べたので恐らく何とかなるだろう。2年生の足を引っ張らないようにしないと。

先生が魔法をかけるとどんどんくじが引かれ、名前が呼ばれていく。できれば優しい女の先輩がいいなぁとぼんやり待っていると、私の名前が呼ばれた。前にある教壇の方へ向かうと、2年生用のくじから一枚引かれる。


「エマ・シャーロットとペアを組む2年生は、エドガー・ルイス」


えどがー・るいす……?

まさか攻略対象のエドガー・ルイスじゃないよね?

淡い期待を抱きながら教壇にたどり着くと、後ろから来たのは紺色の髪に金の瞳でおしゃれな眼鏡をかけている生徒。


ですよね。同じ名前なんてそうそういないよね。


上着には生徒会のバッチが付いている。

間違いない。第一顔がもうそうだもん。

有力な商家の息子でかなりの守銭奴。特に魔法薬学や数学理論が得意で、攻略対象の中では唯一の2年生。エドガー・ルイスだった。


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