禁書の棚……?
「うわ、広い」
筋肉痛に悶える脚を動かして図書室。
レオンにお願いしていた禁書の棚の立ち入り許可が下りたので、いてもたってもいられず早速禁書の棚へと向かった。入り口のドアに、もらったカードをかざす。すると重そうなドアはキィ、と音を立てて開いた。
中に入ると前面に本棚がびっしり。窓が無いため少しくらいが、備え付けのランプに魔力を注ぐと、おしゃれなカフェのような雰囲気がある。テーブルや椅子も外の物とは違って、より高級感がある。
私は純喫茶のような雰囲気にひそかに興奮していた。
「流石は禁書の棚ね。見たことない本ばっかり」
これには一緒に来たアメリアも驚いていた。
メアリは魔法薬学でどうしても出ないといけない授業があるということで一緒には来なかったが、むしろそっちの方が都合がいい。メアリに研究内容なんて話せないし。
手に取った魔法書には禁術から見たことのない魔法がたくさん載せられているし、錬金術の本には見たことない材料ばかりで作る鉱石のレシピや聞いたことのない生成法が載っていた。
私たちは昼休みまでずっとそれぞれ気になる本を読みふけっていた。
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「私も明日は絶対一緒に行く」
昼休みになり食堂でランチをしていると、メアリがやってきて禁書の棚について聞いてきた。
午後からは私のパーティーのためのレッスンの予定があるため、まだまだ気になる本はたくさんあったが一先ず続きは明日。
ランチを食べるとすぐにボールルームに向かう。ボールルームは放課後になると部活で使用されてしまうので、使える授業中に急いでレッスンをする。
まずは昨日と同じように筋力トレーニング。こんなにしんどいのに付き合ってくれているメアリやアメリアは余裕そうなのだからすごい。
なんとかそれを終えると次は姿勢。ヒールを履いて頭に本を乗せた状態で歩く。
1冊ならなんとかできるが、2冊乗せるとだいぶ動きがぎこちない。落としてしまうことは無いが、合格点は3冊以上なのでまだまだだ。
ちなみにこれはメアリが得意で、5冊乗せた状態でターンまで決めていた。
午前中は図書室、午後はレッスンでたまにレオン達3人組がからかいに来るなど授業に出ていない割には多忙な毎日を送っていた私だったが、夜の自習と錬金術はどんなに疲れていても絶対に欠かさなかった。
ウィンチェスターアカデミーに戻った時に受けていない分の授業内容は理解していないとあとで困るし、錬金術は毎日試したいレシピが出来るので、その日のうちにやらないと溜まって行ってしまうからだ。
私がクリスタルカレッジに交換留学をするのに出した条件。それは私専用のいつでも使える錬金術や研究が出来る部屋を用意すること。もちろん材料などの提供も。
エイドとは毎日連絡を取って研究の進捗状況を報告し合っている。
状況を見て分担を組みなおし、今エイドは車体に使う軽くて丈夫な金属の生成、私はエネルギー源の確保についての研究中だ。電気が作れればエネルギー源の確保も合金も出来ると考えていたが、電気の実用化は思っていた以上に大変だった。
小さなものを動かす実験程度の電気を作ることには成功したが、家電や電気自動車を動かすレベルの電気を持続的に作るには電気をつくる過程に加え、もっとたくさんのものが必要だ。
これを実用化して普及させるとなると元の世界で火力や原子力を使って発電していたものを再現する必要があるが、この世界の科学技術のレベルでは到底不可能だ。
そこで、エイドは合金に変わる金属を錬金術で作れないか、私はエネルギー源となる鉱石などを錬金術の分野から作れないかという研究に切り替えた。2人共錬金術の分野の研究になったので、今までよりもより色々な情報を共有するようになった。一般的な方法ではまず不可能なので、禁書の棚の本にある方法を試してみるだとか、ウィンチェスターアカデミーの禁書の棚にもどうにかして入るつもりだとか。
私は今日の分の報告を終え、1人で錬金術の研究を進める。
今日やるのは禁書の棚で見つけた魔力を吸収する石の生成。禁書の棚の本は外に持ち出すことが出来ないので、材料や方法を書き写したメモを見る。随分昔の文献で、文字は全て古代文字。既に翻訳は済ませてあるが、内容が解読できないものも多い。
例えば材料。昔とは呼び名が変わっていたり、そもそも今は使われていない材料だったりして揃えるだけでも困難だ。例え集められたとしても、生成方法も今とは全く違い理解できないことも多い。中には非人道的なものもあるので、私は出来るだけレシピ通りに、でも不可能な部分は試行錯誤して別の物や方法で置き換える。
「はぁ、ダメか」
上手くいくこともあるが、何度やっても成功しないことの方が多い。
今回は完全に後者だ。
既に窓の外の景色は明るくなっているが、目の前に転がっているのは鉱石として固まらなかった液体。失敗作が思わぬ効能を持っていたりすることもあるが、鉱石にすらならなかったものは完全なる失敗作。私は若干のイラつきを覚えながら念のため無効化の薬を入れてから水道に流して捨てた。
水道があるなら電気くらいあってもいいのに。
なんでも魔法で解決するな。
イライラして心の中で悪態をつく。
第一このレシピ曖昧過ぎない?材料に月の光って何よ。
作ってる途中に月の光に当てながら作ったけど、分量も書いてないし、どのタイミングで当てればいいのかくらい書け。当てるタイミングとか時間を変えながら何度も作り直したのアホらしかったわ!
時計を見ると、短い時計の針が5を指していた。
いつも朝食を食べに行くのは7時。準備を含めると6時半には起きないと。
中途半端な時間寝るくらいなら起きてた方がいいかな?
そう思ったが、徹夜明けの1日っていい思い出が全くない。寝るか。
寮に戻る時間も惜しいので、スマホのアラームをセットして私は研究室のソファーに沈んだ。
「いたわ!探したのよエマ!」
私は突然聞こえてきた大きな声で目を覚ました。
何なんだと思い声のした方を見ると、メアリとアメリアが肩で息をしながらこちらを見ていた。
「時間になって部屋に行っても、部屋はもぬけの殻だし……誘拐でもされたのかと思ったわ」
アメリアがやれやれとあきれた様子で見つめてくる。誘拐って、そんな物騒な。
時計を見ると、時刻は8時を示していた。え!?
かけていたはずのアラームをスマホで確認すると、丁寧にスヌーズまで止められていた。
うっわ、全然記憶ない……
今日は午後に魔法解析学に行くだけで、他の授業の予定は無いので遅刻の心配はないが、早く行かないと朝食が終わってしまうので私は急いで身支度を済ませた。
大食堂にはもうほとんど生徒の姿はない。既に1限が始まっているから当然っちゃ当然なんだけど。
今いるのは1限に授業が入っていないか、そもそも出席する気のない生徒だけだ。
ストレートティーを飲みながらスコーンをチビチビ食べる。
夜食食べたせいであんまりお腹すいてないんだよな。
横で食べているメアリは早く禁書の棚に行きたいのかどこかソワソワしている。
私のせいで待たせてしまったので、私も急いであげようかと思い、食べるスピードを少し早めた。
私たちは誰もいなくなった食堂から出ると、パウダールームで少しだけ化粧をしてから図書館へ向かった。




