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留学初日……?

翌朝。部屋に差し込む光で目を覚ますと、私は顔を洗って、真新しい制服に袖を通す。

黒を基調とした軍服のような制服。肩についている小さなマントや白い手袋など、細かいところまでそれっぽい。鏡に映る自分は紛れもなくクリスタルカレッジの生徒に見えるだろう。


「けっこう可愛いじゃん」


元の世界にいたときから、SNSで見かける軍服のコスプレやゴスロリの軍服ワンピースには少し憧れがあった。お金も勇気も無かったのでもちろん着たことは無かったが、流石は異世界。こんな制服が存在してるなんて。


「おはよう、エマ。ゆっくり眠れた?」


髪を整えメアリにもらったコスメで少しだけメイクをして部屋を出ると、案内役のアメリアが談話室で待ってくれていた。やっぱり見た目は悪役令嬢なので、一瞬ビックリしてしまうのだが昨日お互いに色々なことを話してかなり距離は縮まったと思う。お互いに呼び捨てで呼ぶようになったし。

でも、あれだけ色々なことをしゃべったのに、お互いに自分の本名だけは言わなかった。

間違えて呼んでボロが出てもいけないし、何より私たちはエマとアメリアだから。お互いにそう思っていたのか、どちらがあえて聞くこともなかったし話すことも無かった。


他愛のない話をしながら大食堂へと向かう。

クリスタルカレッジの大食堂はディナーだけがビュッフェスタイルで、モーニングとランチは各自が好きなものを頼んで食べる方式だ。私はあまり食欲も無かったので、サラダとポタージュを注文した。


注文したものはゴーストたちが持ってきてくれる。

彼らは上空を歩くことが出来るので混雑した食堂内でも問題なく食事を運んでくることが出来る。

もちろん作っているのも生前一流シェフだったゴーストたち。

ウィンチェスターの食堂は妖精たちがやってくれていたが、やっぱりそういうところは魔法の国だなと思う。


「エマは授業受けるの?」


そう聞かれてどうしようかと悩む。

この交換留学は普通の留学とは違い、それぞれがそれぞれの研究目的を持って留学する。だから必ずしも授業を受ける必要はない。

とは言っても、私は研究しに来たわけでも無いしなぁ。


「悩んでるなら、魔法解析学だけでも受けてみたら?」


「魔法解析学って2年生以降の科目じゃないの?」


魔法解析学は現代魔法の応用である魔法工学のさらに応用。

新しい魔法の開発や改良には必須の学問だが、その難易度ゆえにウィンチェスターアカデミーでは2年生以降の選択科目となっている。


「クリスタルカレッジでは必修科目以外は全学年合同の選択科目なの。もちろん入門から発展までの講座別だけど」


アメリアは1年生にして魔法解析学の発展講座を取っているらしい。

魔法解析学は難しいけれど、知識がそのまま役に立つ。私の今の課題も魔法解析学の知識を使えばよりいい方法を思いつくかも。


「やりたい!」


いきなり発展講座は流石に無理なので、アメリアと一緒に2限目の魔法解析学入門講座を受けに行った。

ちなみに交換留学中は世話係の出席は公欠扱いとなるので、基本彼女は付きっきりで私のサポートをしてくれる。


「すご……」


教室にはたくさんの機械が所狭しと並んでいる。

置いてある機材は全てエイドの研究室に負けない最新のものばかりだ。

魔法解析学は理論と実践の半分ずつの授業。レベルが上がれば上がるほど実践の比重が大きくなるが、今日の講座は実践のようだった。


テーマは現代魔法における呪文(コード)と魔法式の関係について。

魔法式というのはその魔法を構成するための骨組みとなるもの。対して呪文(コード)というのはその魔法を発動させるためのもの。いわば魔法式は電気回路で呪文(コード)はスイッチ。基本的に魔法式は魔法の杖にあらかじめ処理をさせて、呪文(コード)を魔力と共に流し込む。これは現代魔法の知識だが、今回はその過程でどのように魔力が消費されるのかを確認する。


生徒2人でペアになって、片方が簡単な魔法から難しい魔法までを順に発動させる。もう片方は、それを計測機で計測し、どのようなことが起こっているのかのデータを取って解析する。


「エマ、解析出来るじゃない」


苦手だけど、研究のためにエイドに叩き込まれたことは無駄ではなかったらしい。

ここ2ヶ月ほどずっと研究室に籠って研究の手伝いをしたり、解析をやらされていたのである程度は出来るみたいだ。でもやればやるほど古代魔法とは性質から異なっていて面白い。


すごく面白くて、1コマ70分の授業はあっという間に終わった。

今日は特に他の授業に参加する予定もないのでどうしようかと考えていると、アメリアから図書室に行こうと言われ、図書室に向かった。


「やっぱり大きい……」


天井まで本棚にぎっしりと並べられた本たち。

最新の研究の本から古代のもの、大衆向けの小説まで、あらゆるジャンルの本が所蔵されている。

ウィンチェスターアカデミーの図書室も大きかったけど、こっちの方が大きいのかもしれない。


大量の本に圧倒されながらぐるりと館内を1周すると、奥に扉があるのが見えた。


「アメリア。あれは何?」


彼女に尋ねると、彼女はあぁと言って答える。


「禁書の棚よ。禁書と言っても危険な物だけじゃなく、貴重な研究書や魔法書もたくさん所蔵されているわ」


加えて彼女は、私の研究のためにはいつか中に入らなきゃと思うけど、と呟いた。

どうすれば入ることが出来るのかと尋ねると、教師もしくはこの禁書の棚の所有者である王族の許可が必要とのこと。教師には必要な理由をきちんと説明すれば割と普通に許可が下りるらしいが、なにせ彼女の研究は説明できるようなものではない。


禁書の棚……私も興味あるけど、流石に一介の交換留学生には入れさせてもらえないよね。

今後の研究の役に立つと思ったんだけどな。


折角なのでと色々見て回っているうちに昼休みになってしまったので、私たちは一旦大食堂にて昼食をとることにした。私が注文したのは日替わりワンプレートランチ。

1つにまとめられたプレートには、トマトの冷静スープやサラダ、パテやパスタなどが載せられている。


2人で端っこの席に座ったつもりだったが、周りの視線が痛い。

ウィンチェスターにいたときのような敵意ある視線ではないけど、こういった好奇の目で見られるのはほとんど経験がないので扱いに困る。いっそ睨まれてる方が楽なんだけど。


そう思ってしまう自分が若干悲しい。

早く食べて、午後は植物園にでも行こう。さっきメアリから私のスマホにメッセージが来ていた。

珍しい薬草を見つけたからよければ見に来いとのこと。言っていた通り、本当に植物園に籠っているらしい。言い方的にお目当ての植物とは違うやつかな?


そんなことを考えながら黙々とランチを食べ進めていると、突然視界が陰った。

見上げると、そこには昨日ぶりのレオンがいた。何か用だろうか。


「エマ。お前パワーサープレッションも出る予定だったって本当か?」


「えっと、出る予定っていうか、予選会にエントリーしてたってだけで……」


そう答えると、レオンはへぇ?と口角を上げた。

怖いんですってば。


「お前、俺と勝負しろ」


「……は?」


「負けたらお前はクリスタルカレッジに転校しろ」


何言ってんだこいつ。いきなり勝負吹っ掛けてきて負けたら転校して来いって?

受けるわけないだろそんな勝負。


「嫌です」


当然私はきっぱりと断った。

「負けるのが怖いのか?」なんて煽って来るが無視無視。


「私が勝ってもメリット無いじゃないですか。そんな勝負受けたくないに決まってます」


「へぇ、勝てると思ってるのか?……良いぜ、お前が勝ったらお前の言う事1つ聞いてやるよ」


別にアンタに頼みたいことなんてないけど。

先生ならまだ禁書の棚の許可もらえたかもしれないのに……

ん?そういやコイツ王族じゃん。


「なんでもいいんですか?」


「現実的に俺が可能な範囲であればな」


まさか本当に勝つつもりか?なんて笑ってくる。

ムカつくなマジで。吠え面かかせてやるよ。


「わかりました」

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