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謎の事件……?

カフェ・ウィーブルがオープンして早1週間。

経営状況はかなり好調で、休日には生徒に加えたくさんの一般客が列をなしていた。

所謂常連客という人たちも出来始め、危惧していた流行ものにありがちなリピーターが付かないという状況にはまだ至っていない。


それどころが、客が多すぎて仕事が回らないため、来週から従業員の数を増やし持ち帰りの商品も販売する予定だ。もちろんエドガーは大喜び。このまま売れ行きが好調なら、すぐにでも学外に2号店をオープンさせようとしている。


最初こそ大変だったが、研究とバイトと勉強の両立にもだいぶ慣れて余裕が出てきた。

魔法競技大会以降、嫌がらせや陰口はかなり減ったし、これといった事件もないため平穏な日々を過ごせている。攻略対象ともいい感じの距離を保てているし、案外ここでの生活も悪くないかも、と思い始めていた。


『午後の魔法薬学は休講とする。該当者は各自自習をするように』


いつものようにみんなで昼食をとっていると、ダミアン先生の声で放送が入った。

午後から授業が入っていた人たちはラッキー!と喜んでいる。何かあったのだろうか?

そう考えていると、さっきまで魔法薬学の授業を受けていたアルバートがやってきた。


少し暗い表情をしていたので、何かあったの?と聞くと、さっきの魔法薬学の授業でトラブルがあったらしい。課題は失声薬の作成で、1年生の2クラス合同授業だったのだが、失声薬を作って効果を確認した後、解毒薬を飲んだのに効果が消えない生徒が大量発生したのだそう。


2人でペアになってお互いの失声薬を飲んだが、アルバートが組んでいたエリカは解毒薬が効かず、声が出ないままになってしまったという。

失声薬の効果は個人差があるが、大体4日ほど。何もしなくても4日後には効果が消えるが、4日間も声が出せないのはかなり不便だ。無詠唱以外の魔法は使えないし、日常会話も難しい。

アルバートは自分のせいだと落ち込んでいた。


先生たちが総出で原因を究明しているが、一向に見つからないようで声を失った生徒はひとまず保健室で休んでいるという。

しばらくすると再びアナウンスが流れた。


『本日魔法薬学の授業にて、解毒をしてもそれが効かず失声薬の効果が消えなくなるトラブルが発生した。この件について何か知っている者、心当たりがあるものはすぐに申し出るように。解決した生徒には、魔法薬学の後期分の単位を与える。繰り返す、本日……』


あぁ、さっきのやつか。

……え?後期分の単位?

確かこの学校の単位は夏休みまでで前期、そこから学年末までが後期として扱われる。後期必修単位の魔法薬学の単位が手に入る。つまり、これから進級するまで1度も授業に出席しなくても、テストを受けなくても単位が手に入るということだ。


最後のセリフを聞いた生徒たちは目の色を変えて保健室や図書室、実習室に向かったり、アルバートのように事情を知る生徒に話を聞いて回ったりした。

まぁそうだよね。


一緒に食事をとっていたみんなも、一斉にアルバートに当時の状況の説明を求めた。

私は自分からは聞かなかったが、しっかりその話に耳を傾ける。


しかしアルバートもわかっていないようで、話を聞いていてわかったのは、失声薬を試したときに効果がしっかり出ていたことや特におかしな点が無かったことから失声薬の失敗が原因ではないということと、解毒薬は先生が用意したものを皆同じように飲んだため解毒薬が原因でもないという事。


それだけ聞くと、全く問題が無いように思えるけど……


私は自習組では無かったので、予冷と共に教室へと向かった。

しかし授業には多くの生徒が欠席していた。

……まぁそもそも失声薬の被害で来られない子もいるし、そうでなくとも後期の単位が手に入るなら授業に出ている場合ではないと考える生徒も多いだろうな。


午後の授業が終わると、私も保健室に向かった。

原因を見つけてやるとか言うのではなくて、エリカのお見舞いで。

声が出ないなんて心細いだろう。私はウィーブルの持ち帰り用のクレープとエリカの好きなハーブティーを持って行った。


『心配かけてごめん。大丈夫だよ、ありがとう』


エリカはノートに文字を書いて見せてくれた。

経過観察のため被害者は保健室に集められているが、見渡す限り問題はなさそうなので、今日か明日には寮に戻れるだろう。

私はバイトのためすぐに保健室を去ったが、少し思い当たることがあった。


保健室にいた生徒全員がウィーブルによく来ている生徒だったのだ。

いつ来ていたとかは覚えていないが、よく見る顔だなと覚えている人ばかりだった。

しかし、今やウィーブルに来たことのない生徒の方が少数派なので偶然かと思いつつ、着替えてキッチンに入った。


私はホールを任されることが多いが、キッチンが足りていないときはキッチンのヘルプに入ったりもする。とはいえヘルプなので、スイーツをバンバン作るというよりはハーブティーや紅茶などの飲み物を担当した。


1番人気のハーブティー、ウィーブルはエドガーが考案したオリジナルハーブティー。

驚くほどたくさん出るので、茶葉も作り置きでは足らず、配分表に従って私がブレンドする。

一つ一つの量を量って魔法を使ってブレンドするという簡単な作業。

のほほんと作業していたが、材料の1つに目が留まる。

セント・ジョーンズ・ワート

これ、前に温帯エリアで見たやつだ。何か見覚えあるんだよな、なんだっけ?


絶対どこかで聞いた事ある、と記憶を辿っていくが思い出せない。

休憩時間にエドガーに頼んで分けてもらったセント・ジョーンズ・ワートのハーブティーを飲む。

あ、この味知ってる。


「アンタレポートごときで病んでるんじゃないわよ。これ飲んで落ち着きなさい」


サークルの先輩が私が落ち込んでいるときや病んでいるときによく淹れてくれた。

確か名前は……セイヨウオトギリソウって言ってた。


リラックス効果があって抗うつにも効くんだとか。薬学部だったこともあって先輩はそういうのに詳しかった。

そう言えば……

飲む前に必ず服用している薬は無いかと聞かれていた。


肝臓の代謝に関する酵素を増加させるから、薬の代謝を早めてしまって結果的に薬の効果を弱めてしまうとか。多くの薬と飲み合わせが悪いから医薬品を使用しているときは避けた方がいいのだと毎回解説されていた覚えがある。


もしかしてと思い、私はエドガーに頼んでバイトを抜けさせてもらい、保健室に向かった。

保健室に着くと、エリカをはじめとする被害者たちが私の差し入れたウィーブルを飲んでいた。


「シャーロットじゃないか。どうした?」


後ろから声を掛けてきたのはダミアン先生だ。

私は今回の実験に使った解毒薬が肝臓で代謝されるものかどうかを訪ねた。

すると先生は頷き、それがどうしたんだと聞いてくる。


「皆さんの中に、実験前、あるいは前日にウィーブルを飲んだ人は居ますか?」


すると、保健室にいた被害者全員が手を挙げた。

やっぱり。

ダミアン先生は状況が分からないといった様子で声を掛けてくる。


「シャーロット、何かわかったのか?」


「このウィーブルというハーブティーにはセント・ジョーンズ・ワートというハーブが使用されています。リラックス効果がありよく使用されるハーブですが、これには肝臓の代謝に関する酵素を増加させる働きがあって、薬の代謝を早めてしまうので結果的に薬の効果を弱めてしまうことがあります。どれくらいの量と時間でどれほど弱めるのかは知らないのですが、おそらく今回のことはこれが原因だと思います」


そう言うと、皆さっきまで飲んでいたウィーブルの入ったカップを机に置いた。

先生はなるほどと納得したような様子で他の先生に指示を出した。


「セント・ジョーンズ・ワートにそのような効果があることは知っていたが実際に見るのは初めてだ。どうしてわかった?」


「夏休みに植物園で見たセント・ジョーンズ・ワートが気になって調べたんです。たまたまバイトで1番人気のハーブティー、ウィーブルのブレンドをしていたらセント・ジョーンズ・ワートが含まれていて、今回の被害者の方がよくカフェに来てウィーブルを飲んでいることは知っていましたし、もしかしたらと思って」


調べたなど大嘘だが、これが1番自然な回答だろうと思ってそう答える。

さっきまで少し疑っていた様子の先生も、よくやったと笑って褒めてくれる。


次の日改めて解毒薬を服用すると、皆無事効果が切れた。

私は約束通り、後期分の魔法薬学の単位を手に入れ大歓喜した。

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