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テスト結果は……?

セドリックと出会って3日後。

私は今日も今日とて図書館で勉強をしていた。


……こうして魔法が使える人間は魔法師と呼ばれるようになり、今までの権力者と入れ替わるように権力を握った。現在魔法師のほとんどが貴族であるのはこれが影響していると言われている。アスカニア歴1245年魔法学者のエドワード・フォークリフトが著書『魔法師と一般人との身体的構造の区別』にて、魔法が使える人間には生まれつき体内に魔力が通る道である魔法回路があることを明らかにした。アスカニア歴1250年には、魔法学者のニュートン・ジグボルトの実験によって魔法は全て脳から発信されることが明らかになった。魔法回路は脳から首元を通して全身に伸びる構造をとっており……


魔法史って覚えることは多いけど、基本覚えるだけだからやりやすいな。他の科目に比べて、必要な前知識が少ないし。でも、魔法って呪文を唱えたらパッと出来るわけじゃないんだな……


「エマ」


名前を呼ばれて顔を上げると、そこにはセドリックが大きな紙袋を持って私の席の目の前に立っていた。


「セドリック様」


「セドリックでいいって言っただろう?頼まれてたエレメンタリースクールの教科書、実家から届いたから持ってきたんだ」


「ありがとうございます!セドリック!」


「あ……うん」


セドリックは耳を赤くしてうつむいた。……え?やっぱり呼び捨て嫌だった?

机に置かれた紙袋の中身を覗くと、そこにはとてもきれいな状態の教科書がたくさん入れられていた。動物言語学基礎理論・錬金術入門・魔法薬学基礎理論・入門古代呪文学などなど。

そう!こういうのが欲しかったのよ!


「使ってそのまま置いていたから、もしかしたら書きこみがあるかも。基本書き込まないから使うのに不自由はしないと思うけど……」


申し訳なさそうにするセドリック。

いやいや全然大丈夫です。というか天才の書き込みとか逆に見たいんですけど。

なんて言えるはずもなく、丁寧にお礼を言うとセドリックは足早に去っていった。

何か用事があったのだろうか。忙しかったのなら申し訳ないな……




それからはひたすらエレメンタリースクールの教科書での勉強に切り替えた。今回のテストには間に合わないかもしれないが基礎もわからないまま勉強をしていてもこれから一生分からないだろうから仕方ない。そう言えばエレメンタリースクールというのは日本で言う小中一貫の9年間の義務教育機関だそう。アスカニア王国のすべての子供はこの義務教育を受ける。それは貴族だろうが平民だろうが関係ない……まじでヒロイン何してたの?


私には今まで主人公が培ってきた知識は知ることが出来るが、過去の記憶などに関しては全く分からない。ゲームをプレイしていたので何となくは把握しているが、実際には知らないことの方が多いだろう。


セドリックから受け取ったのはエレメンタリースクール9年生用の教科書一式。1年でこの量なら9年間もあったらすごい量だもんね。恐らく彼もそう思って持ってきてくれたのだろうが、今の教科書よりはわかりやすいものの、やっぱりわからないことも多い。


例えばいまやっているこの現代魔法入門学。

導入に使われている魔法原理が分からない。古代呪文学の魔法原理とは違うし、現代魔法と古代魔法は別物ってこと?

うーん。分からぬ……


「どうしたの?」


「あー、この魔法原理が全然わかんなくて……え!?」


「やぁ、エマ」


セドリックさんじゃないですか。びっくりした。

窓からの光が彼に当たって白い髪が一層輝いて見える。イケメンってずるいなぁ。


「魔法原理?あぁ、これは……」


私のペンを持つと教科書の魔法原理の部分に何やら書き込みを始めた。

教えてくれる感じかな?


「つまり、魔法を行使するには僕たちが持つ魔力と元素が必要なんだ。元素は世界の至るところにあってもちろんここにも存在する。魔法には、火・水・風・光・土・草の属性があって、魔法を発動させる呪文式(コード)にこれらの元素を加えることで属性魔法が生まれる。ちなみに元素を加えない場合は無属性の魔法となって、無属性の魔法は汎用性が高くて便利だけど掛け合わせることによる相乗効果は見込めない」


そっか、それでその掛け合わせを学ぶのが現代魔法学ってことね。

セドリック、流石首席なだけあって教えるのも上手。先生向いてるよ?

でもなんで古代呪文学の魔法原理とは違うんだろう。やっぱり別物なのかな?


「古代呪文が使われていた時はこの原理が分かってなかったからね。手探りの危険な魔法も多い。だから今はほとんど使われていないけど。この原理は魔法解析学の発達で分かったんだ。僕たちも2年生以降勉強するはず」


セドリックは口に出していないはずの私の疑問をくみ取り説明してくれた。

さてはエスパー?


それ以降、セドリックはちょくちょく図書館に来て勉強を教えてくれるようになった。

優しいのか私の馬鹿度合いに同情したのかは定かではないが、セドリックはとにかく教えるのが上手いので私はありがたくそれに甘えさせてもらっていた。




テスト結果発表の日。

正直基本を押さえることに全振りしたので、テスト範囲を全部カバーできたかと言われれば答えはノー。テストでも手も足も出ないような問題がいくつかあったし、正直自信はない。まぁ最下位から脱出できていれば御の字か。


発表から少し時間が経ってから。人がいなくなったころを見計らって、廊下にある順位表を見る。

最下位を見ると、自分の名前は無かった。よし。

そのまま下から見ていくが、自分の名前は見当たらない。もしかして見逃したか?なんて思いながら見ていくと、ついに自分の名前を見つけた。


100位 エマ・シャーロット


嘘。前回学年250人中250位だった私が?正確には私ではないのだけど。


「やったね。おめでとう、エマ」


頭にポン、と重みを感じて振り返るとセドリックが立っていた。

彼は嬉しそうに微笑みながらそう言ってくれた。

あぁ、こんなイケメンに褒めてもらえるなら頑張れるわ。大学受験の時も彼がいたら日本中の女子高生が病まずに済むだろうに。


「最下位から一気にここまで成績を上げるなんてすごいよ。頑張ったね」


うん。一家に一人セドリックを配布して欲しい。


「セドリックのおかげです。ありがとうございました」


とは言っても私は21歳の大人!

ニヤける様子は顔には出さず、涼しい顔でお礼を言った。よくやった、私!


「お祝いに今度二人でカフェにでも行かないか?ゆっくり話したいし」


萌えは正義よねほんと。私が頑張れたのもセドリックのイケメンさのおかげだわマジで。

大学受験の時にこんなイケメンな彼氏がいたらどんなに幸せだったか。いや彼氏じゃなくても同級生とか。幼馴染とかだったら……あーヤバい想像するだけでニヤニヤしちゃう。


「エマ?」


「え?あ、はい!」


やっばい何にも聞いてなかったわ。


「じゃあ明日、10時に寮の前の噴水に集合ね。楽しみにしているよ」


そう言ってセドリックは私の手を取ると、流れるような動作で甲にキスをした。

え!!!???

こ、これが乙女ゲームの世界。漫画で見るやつ!漫画で見るやつー!

私が脳内パニックを起こしている間に、セドリックは去っていった。

10時に寮の前の噴水集合って街にお出かけデートイベントのやつだよね?いや、流石に違うか。

でもどうしよ……なぜかイベントっぽいものが進行している。




自室に戻ると、私は使っていないノートを取り出し、乙女ゲームの知識を書き起こした。

正直乙女ゲームの世界なだけで乙女ゲームではないと思っていたので今までやってこなかったが、こうなってしまった以上ちゃんとまとめておいた方がいい。

まずは攻略対象から。


一人目は言わずもがなセドリック・バートン。

白い髪に赤い瞳をしたバートン公爵家の一人息子。性格はとてもクール、というより冷たい。ヒロインに対してだけ激甘なのが萌えポイント。プレイしてる間に一番惚れたのは紛れもなくこの人。学力面も魔力も強くて、名門ウィンチェスターアカデミーにおいて文句なしの首席。周りからは天才と言われている。


二人目は私の最推しベン・ヘンダーソン。

金髪に金の瞳の第二王子。誰にでも優しくて絵にかいた王子様だけどヒロインに対してはちょっとSなのがいい!プレイ途中でこっちに来たから実はあんまり設定も知らないのよね。確か成績も結構よくて部活は乗馬部だったはず。


三人目はアルバート・グレンジャー。

赤い髪に緑の瞳。この世界には珍しく両耳ともピアスを開けている。女たらしでチャラいけど、実はそれは幼い頃体が弱くて両親が弟に家を継がせようとしたことが原因。結局そうなることは無かったけど、幼い彼にとって見捨てられるというのはかなりのトラウマだったみたい。


四人目はルーカス・エドワーズ。

オレンジの髪にエメラルドグリーンの瞳で両親が超有名な音楽家。自身もピアノやヴァイオリン、作曲など様々な面で才能を発揮している。自由奔放な性格で、授業もサボりがち。成績はいいのに出席日数が足りないため本来は2年生であるはずが留年して再び1年生になった。


五人目はエドガー・ルイス。

紺色の髪に金の瞳でおしゃれな眼鏡をかけている。有力な商家の息子でかなりの守銭奴。何事も損得で考え行動してしまう性格。特に魔法薬学や数学理論が得意で、攻略対象の中では唯一の2年生。その優秀さから2年生ながら生徒会長を任されるが、就任してすぐに自分以外の生徒会役員をクビにした。


とまぁこんな感じだろうか。細かいことはあまり覚えていないけど。

そして、全く出てこない悪役令嬢。

名前はアメリア・バートレット。侯爵家の令嬢で、貴族が集まるウィンチェスターアカデミーに平民が紛れ込んでいるのが気に入らないと入学初日から主人公をいじめる。攻略対象たちと近づきたいと思っており主人公が攻略対象と仲良くなるたびに嫌がらせはエスカレートする。……それによって主人公は攻略対象とより距離が近づくのだが。全く出てこない。


不思議ではあるが出てこないなら好都合。イベントが始まらなくても全く問題ないし。むしろ始まらない方がいい。

イケメンは遠くから眺めていたい派だし、なにより攻略対象相手に恋をするのはごめんだ。

なぜならこのゲーム、たった一つのハッピーエンドを除けばそのほかは全部バットエンド。バットエンドになると主人公は死ぬ。ほんとにもういろいろな方法で。

一度攻略しているとはいえ間違えないとは限らないし、そもそも二人が付き合うところでエンディングだから、その後の生活の保障はない。平民と結婚なんて反対されるだろうし、もし捨てられたら……ハイリスク・ローリターンすぎる。


攻略対象とは出来るだけ関わらない方がいいだろう。

もう手遅れな気もするけど……

出かけるだけだよね?街デートのイベントじゃないよね?

教えてもらっておいて約束をすっぽかすわけにはいかないしなぁ。


よし。ここはもう腹を括ろう。

大丈夫、友達としてかかわる程度なら死に直結したりはしないだろう。


そう結論着けて、私はそのままベットに沈んだ。


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