研究……?
交流パーティーは大変だった。あの後色々な人に囲まれたし、フラッグサバイバルのメンバーやエドガーと踊ったのは楽しかったけど、流石に7人連続は疲れた。私踊れないし、エスコートに頼りっきりだったけど。
魔法競技大会が終わってから2日。
他校は自国に帰り、私たちも寮に戻った。
夏休みということで皆それぞれ家に帰ってしまったから、学校に残っているのは先生を除けば私くらい。
いや、エイドもいた。
エイドは私との研究を進めるため残るという。折角だし帰ったらと伝えたが、休みに帰らないのは今に始まったことではないらしい。
まぁ私は孤児院出てもう帰るところも無いし、食堂のご飯は普段に比べると簡単なものだがちゃんと出るのだから残ることに対して特に何も思うことは無いのだけれど。
「おはようございまーす」
「おはようエマ氏、ちょうどいいところに!」
朝からテンション高くない?と思ったら新しいアイデアを思い付いたとのこと。「今から実験するから手伝って!」とエイドはキーボードのようなものを叩いている。
魔力の持続性が課題だったが、それを解決するアイデアが思い浮かんだらしい。
ちなみにこれはこの世界の課題でもある。
彼が今使っているパソコンのような機械もゲーム機も全て使用者の出す魔力を原動力としている。
そのため使いすぎると疲れるし、魔力のない人や子供には使用が難しい。
これを解決するだけでもかなり大きな発見だと思う。
「そう言えば分身魔法特許取れたけどほんとにいいの?」
この間のフラッグサバイバルで使用した分身魔法は私とエイドが1ヶ月くらい缶詰めになって作った魔法。流石の天才エイドとでも、現代魔法の3大難問を解決するのは容易ではなかった。
あの試合の後、すごい数の取材が来て大変だったけど、エイドが特許申請を出してくれていたらしい。もちろん特許は無事に通った。
エイドは開発者名を連名にしようと言ってくれたけど、私はそれを断った。なぜなら私は理論面では協力したけど、実際の製作はほとんどエイドに頼りきりだったからだ。折角連名にしてくれても、私だけでは実際何も分からないのに等しい。身の丈に合わない賞賛ほど怖いものは無いもの。
「謙遜もすぎると嫌味だよ」と言われて、私は「ご忠告ありがとうございます」なんて返す。
これは謙遜なんかじゃない。変に持ち上げられたくないだけ。
時間もなかったしほとんどエイドに任せきりだったんだから。
でもこれが完成したら、しっかり連名にしてもらう。
使用者に魔力的負担を与えず、馬車以上のスピードと乗り心地を再現する新しい移動方法。魔法工学の最新分野の研究だし、何より実用的。連名でも特許を取れば、もしかしたら不労所得で生活できるかも。最高じゃん。
「おっけー。エマ氏、僕が実験やるからデータの収集よろしく」
「実験くらいなら私やりますよ?」
「君じゃ魔力多すぎて実験にならないっしょ」
渋々わかりましたと言って研究室に併設された部屋の窓の目の前に座る。大量のパソコンたちに魔力を注ぐと一気に起動した。情報処理はまだ苦手なんだけど、なんて思いながら実験の準備を始める。
「準備できました」
「了解。じゃあ始めるよ」
今やっている実験は、魔法を増幅する魔法式をあらかじめ機械に入れておき、少ない魔力でモーター動かそうという実験。合金に関するボディー部分の開発は私だけど、エネルギー源である魔力についてはエイドの方が詳しいのでエイドが開発をしている。
私は機械やモーターに取り付けられた測定器から送られる情報を整理する。
使用した魔力量、モーターの動作、持続性、耐久性などなど。
「どう?」
「魔法式は問題なく作動しています。しかし、先輩が魔力を注いでからモーターが動くのにかかった時間は3.531秒。これではブレーキが間に合わず事故になる可能性がありますからここは要改善ですね」
動くのに時間がかかるだけならまだしも、止まれないのはマズい。魔力を増幅させる魔法式はとても複雑だ。それを機械に入れ込んで処理させると時間がかかるし、そこからそれをモーターに伝えるまでの時間もかかるのでやはりこれが限界。そもそも魔法は魔力による個人差が大きいのであまりすべてに増幅魔法をかけると魔力量の多い人は加減を間違えると事故につながる。このアイデア自体はいいと思ったが、見直した方がいいかもしれない。
「デンキ、作ってみるか……」
「……え?」
「エマ氏は諦めて違う方法探してくれてたけどさ。やっぱあった方がいいでしょ。魔力が無い人でも使えるとかまさに大発明だし」
この世界では魔力を持つ人と持たない人の格差が大きい。もちろん金銭面においてもだが、それ以上に魔法の使えない人では使うことのできないものが多すぎる。化学が発展していない分、便利なものは魔法によって成り立っている。つまり、使用者にも魔力を求めるものが多い。
その格差に不満を持つ人は多く、反魔法派と呼ばれる過激派の組織まであるんだとか。
この社会問題の解決の一歩に、電気は大きな力を持つ。実際日本では魔法なんて無かったけど、ここよりかなり近代的で便利な生活してるもんね。
最初エイドには「なんでそんなものの存在を知ってるんだ」と聞かれたけど、私の突飛な発想を見て何故か納得したらしい。てかそんなに突飛な発想してる自覚は無いんだけど。
私は電気の実験に必要な物だけ伝えて、研究室を後にした。あのままあそこにいたら夕食まで返してくれなさそうだし。物が揃うには流石に2日くらいかかるだろうし、宿題でも終わらせようかと思って私は寮に宿題を取りに行ってから図書室へと向かった。
「おい、子羊」
まさか私ではないだろうと思いスルーすると、「お前だシャーロット」と引き留められた。
先生は何故帰らなかったのかと聞いてきたので、帰りたくても帰る場所が無いと伝えると、驚いた様子で申し訳ないと謝罪してきた。
ダミアン先生が謝るのって初めて見たかも。
先生は今年の夏休みは薬草の管理係に当たっているため帰れないのだとか。ウィンチェスターの植物園にはたくさんの植物や薬草が栽培されている。中には毎日適切な管理が必要な物もあるため誰かが残る必要がある。
何故引き留めたのか要件を聞くと、私にその薬草の管理の手伝いをしてほしいとのことだった。
普通に嫌だしこっちも暇ではないので断ろうとすると、先生はそれを察したのか「手伝いのついでに魔法薬学を教えてやる。もちろんバイト代も出す」と言ってきた。そう言われては仕方ない。願ってもない条件だ。学校内で生活するだけならまだしも、遊びに行ったり好きなものを買ったりするのにバイト代は必要だ。
明日の朝早くに植物園に来るようにと指示して先生は出て行った。




