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本戦……?

「この後の男子のパデルテニスの決勝戦、エドガー先輩とエイド先輩だって」


「メアリ先輩、さっきのフィジカルダービー。あれ大会新記録のタイムだったらしいぜ?」


すごい。先輩たちはホントにすごい。冗談抜きでレベルが違う。

私たちもそれぞれ優勝はしているが、全く違う。勝ち方も何もかも。

難しい魔法や便利な魔法でゴリ押すのではなく、洗練された魔法や圧倒的な技術で勝利している。


本戦は新人戦と違って男女で午前午後と分かれているわけではなく、バラバラに行われる。

早く終わらせて、明日の団体戦の準備をするためらしい。そのせいで見に行けない試合が多いんだけど。

もうすぐ始まる男子パワーサープレッションの決勝は、アクア対イデア。

どの種目も決勝はほとんどウィンチェスター生だし、出来るものからどんどん行われていくので困る。


「エマ、何ボーっとしてるの?始まるわよ!」


「あ、うん」


エリカに言われて競技場の方を見ると、アクアとイデアの2人が入場してきた。観客席を一瞥もせず自分の立ち位置へと向かっていくアクアと観客に大きく手を振りながら笑顔で歩くイデア。とても対照的な2人がなんだかちょっと面白くてクスクスと笑ってしまった。


パワーサープレッションは、一対一で行い、合図で同時に一つの的に魔法を当てる競技。所定の場所まで押し切った方が勝ちとなる。的というのは中央にある大きな球体のことで、選手はパネルに手を当てて魔力を流し込む。流し込まれた魔力はそのまま球体に送られ、球体は相手の方へ転がっていく。同時に流し込むため基本的により魔力の強い方、パネルに魔力を送る速度の速い方が球体の主導権を得る。


イデアもすごいとは思うけど、やっぱりアクアかな。3年生だしね。

球体の通る道はレーンのようになっており、中心線から10メートル離れたところまで転がす必要がある。


『これより本戦男子パワーサープレッション、決勝戦を行います』


アナウンスが入ると、客席から大きな歓声が飛び交う。

ウィンチェスター同士の戦いだから見に来るのもウィンチェスター生ばかりなのかと思っていたが、他校の生徒もかなり多い。決勝戦だもんね。


『開始まで3・2・1』


ピー!という合図とともに両者ともパネルに手をかざして魔力を注ぐ。

最初のスピードはやはりアクアの方が速く、球体はイデアの方へ向かって動き始めた。しかし、1メートルほど転がったところで球体の動きが完全に止まる。


それどころが球体は少しづつ最初の位置へと戻って行く。


「接戦だな。でも、イデア先輩あんなに一気に魔力出して大丈夫か?」


「イデア先輩はペース配分とか考えるタイプじゃないと思うよ。多分ずっと全力でやるんだと思う」


「筋肉があれば疲れないんだけどな!」


「アンタは黙ってて。……このまま持久戦になるか、どちらかが仕掛けるか」


球体はずっとスタート位置で停止している。

球体は透明で、中に赤と青の光が入っている。これは球体に影響している魔力を表すもので、色の割合が大きい方に球体は動く。

停止している今は半分が赤、半分が青く光っている状態だ。

イデアは何も考えていなさそうだし、仕掛けるとしたらアクアだが、アクアにもこれといった動きはない。


30秒ほどが経過し、今も球体は停止し続けているが、ずっと全力だったイデアが疲れからか一瞬魔力が弱くなった。

その瞬間、アクアは流す魔力の量を一気に増やし、球体は青一色に光りだした。

慌ててイデアも流す量を増やすが、一度勢いのついた球体は中々止まらない。アクアはその後も大量の魔力を流し続け、ついに球体は10メートルの基準線へと達した。


ピー!という終了の合図とともにスクリーンにアクアの優勝が映し出される。

観客席からは、素晴らしい試合を繰り広げた2人に大きな拍手が送られた。


試合に圧倒され、余韻に浸りながら試合結果を知るため中央広場へと向かうと、各競技の順位を映し出すスクリーンには、軒並みウィンチェスター生の名前が並んでいた。


「パデルテニスの優勝はやっぱりエイド先輩か。流石に3年生は強いわね」


先ほど行われていた男子パデルテニスの優勝はエイド。エドガーは惜しくも敗れてしまったようで準優勝2位と書かれていた。

面識はないが、今終わった女子ウィザードシューティングの優勝者もウィンチェスターアカデミーの3年生。確かこの人はトレジャーハントの出場選手だったはず。


残りの試合は男子ウィザードシューティングとファーストポイント、女子ファーストポイントとパワーサープレッションの4種目。移動時間なども考えるとウィザードシューティングとパワーサープレッションを1種目見るか、男女ファーストポイントを見るかの2択。

男女のファーストポイントにはそれぞれエドガーとメアリとソフィアが出場する。


アルバートとエリカとイザナの3人はファーストポイントを見に行くと言ったが、私とセドリックは自分が出ていたこともあって1度本戦のウィザードシューティングを見ておきたいと言ったので、試合が終わったらホテルに集合でそれぞれ別行動をとることになった。


「流石にウィザードシューティングは多いね」


個人種目の中でも人気なウィザードシューティング。準決勝を行わず一気に決勝戦で6人が戦うということもあってパワーサープレッションよりも人が多い。私たちがギリギリに来たこともあって観客席は満席で立ち見の観客もいる。

私たちも仕方がないので会場の隅から立ち見をすることにした。


スクリーンに映し出された選手を見ると、ウィンチェスターアカデミーからは2名。それ以外の4人は各校からそれぞれ1人。……そりゃ多いわ。全学校応援に来るわけだし。


『選手が入場します』


それぞれの選手が思い思いの衣装で登場する。選手が出て来る度に歓声が起こるが、アクアの時はひと際大きな歓声が上がった。……主に女子から。

カッコいいもんね。分かるよ、セドリックやアルバートの試合の時にも歓声すごかったし。

アクアの衣装はパワーサープレッションの時と同じだった。黒を基調にしたローブ。青いラインが入っている。

ウィザードシューティングは箒を使うこともあって、いかにも魔法使いっぽいローブスタイルの選手が多い。衣装自体はいたってシンプルなものだが、なにせモデルがいいので目立ちまくっている。


前の席にいるクリスタルカレッジの生徒たちが、「アクア様、頑張ってー!」と書かれたうちわのようなものを持っている。……アイドルかよ。自分の学校応援しろよ。まぁ本人はその歓声を全く気にしていないようだけど。


『これより男子ウィザードシューティング決勝戦を行います』


アナウンスが聞こえると、さっきまで騒いでいた観客もようやく静かになる。


『第1ピリオド開始まで、3・2・1』


ピー!という開始音と共に会場内の電源が落ちる。

次々と現れるホログラムを見てやっぱり綺麗だなぁ、と思っていると選手たちは続々と箒に跨り始めた。


ダメダメ、ちゃんと勉強しないと、と思って再び会場に目をやると、既にそこにアクアの姿は無かった。

上空を見ると1人飛び回っている選手がいた。スクリーンを見ると、アクア・シェナザードという名前の横に15ポイントと表示されていた。

嘘でしょ?まだ試合が始まって10秒経ってないけど。


「アクア先輩はやっぱりすごいね。箒の扱いのレベルが違う」


いやほんとに。一緒に練習したのでもちろん知っていたが、やはり箒の天才というのは伊達じゃない。特別な魔法なんて1つも使っていない。ホログラムも直接杖をぶつけて消しているし。

周りの選手は色々難しい魔法を使っているはずなのに、全然歯が立たない。


難しい魔法は、時に極められた簡単な魔法に負ける


練習中にアクアが私に向けて言ってきた言葉。

難しい魔法を実行する私に、それだけで慢心して努力を怠ってはいけないというアドバイスだったが、今実際にそれを見せられている。


第1ピリオド終了時点でのアクアの点数は120ポイント。2位が50ポイントなのでこの時点で圧勝だ。

しかも第2、第3と進んでいくうちに他の選手はバテていくのに、アクアには全くそれがない。むしろ他の選手が遅くなっていくことをいいことに本来その選手たちが取れるであろうポイントも自分のものにして、さらに点数を伸ばしていく。


第3ピリオド終了の合図とともにホログラムが消え、選手たちが地上に戻って来る。本来ならここで歓声が上がるのだが、試合前とは打って変わって会場は静まり返っていた。

私もそう。驚いて声が出せない。


『只今の試合の1位、アクア・シェナザード君の点数524ポイントは大会新記録を更新しました』


そのアナウンスで皆目が覚めたかように一斉に歓声を上げ始めた。


「次元が違う……」


「エマだって大会新記録を更新してたじゃないか。456ポイント。十分君も次元が違うよ。……まぁ、言いたいことはわかるけど」


その後ホテルに戻ると、ファーストポイントは僅差でメアリが優勝、ソフィアが準優勝したことをエリカたちから伝えられた。

初日にお茶をしたラウンジで私たちと先輩たちで個人戦のお祝いと明日の激励を兼ねて小さなパーティーのようなものをした。食べ過ぎて夕食が全く食べられなかったけど……楽しかったからよし!

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