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負けた……?

セドリックが負けたって……

会場で見ていた他の生徒によると、準決勝で運悪くレオン皇子と当たり負けたのだと言う。先ほど行われた3位決定戦では余裕で勝利しセドリックは3位となった。

セドリックは優秀な攻略対象たちの中でも天才と呼ばれるキャラだったのに、いくら隣国の皇子とは言え負けるなんて。


「とりあえず決勝戦だけでも見ましょ」


エリカがそう言うと皆頷いて席に座った。

決勝戦はレオン・ベネディクト対ローズブレイドの生徒。


「……なにこれ」


思わず呟いてしまった。

決勝戦とは思えないほどのあっけない試合。時間にして、恐らく30秒も経っていない。

物凄い魔法力。私も多いって言われたけど、何ならあっちの方が多いんじゃないだろうか。

……レベルが違いすぎる。


試合が終わると、私たちはセドリックを待った。

この後はアルバートのファーストポイントで、それが終わったらすぐまたセドリックのウィザードシューティングが始まる。しかも今回はレオンとヨハンが共に出場するのだ。

落ち込んでいるであろう彼に何と言おうかとみんなで頭を悩ませたが、現れたセドリックは存外ケロッとしていて驚いた。


「純粋な魔法力はレオンの方が上なのは子供の頃から知ってるし、そこまでショックではないかな。準決勝で当たったのは運が無かったけど」と言って微笑む彼に嘘は無いのだろう。でも小さな声で言った、ウィザードシューティングでは叩き潰してやる、という言葉はきっと彼の心からの悔しい気持ち。ちょっと休憩してから会場に向かうと言った彼に、私たちは頑張ってねと声を掛けて、ファーストポイントの会場に向かった。


『ラウンド1、レディ』


「そう言えば彼、この後のウィザードシューティングと連続ですよね?」


「普通は避けるけどね。ヨハン氏は体力お化けだし」


「アイツ、頑なにこれ以上の筋肉はいらないって言うんだ。筋肉があればもっと上に行けるのに!」


まぁ、イザナも筋肉量はボディビル並みだし。ナルシストなヨハンは、筋肉によって自分の体が必要以上に引き締まるのは嫌いそう。


「凄い。アルバート今1位じゃない!」


「違うわエリカ。あれは……」


「飛ばしすぎ、だな」


アクアが言った通り、アルバートはずっと1番に的を当てていたが、後半になるにつれ速度が落ちる。対してヨハンは速度が落ちることは無く、正確に魔法を当て続けている。




「悔しい!負けたー!」


パデルテニスに続き準優勝となったアルバートは、試合が終わってからもずっと悔しい悔しいと口にしている。


「セドリックー!俺の仇とれよー!」


「この距離からじゃ無理でしょ」


意外と聞こえるんだよなぁ。これが。

会場に立つセドリックは聞こえないフリをしてるみたいだけど。


『第1ピリオド開始まで、3・2・1』


ピー!という開始音と共に会場内の電源が落ちる。

新人戦個人最後の種目とあって会場は既に大盛り上がりだ。

選手たちはそんな歓声をものともせず上空へと飛び上がる。

新人戦とはいえレベルが高い。あんな飛行速度で飛び回れるなんて。


最後の第3ピリオドが始まった。今の時点の順位は1位がレオン、2位がセドリック、3位がヨハン。しかし3人とも僅差でまだまだ十分ひっくり返る点差だ。


「3人以外の選手はもう寄ってないですな。ってあれまさか……マジでやんの?」


エイドが青ざめた表情でセドリックを見る。

あれ?セドリック、完全制御魔法じゃなくて無詠唱の浮遊魔法使ってる?

彼がゆっくり上昇する間にも、レオンやヨハン、その他の選手もどんどん点数を伸ばしている。


「インバー・ルーチェンス」


彼がそう唱えた瞬間、会場中に輝く雨が降り注ぐ。

アレって私の……


「昨日セドリック氏にあの魔法の魔法式と呪文(コード)教えろって言われたからまさかとは思ったけど……セドリック氏の魔力量ではかなりギリギリだよ……」


「だから第3ピリオドまで取っておいたんだろう。1試合フルは無理でも、魔力を浮遊魔法で節約して第3ピリオドのみなら何とかなる」


アクアはそう言うが、実際セドリックはかなりきつそうだ。

これだけ点差が出来れば、試合終了まで浮いているだけでも優勝はできそうだけど。

セドリックがこの魔法を使うと思っていなかったのか、レオンとヨハンはかなり混乱している。


この魔法って発動を辞めさせること以外に対抗手段って無いし、もしかしてウィザードシューティングにおいては最強なのでは?他の選手への直接攻撃が禁止されている以上発動を妨害されることもないし。


「おめでとう」


「ありがとう。エマ」


なんとか最後まで魔力が持ったようで、セドリックは圧倒的な点数でウィザードシューティング優勝を果たした。先輩やアルバート達も大喜びでセドリックを囲んでいる。


「明日からはいよいよ私たちだねー。めっちゃ楽しみ」


「頑張ってください、メアリ先輩!応援行きます!」


エリカが嬉しそうにそう言うと、メアリは「何言ってんのー」と笑った。

どうしてだろうと私たち1年生が首をかしげると、エイドがいい笑顔で「最終日にまだ競技残ってるんだから、呑気に観戦してる場合じゃないでしょ。……ウィンチェスター名物、地獄の直前2日間トレーニングがあるんだし」と言った。何それ。


「毎年新人戦団体の選手は本戦の予選の間の2日間、最終調整を兼ねてトレーニング漬けなのよ。前日の決勝戦は来年のための勉強も兼ねて見に行けるから是非来てねー」


「起き上がれれば。だけど」アハハと笑いながらメアリはサラッと恐ろしいことを言う。

誰一人予選で落ちないと思ってるのはすごいけど、私たちだけいつもの演習場で練習というのはなんだか集中できる気がしない。


でもトレーニングって言っても誰が?先輩たちは試合だし……まさか。


「喜べ子羊ども。俺がお前らの最後の仕上げをしてやる」


……明日の朝日が昇らなきゃいいのに。

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