パデルテニス……?
「なんか大変だったみたいね。あれレオン皇子でしょ?」
「しかも横にいたのはヨハン様とノエル様。ご愁傷様」
戻って来るなりメアリとエリカに同情された。「レオン皇子ってすごい気難しいことで有名だしね」とソフィアも口を開いた。やっぱり貴族同士だと面識あったりするのかな?セドリックとアルバートは知り合いみたいだったけど。
「気難しいって言うより暴君って感じですな。出来ることなら関わりたくない。僕なんか初対面で、もやしってあだ名付けられたし」
「エイドがもやしってちょっとわかるけどな!あいつら結構皆にあだ名付けるんだよ。俺はシンバルって呼ばれてるぜ!」
まぁイデアがシンバル……うるさいってのはわかるけど。
てゆうかそれよりも!
「エイド先輩。明日のウィザードシューティング、今日と同じ魔法だと対策されますかね?」
出来ればこのままで行きたいけど、流石に2回同じ手は通じないかな。
「いやいや大丈夫でしょ。魔法式も公開してないし、今からあれの対抗魔法作るとか普通に考えて無理でしょ」
「大体僕らも結構苦労したじゃん」とエイドが呆れたように言った。まぁ、それもそうか。なら明日はこのままいくとして。問題は……
「団体戦。このままじゃ厳しいんじゃないか?」
アクアが首をコテンとさせながら言う。可愛いなおい。
貴方のフラグを見事回収しましたよ。
「それについては僕に任せてもらえませんか?」
策があります、とセドリックが言うので私たちは彼に任せることにした。セドリックなら中途半端な作戦は立てないだろうし。エドガーを連れて行ったのはちょっと心配だけど。
……まぁ昼間寝てたし大丈夫かな?
魔法競技大会3日目。今日はこの2日間で行われた新人戦の本戦が行われる。
午前中は女子、午後は男子のスケジュール。私とエリカは見事ウィザードシューティングとファーストポイント、パデルテニスの3種目で優勝し、エドガーに泣いて感謝された。
「確かに予選突破全員が優勝なんて快挙だけどさ。あんな感謝のされ方するとビックリするわ」
わかる、と言いながら2人でアルバートの再びパデルテニスの試合を見に行く。
いくら何でも観戦中に呼び出す必要は無かったでしょ、と思いながら会場へと急ぐ。
「遅い!結果報告にどんだけかかってんのよ。もう決勝戦よ?」
「だってソフィア先輩聞いてよ。生徒会長、いきなり泣き出したんだから!しかも全然泣き止まないし」
「エドガー泣いたの?ウケる!」
アハハと笑いながら私を叩くメアリを止め、観客席に座った。決勝戦は5分後に行われるようで、客席にはウィンチェスターアカデミーとクリスタルカレッジの生徒が綺麗に分かれて座っている。もちろんそれ以外の生徒や関係者もいるけど、これだけ固まると座りにくいだろうな。
決勝戦の相手はもちろんノエル・リヴィエール。先ほど行われた3位決定戦ではローズブレイドの生徒相手にクリスタルカレッジの生徒が勝利したと聞いている。女子のウィザードシューティングでも私の次の2位の選手はクリスタルカレッジの生徒だったし、どの競技でも3位までには必ずいた気がする。やっぱり強い。
アルバートは予選と同じく幻影魔法、蜃気楼誘発魔法、鏡面虚像魔法を使い分けて戦う。
しかし、目の良いノエルにとっては魔法の出どころが分かるため全く聞いていないようだった。魔力が見えるっていうより、もっと細かい単位で見えてるんだ。きっと。じゃなきゃこんなに魔法が効かないはずがない。
思ってたよりずっと厄介だな。
ノエルは減速魔法と加速魔法を使って、打つ時にはゆっくり、打った後には剛速球になるように調整している。アルバートはこれが分かっていたかのように、ノエルと同じ魔法を使って対抗する。
「喧嘩売ってるな!あれは」
イデアが楽しそうだなぁと呑気に言う。確かに同じ魔法を使えばよっぽどの実力差がない限りは普通のパデルテニスに持ち込める。アルバートはパデルテニスが得意だし、そっちの方が勝算があると踏んだのだろう。
1ゲーム目をアルバートが取った。男子は3ゲーム取れば勝ちだからあと2ゲーム取ればアルバートの勝ちだ。
しかし、2ゲーム目に入ると、ノエルの様子が変わった。
どうして?ビックリするほどアルバートが押されている。
アルバートがボールと全く違う方向に走っていく。……あれって。
「どうしてアルバートの魔法を?エイド先輩、あれって特殊なラケットじゃないと出来ないんじゃなかったんですか?」
「そうだよエリカ。僕は選ぶだけで瞬時に3つの魔法から選んで使えるように作った。呪文をあらかじめラケットに入れてるから必要な魔力さえラケットに流せば使える。だからあれは……自分で毎回呪文を入れてる」
「そんなこと……出来るの?」
確かにノエルの目があれば、次にアルバートがどんな魔法を使うのか、使う前の魔力の流れで知ることが出来る。不可能ではないはずだ。とんでもなく難易度は高いけど。
「惜しかったわね」
「まだファーストポイントも残ってるんだから、拗ねてても仕方ないぞ!」
アルバートは2対3でノエルに負け、準優勝という結果に終わった。
負けたけど、あと少し早く対処策が見つかっていたら、アルバートが勝っていてもおかしくない拮抗した試合だったと思う。本人はめちゃくちゃ拗ねてるけど。
アルバートは「次は優勝する」と言ってかなり早いがファーストポイントの会場に向かっていったので、私たちはそのままイザナの出場するフィジカルダービーを応援しに行く。
フィジカルダービーは障害物を避けながら、およそ1キロを走る速さを競う競技。道具を使わなければ何をしてもよい。ちなみに魔法の杖は使用可能。
結果から言うと、イザナはヤバかった。
ほとんどの選手が魔法を使って障害物を越えていく中で、イザナは素の力で障害物を突破していった。他の選手の妨害も、魔法ではなく体で避けるし、何なら魔法の杖すら持ってなかった。
しかし加速魔法などを使った選手より早く走り、浮遊魔法を使った選手より早く壁を登り、イザナは見事優勝した。これは魔法競技としてどうなのだろう。
このメンバーの中ではエリカ以外予選を見ていないので、私も先輩たちも言葉を失った。
「どうだ!俺の筋肉は!」
「えっと……なんていうか、最強だね」
「だろ!」と本人は誇らしげにしているが、正直魔法師よりもオリンピック選手のが向いてると思うよ。オリンピックあるのか知らないけど。
しかし彼の父はもっと強いと言うものだから、騎士団長はもう人間ではないと思う。
もうすぐパワーサープレッションの決勝が始まるから見に行こうとアクアが言った。
パワーサープレッションの準決勝の時間とフィジカルダービーの試合の時間が被っていたのだが、セドリックなら決勝に上がるだろうからとイザナのフィジカルダービーを見てからパワーサープレッションの決勝を見に行く予定だったのだ。
だから、会場に着いてから驚いた。
「セドリックが準決勝で負けたってどういう事ですか?」




