追憶
小さな一切れのパン。
それを子供たちが数十人で分け合って食べている。
子供たちの服はどれもボロボロで、とても清潔とは言えないものだった。
外観はとてもきれいな建物。孤児院だろうか?
中にいる子供たちはこんなにも苦しそう。けれど、誰も助ける人なんていない。
ある時、ひどい怪我をした子を見てどうにかして直してくださいとお願いしたら傷が塞がった。私はそれを見て神様が治してくださったのだと思ったけど、そうではなかったみたい。
それを見ていたシスターは今まで見たことのないような笑顔で、私に他の子とは違う綺麗な服を着せた。
それから私は他のことは違う扱いを受けるようになった。
1人部屋も勉強も、3食のご飯も。他の子には与えられていない私だけのものだった。
当然他の子からすれば面白くない。自分たちは生きていくのに必死なのに。どうしてあの子だけ。
私自身もどうしてこんな扱いをされるのか分からなかった。
ご飯は美味しいし、服は可愛い。
扱いが変わっても私と接してくれていた優しい彼ら。でも私と彼らが話しているだけでシスターは彼らのことを反省部屋に連れて行って何度も鞭で打つ。
私は独りだった。
シスターも、たまに来る綺麗な服を着た人たちもみんな私の目を見て話してはくれない。いつも見ているのはよくわからないグラフや文字の書かれた紙ばかり。
そんな生活を続けて10年くらいたったころ、大きな学校というものに入学する。
私はトモダチが出来るとワクワクしていたが、そうはいかなかった。
教科書を隠されたり、水を掛けられたり。
でも、私は嬉しかったの。だって、みんなが私を認識してくれているのが分かったから。
声を掛けてくれる人もいた。内容はよくわからなかったけど、笑ってくれていたのならいい。
私を好きだと言ってくれる人たちは、それは友達じゃないと言ってきたけれど高望みはしない。ただそうやって接してくれる人がいるだけで私は幸せ。
……だけど、ある時授業で習ったドッペルゲンガーの生活を覗く魔法。
この世界には私とほとんど同じような存在がもう1人いて、自分とは全く違う生活をしているんだって。
先生は禁術だと言っていたけど、私はどうしても彼女の生活が見てみたくて図書館の禁書の棚に忍び込んだ。禁術とは言っても全然難しい魔法では無かった。
水晶に映し出されたもう一人の自分。見た目はちょっと違う、そう思ったけどよく見ていれば身長や顔のパーツはそっくりだ。髪色や瞳の色、ヘアスタイルが違うだけ。
成功した。そう思った。
彼女はたくさんの人に囲まれて働いたりお酒を飲んだりしていた。
ダイガクっていう学校に行けば、色々な人が彼女に声を掛ける。
「……いいな」
気が付けばそう溢していた。
彼女はたくさんの人に囲まれていて、自分は独り。何がダメなんだろう。
暗い性格?両親が居ないから?
私はもう一人の私になりたい。
「うわ、カッコよ。こんなイケメンに囲まれたいわー」
その時、彼女は画面の中に映る男の人たちを見てそう言った。
「これ、ベン様だ」
彼女が指さす人たちは、私が知っている人ばかり。もしかして彼女も魔法が使えてこちらの世界をみているの?……彼女もこっちに来たいのね。
私はそれから彼女と入れかわる方法を探した。
そして見つけたの。どちらの世界でも新月の日に、お互いがお互いの世界を覗いてどちらかが魔法を唱えれば、精神だけ入れ替わることが出来る。
どちらの世界でも新月の日。これを逃せば次の機会まで10年以上かかる。彼女がこちらの世界を覗いてくれるかは正直賭けだった。……でも、流石はもう一人の私。期待は裏切らなかった。
目を覚ますと、何度も夢に見たもう一つの世界。
時空のせいか時間軸が若干おかしい気がしたけど、まずまず成功だろう。もう一人の私は大丈夫だろうか。こちらに来たいとは言っていたけれど。否応なく連れて行ってしまったから、せめてもの罪悪感で今までの私の方の記憶は生活に必要な最低限以外は消しておいた。あんな暗い記憶なんて知りたくもないでしょうから。
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ゆっくりと意識が覚醒する。
これは、エマの記憶だ。
私がここに来るまでの。
私は何故か、元の私の姿で元の世界にいる彼女を後ろから眺めていた。
対して私はエマの姿。あぁ、本当に入れ替わったんだ。
どうして私は透けているのだろう?死んだのかな?一人でぐるぐると考える。
「……戻りたい?」
その瞬間、エマは私の方を振り返った。
ついに!あと2話で完結となります。
ここまでお付き合いくださった皆様、本当にありがとうございます。あと少し、見守っていただけると幸いです。
完結は明日のこの時間を予定しています。なので明日は今日と同じく1日2話投稿です。
たった数十話で終わらせるはずがここまでになるとは……
最後の推敲、ラストスパート頑張ります。
評価やブクマ、感想レビューなどいただけますと本当に力になります。よろしければ是非。
あと少し、『ヒロインって案外楽じゃないですよ?』をよろしくお願いいたします。




