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やってしまった

「馬鹿、だと……?」


「あ、やば口に出てた……」


その瞬間我に返るが一度口から出てしまった言葉はもう取り消すことが出来ない。ガッツリ聞かれてたみたいだし。


「ハハッ、いい加減にしろよ?」


完全に瞳孔が開いている。その様子は落ち着いているように見えるが直感的にさっき狂ったように笑っていた時よりもヤバい状況だと悟る。


「俺は今ここでお前を殺すことも出来るんだぞ!!!」


私に向かって持っていた大きな刃物を振り下ろす。

私は瞬時に杖に意識を集中させ手首の縄を解く。縄が解けたのを確認すると、そのまま胸の杖を取り出し、魔法の杖を構えている彼の側近と思われる人物の杖と彼の刃物を同時に吹き飛ばした。

そのまま彼を背負い投げして、抵抗力が弱まったところで2人同時に魔法で拘束する。


「ヤバい……やっちゃった」


目の前には拘束されながら喚く男性2人。対してフワフワのドレスを着た女が1人でその様子を見ている。足元には彼らの刃物と魔法の杖。これを拾い上げればいよいよどちらが誘拐犯か分からない。

中学校時代に鍛えた背負い投げがまさかこんなところで役に立つとは。


「お前……何者だよ」


「ただの一般市民ですが?」


少しは頭が冷えたらしいチェイスは抵抗することなくじっとしている。

これからどうしよう。そう思っていると、彼は小さく口を開いた。


「さっきの……どういう意味だよ」


馬鹿だと言ったことだろうか。

もういい。行ってしまおう。どうせ攻略はアメリアの言う通りには出来なかったのだから。


「そのままの意味ですよ。国外追放された後、たった1年でヴィムスをたくさんの傘下を持つ大きな反魔法組織のトップとして成長させた。それだけで、貴方の能力がどれほどのものなのかなんて想像は容易い。確かにこの世界は非魔法師にとって生きやすいものではないのかもしれない。でも、貴方のその能力は必ずそれと同等以上の武器になる。なのに貴方はいつまでも手に入らないものを嘆いてばかり」


国外追放されてからの1年でここまでの組織を運営するなんて相当な統率力やカリスマ性が無ければ出来ない。きっと彼なら皇帝でなくとも、クリスタル帝国の中で自分の居場所を他に作れただろう。


「ずっと子供みたいに駄々をこねているなんて、馬鹿以外の何物でもないでしょ?」


すると彼は、今まで溜めてきたものを吐き出すかのように言葉を紡いだ。


「俺は……皇帝になるために生まれてきたんだ。母上だってずっと……そのために嫌いだった勉強もアイツの倍以上やってきた。なのに、結局父上はアイツを選んで……母上が死んだのはアイツのせいだ。アイツが全部……」


「ねぇチェイス、だっけ?貴方、本当に皇帝なんかなりたかったの?」


「……は?そんなの決まってるだろ」


「本当に?お母様のためとかじゃなく?」


すると、彼は押し黙った。図星だったのだろう。


「貴方が何を考えているかは知らないけど……私は別に皇帝にならなくたって貴方の今まで頑張ってきたことは消えないし、生きる意味のない人間なんていないと思うよ?」


貴族には様々な派閥がある。きっと、母親だけじゃなくたくさんの人に兄と比べられ馬鹿にされる一方で、彼を超えて皇帝になれと言われてきたに違いない。幼い子供の性格や考えを捻じ曲げるには十分すぎる仕打ちだ。


「もう、自由になっていいと思うよ」


「……は」


「まぁこれはあくまで私の意見だから聞き流してくれていいよ。多分すぐレオン達が来ると思うから、私からも処分は出来るだけ軽くなるよう頼んでみる……って、え?」


「……見るな」


彼は下を向いて泣いていた。必死に隠そうとするが、手が拘束されていて身動きが取れないため、泣いているのがまるわかりだ。隣にいる側近も驚きで目を丸くしている。

狭い地下室に彼のすすり泣く声だけが響く。

いい加減涙くらい拭ってあげようかとハンカチを取り出したとき、勢いよく地下の重い扉が開いた。

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