攻略ルート
連れて来られたのは会場を出てすぐの休憩室にあるテラス。流石に始まったばかりなので誰もいない。
私たちは夜風に当たりながら話をしていた。
少しすると、ヨハンとノエルの父であるクリスタル帝国の宰相が苦い顔をして嫌がるレオンを連行していった。夜会の後半には私との婚約発表をするらしい。それまで休んでいろと私はテラスに取り残される。
(なるほど、これか)
私は胸に隠し入れた魔法の杖を確認する。
私はのんびりとテラスの柵にもたれて遠くを眺める。何だか、わかってても嫌だな。
刹那、不自然な突風が吹いた。辺りが一気に暗くなる。
「初めまして」
どこか馬鹿にしたような声と共に私の意識は闇の中へと沈んでいった。
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「あぁ、起きられましたか」
「……ここは?」
目を覚ますと、私は縄で手首を縛られていた。
誘拐されたらしい。
「起きたのか?」
「カルロス様、そのようです」
調子はどうだ?と尋ねてくる彼こそが、ヴィムスのトップ。
「どうしてこんなことを……私を殺す気?」
分かっているが白々しく尋ねる。こんなところでまた演技が役に立つことになるなんて。
「まさか……お前にはまだ利用価値があるからな」
「利用価値?」
「レオンには手紙を出した。お前を助けて欲しければ皇位を降りろと」
「そんなもので簡単に降りるわけ……」
「いいや降りるね。それにお前には1つ聞きたいことがある。……一条絢斗。ウチの傘下のモルモットがお前の手によって唯一の実験成功例になったそうじゃないか。よくやった。データは取っているだろう?それを渡せ」
馬鹿だなぁ。そんなの素直に渡すわけがないのに。
「嫌よ。というか、どうしてレオン陛下を皇帝の座から引きずり下ろしたいんですか?」
「決まってるだろ。皇帝になるのは俺だ」
「何言って……」
「カルロスは偽名だ。俺の本当の名はチェイス。この国の第二皇子だ」
魔法に恵まれなかった第二皇子。事あるごとにレオンと比較され、王宮での苦しい日々を耐えてきた。由緒正しい家の出である彼の母は、チェイスこそが皇位継承者にふさわしいと考え彼が皇位を継げるように様々な手をまわした。しかし、それは上手くいかず果てにはレオン暗殺を企てたが失敗に終わり、彼の母は処刑、彼は国外追放になった。
「絶対に能力ならアイツにも負けないのに。魔法のせいで……はは、そうだ。いいこと教えてやるよ。レオンが来たら真っ先にお前を殺す。目の前で愛する婚約者が殺されるのってどんな気分なんだろうな?それでお前の魔力を奪えば俺はアイツより強い魔力を手に入れられる。それがあればレガリアなんてもういらない。アイツを殺して俺が皇帝になるんだ!」
アハハハハハ!!
狂っている。もう完全に正気じゃないな。
シナリオ通りなら、ここで私は何もせず泣きながらただレオン達を待っていればいい。そうすれば隠しキャラ、つまりチェイスの攻略は失敗に終わり、私は元の世界に帰れる。
黙って待って居よう。
モヤモヤしないわけじゃないけど、私はアメリアから正規の攻略のためのシナリオを聞いていない。下手に行動を起こせば他のただの即死ルートに行きかねない。
さて、涙でも流して悲壮感を漂わせておこうか。
そう、思っていたのに。
「馬鹿じゃないの?」
気が付いたときにはその言葉が口からこぼれていた。




