夜会
「エマ、大丈夫?」
「うん。心配してくれてありがとうセドリック」
当然だよ!とニッコニコのセドリックは置いておくとして。
これなら一緒に入場した方が良かったかなぁ。
「一緒に出て行くだろ?」
「んなわけないでしょ。先に会場入ります」
最後に入場するレオンと共に入場しないかと誘われたが、私は当然の如くその申し出を断り、セドリックやアメリアと言った知り合いたちと共に入場した。驚いたのは思ったよりも知っている人が来ていたことだろうか。アルバートやエドガー、ルーカスと言った攻略対象たちが勢ぞろいしていて少し笑ってしまった。
「エマ嬢よ」
「あの方が?」
「どうやって婚約までこぎつけたのかしら」
「レオン陛下とは入場されないのね」
彼らと話していると時折聞こえてくる影。
今更この程度のことで傷ついたりはしないが、如何せんめんどくさい。言うならもっと堂々と目の前で言ってよ。気づいていないフリもいい加減疲れたんだけど。
『レオン陛下のおなりです』
高らかと発せられた声を聞くと、さっきまで話していた人たちも一斉に会話を止めて階段の上の入場口を見る。
扉が開くと先ほどとは少し違う衣装を見に纏ったレオンが現れた。それぞれが深く頭を下げ、彼が会場に降り立つのを待つ。
玉座の前に立つレオンが話し始めると、令嬢たちからはその美しさに驚嘆の声が上がった。
新帝の堂々たる立ち居振る舞いに人々は期待を寄せる。
一通り挨拶が終わると次はダンスだ。
彼は真っ先に私の方へと向かってくる。割れるように道が開けていき、セドリックやエドガーも何故か渋々と言った様子で道を開けた。何だか若干睨んでいるような気もするけれど。
「踊ってくれ」
珍しくぶっきらぼうなセリフを吐いた彼に面食らってしまう。いつもはよくわからない甘いセリフを添えてくるくせに。
私ははいと返事をしてその手を取った。その手は僅かに震えている。あぁ、緊張しているのか。
普段は余裕綽々な癖して、可愛いところもあるものだなと思いながら練習してきたステップを踏む。
「珍しいね。緊張してるんでしょ?」
「……別にそういう訳じゃない」
「まぁいいけど」
流石は皇族、幼いころから叩き込まれてきたであろうダンスは緊張していても崩れることは無かった。私たちのダンスが終わると、他の参加者たちも踊り始める。
ダンスの輪の中から抜けると、一斉に貴族たちが寄って来る。新しい皇帝に何とか取り入ろうとしているのが見え見えだ。
「抜けるぞ」
するとレオンはいち早く私の手を掴んで会場から抜けた。
主役がこんなに早く抜けるのは如何なものか。途中こちらの様子をうかがっていたアメリアと目が合う。
(ここまではゲーム通りの展開ね)
そう言っている気がした。
私は再度彼女を見て、ついてくるよう目線を送った。




