挨拶
「あの方は誰だ?」
「もしかして……」
レオン陛下万歳!と割れんばかりの歓声が鳴り響く中、時折聞こえる疑問の声。
ですよね。そう思いますよね。
テラスに現れたレオンはものすごく重そうな正装をして民に手を振る。
そしてなぜかその横に立っている私。傍で控えているリビエール兄弟や近衛兵とは明らかに違う。
当然私は目立ちまくり、たまに手を振ってみたりするが国民は喜ぶどころが混乱するばかり。
……中に戻りたい。
「エマ」
絶望に駆られていると、レオンが私の名を呼んだ。
振り向くと彼は私を引き寄せて笑った。
「……もう逃げられないぞ?」
こちらを向いてティアラを撫でながらニヤリと悪い顔をする。下にいる人たちからは見えないような角度で。
「……性格悪」
「お前が今しようとしていることは大体わかってる」
「え!?」
「関所の通過記録とか魔法省のこととか、ある程度報告させてるからな」
あぁ、そっちか。てっきりゲームのことかと思ってびっくりした。流石にそんなわけないよね。
「1億3000万人」
「え?」
「クリスタル帝国の人口だ。植民地も合わせればもっと。それだけの土地と人民が俺の財産であり責任でもある。大国のトップとしてやるべきことは山積みだ」
いずれ、お前にも背負ってもらうぞ。
ポンポンと頭を撫でられる。下から悲鳴のようなものが聞こえるが私はそれどころではない。まさかこんなことを言われるとは思っておらず、動揺が隠せない。再び涼しい顔で手を振り始めたレオンを睨む。
「はぁ……私には背負いきれません」
妃教育すらまともに受けていない私に皇后なんて務まるものか。
それに私は……このあたりでハッキリ言っておかないとと思った。もう若干遅いような気もするけど。
「ハハッ!言うと思った。……でも、俺の目を舐めるなよ?魔力の高い女なんて探せば他にもいる。政治的に利用価値のある女もな。務まらないと思ってたらこんなこと言わねーよ」
「……」
「俺は今までお前のことを見てきて、能力も人となりもある程度は知っているつもりだ。お前に向いてるよ」
返事が早い分には問題ないからな、と意地悪そうに言うと、ちょうど時間が来たようでノエルが私たちを呼んだ。彼はそれに短い返事を返すと最後に国民に向けて笑いかけてから、私の手を引いて中へと入った。
この後はいよいよ夜会だ。隠しキャラの攻略ルート。これが成功すれば私は元の世界に帰れる。
でも……
「……私、このままでいいのかな」
誰にも聞かれないような小さい声でそう呟いた。




