ウィザードシューティング……?
「「えぇー!!」」
ビックリした。絶対外されると思ったのに、むしろ逆!?
どうして今更私が出場することになんのよ。
「エドガー、アンタ何言ってんの?明日って……」
「僕も思い付きで言っているわけではありませんよ。メアリさん。今日のフィジカルダービーで事故があったのは知ってますか?」
あぁ、そう言えばさっきそんな話をしていたような……
セドリックによると、フィジカルダービーとウィザードシューティングにエントリーしていた選手がフィジカルダービーで起きた事故に巻き込まれ棄権してしまったため、出場するはずのウィザードシューティングに1枠空きが出たとのことだった。
「補欠に選ばれている選手もいますが、正直彼女では無理です。これ以上女子の新人戦で落とすわけにはいかない」
気持ちはわかるけど……
今年は10年連続優勝が懸かっているし、エドガーとしても負けるわけにはいかないのだろう。
「でもだからと言って、どうして私に白羽の矢が立ったのでしょう?私は選考会にも出ていませんし、補欠の選手を押しのけてまで出場するのは……」
流石にそこまでの鋼のメンタルは持ち合わせていない。
後から何言われるかわかったもんじゃないし。
出たいっちゃ出たいけどそこまでして出たいわけじゃないのよ。
「お願いします」
……!
あのプライドエベレストのエドガーが頭を下げるなんて。
これには私以外のみんなもビックリしている。
「どうしてそこまで……」
「今年は10年連続優勝が懸かっている。それに皆わかっているはずだ。ここでの結果がこれからどうやって扱われるのか」
すると皆黙って俯いた。
私は良く知らないが、ここでの結果は貴族にとってもとても大きな意味を持つという。勝てば英雄、負ければ落ちこぼれ。そんな単純なものではないと思うが、ここで名前を挙げた人は形は違えどなんだかんだ大人になってからも名前を挙げている。つまり、そういう事なのだろう。
私は正直、これがきっかけで魔法省の就職に近づいたらいいなと思っているだけ。この大会にそこまでの思い入れもないし、大会が終わってからまた階段から落とされるくらいならウィンチェスターアカデミーが負けてもいいとすら思っている。
でも、エドガーは今だ頭を下げたまま。私が断れば、きっと彼は補欠の子に依頼をしに行ってくれるだろう。
「わかりました」
言ってしまってから、自分でも自分の耳を疑った。周りのみんなも驚いている。
どうしてはいって言っちゃったんだろう?
「エマ。アンタ無理してない?嫌だったら断っても……」
「メアリ先輩。私、出たかったんです。ウィザードシューティング」
あれだけ頑張って練習してきたんだもん。出られなくて悔しかった。
出られるのなら出たい。
きっとこの気持ちのせい。
「まぁエドガー先輩のことだから、断っても結局やらされることになったと思うけどね」
「流石セドリック。君はよくわかっていますね」
どんな手を使ってでも出場してもらうつもりでした、とさっきまでの様子が嘘のように笑っている。
私だって勝てると思わなきゃ了承しなかった。それに試したかった魔法もあるし。
「エマ氏。もしかしてアレ使う気?」
「はい。エイド先輩。先輩が明日試合が無くて良かったです」
罪悪感なく徹夜させられますね、と微笑むとエイドは絶望したような顔をした。やめてよ、私がすごい可哀そうなことさせてるみたいじゃん。
私は残りの紅茶を飲み干すと、夕食には一旦帰ってきますと言って、エイドを引っ張っていつもの研究室へと向かった。
「ほんとに徹夜させられるとは思わなかった……エマ氏。鬼」
「それはエドガー先輩に言ってください」
いつもなら飲まないけれど眠気を飛ばすためにブラックの苦いコーヒーを飲んだ。
夜中に夜食を食べたせいで朝食を食べる気にならないので、お腹がすいたとき用にパンを1つ持って会場へ向かう。今日の種目は新人戦女子ウィザードシューティングとパデルテニス、新人戦男子パワーサープレッションとフィジカルダービー、ファーストポイント。
午前1番がウィザードシューティングなので選手はそろそろ会場へ向かう時間だとエドガーが言ったため、急いできたがまだ選手はほとんど到着していないようだった。
この衣装。変じゃないかな。
団体戦と違い個人戦は衣装に規定がない。みんなこの日のために思い思いの衣装を用意する。
昨日出てたみんなも凝った衣装着てたし。
私は急だったからメアリの去年の衣装を借りたけど……
恥ずかしい。こんなフリフリのミニスカとか……
JKじゃないのよ私。
「第1試合出場選手はこちらに来てくださーい!」
もうこんな時間?行かなきゃ。
暗示かけよ。大丈夫……私は変じゃない。私は変じゃない。
「エマ―!頑張れー!」
「エマ―!」
あ、意外と観客席の声って聞こえるんだな。
よし。頑張ろ。
『第1ピリオド開始まで、3・2・1』
ピー!という開始音と共に会場内の電源が落ちる。
刹那、カラフルなホログラムが空中に散りばめられる。まるで夜空に舞う星々のように。
「プレーナ・ポテスターテ」
完全制御魔法を使って箒に乗り込む。
そのままセドリックと同じように会場の中心まで飛び上がって静止した。
もうすでに他の選手はホログラムに向かっている。
ゆっくり深呼吸して魔法の杖を握りなおす。
落ち着け私。私なら出来る。
「インバー・ルーチェンス」
会場中に輝く雨が降り注ぐ。
雨に当たったホログラムはどんどんその姿を消していく。
大発見は大失敗から、ってね。
この魔法はフラッグサバイバルの魔法を作る過程で出来た、所謂失敗作。
最初は狭い範囲に自分の魔力を雨のようにゆっくり降り注がせるだけの使えない魔法だった。
使い方によっては来年のウィザードシューティングで使えると思って、大会が終わったら改良してみようと思ってたけど、まさかここで使うことになるとは。
私とエイドは開発過程で出来た魔法は全て記録に残している。
もちろんその中には改良次第で使える魔法もあって。
一晩で範囲の拡大、雨量の調節、使用する魔力量の効率化まで調整するのは正直きつかった。
エイドには申し訳ないけど、文句はいきなりこんなことを言ってきたエドガーにお願いします。
まだ完璧に制御出来てるわけじゃないけど、箒を動かさない分コントロールに集中できるからやりやすい。他の選手は戦意喪失してるし。まぁ雨の中で物が濡れる前に触るなんて普通に無理だよね。
これならただ降らせるだけで良いし、細かいコントロールはいらない。
昨日のセドリックの戦い方を参考にしてみたけど、結構いいかも。
『第1ピリオド、終了。1分間のインターバルの後、第2ピリオドを開始します』
思ったよりも疲れてないな。どちらかというと眠い。
とりあえず、試合終わったら今日はもう寝よ。
「エマ!アンタやるじゃない!」
「……メアリ先輩。重いです」
試合が終わり、観客席の方へ戻ると皆に囲まれた。この後はエリカのパデルテニスの予選があるからエリカは居なかったけど。
「セドリックに似た戦い方だった」
「そうなんです。参考にさせてもらいました」
アクアにそう答えると、皆はどこが良かったなどと言いながらパデルテニスの予選会場へと移動を始める。私はセドリックの袖をつかんで引き留める。
「エマ、どうしたの?」
「ごめん。ちょっと疲れたからホテル戻って休んでる。エリカにはごめんって謝っておいてくれる?」
私がそう言うと、セドリックは驚いた様子を見せたがすぐに笑ってわかったと言った。
去り際に「無理にとは言わないけど、大丈夫そうなら午後のパワーサープレッション見に来て。必ず予選突破するから」と耳元で囁かれる。
不意打ちだったので思わずキュンとしてしまった。いけないいけない。
エイドも私の試合を見てすぐホテルに寝に行ったみたいだし、私も午前中はもう寝てしまおう。
徹夜って三轍くらいすると一周回ってハイになるんだけど、1日目ってしんどいよね。
明日も試合だし、さっさと疲れ取らなきゃ。
私は馬車を待っている間にも寝てしまいそうだったので、少し遠いが歩いてホテルまで戻ることにした。




