戴冠式
「さぁ、いよいよね」
用意された部屋で準備をしていると、先に準備を終えたアメリアが扉を開けた。
「やっぱりどのキャラの時とも違うドレス!似合ってるじゃない」とニコニコしている彼女の方が数倍ドレスを着こなしていると思うのだが。今回の私のドレスはレオンから贈られたもの。セドリックをはじめとした攻略対象たちがドレスを用意すると言ってくれたが、流石に受け取るわけにもいかず結局は婚約者であるレオンの申し出を受け入れた。
自分で用意すると言ったのだが、それを言うと余計面倒なことになったので仕方ない。
パステルパープルのボールガウンドレス。袖はオフショルダーになっていて、後ろはレースアップ仕様のチュール地の軽やかなドレスでありながら散りばめられたビジューによって他の参加者にも負けない華やかさがある。
「それで人前に出たらもう名実ともに婚約者ね」
アメリアは私の頭上に目線を移してそう言った。そこにはあのティアラが輝いている。正直公の場でつけるのははばかられたが、攻略を進める上で必要なら仕方ない。
「そろそろ時間でしょ?」
彼女に急かされて部屋を出る。
戴冠式に参加するのは私と、あと身近な人で言うとベンやヒューゴくらいだろうか。あぁ、リビエール兄弟も。それ以外の人はそれが終わり次第行われる夜会に参加する予定だ。アスカニア王国の中でも有力な貴族は招待されていて、即位するレオンの年齢もあってか社交デビュー前の子息令嬢も一部参加することになっている。
戴冠式自体はそこまで長いものでもなく、そうそうたる参列者の中で最前列に座っていることに居心地の悪さを感じている間に終わった。
「……いいぞ」
戴冠式が終わると、レオンは民への顔出しの挨拶をして夜会へ出席する。
しかし、その前に私は彼に呼び出され彼のいる控室へと向かった。
扉の前の近衛が確認を取り返事が来ると、私は開かれた扉へ向かって真っすぐに歩く。
「久しいな、エマ」
何処か威厳のある話し方をするようになった彼に私は頭を下げて練習してきた挨拶を並べる。
「皇帝陛下。この度はご即位誠におめでとうございます。陛下におかれましては……」
「あぁ、そういうのいいから」
え?っと戸惑う私は思わず頭を上げた。
「似合ってる。俺の見立てに狂いは無かったな。……それよりこの服重すぎて肩が凝って仕方ないんだけど。脱いでいいか?」
「いやいやダメだろ」
「この後顔見せがあるんですよ」
隣に立つヨハンとノエルが呆れた様子でため息をついた。
先ほどの威厳はどこへやら。
「あぁ、エマ。お前もこっち来て座れよ。挨拶とか要らないから」
「こっちは死ぬほど練習させられたんだよ最後まで聞けや」
もう散々聞き飽きた、と肩を揉む彼にイラっとして、ついタメ口で本音をこぼしてしまった。
しまった、と思った時には時すでに遅し。目の前の3人は私の発言に目を丸くしていた。
一瞬の沈黙が走った後、3人は耐えられないと言った様子で笑い出した。仲良しか。
私は居心地の悪さを感じながら、不敬な発言をしてしまった手前これ以上言い返すことも出来ず黙って彼らの笑いが収まるのを待った。
「……こんなに笑ったのはいつぶりだろうな」
「最近忙しくてそれどころじゃなかったしね」
「やっぱお前肝座ってるな」
あーおかしい。と彼らの笑いは未だ完全には収まっていないが、今更挨拶をやり直すのも面倒だと判断し、先ほど勧められた窓際のソファーのようなものに腰掛ける。
すると、すぐに外にいた近衛が扉を開け時間だと伝えに来る。
結局何がしたいのかわからなかったが、私がいるのも変だろうと思い部屋を出ようとすると、その腕をレオンに掴まれる。
「何ですか?」
「お前も来い。そのために呼んだんだ」
……え?
ここまで読んでくださりありがとうございます。
今回から最終章、攻略編が始まります!
ここまで長々と書き続けてきましたが、いよいよこの章をもって『ヒロインって案外楽じゃないですよ?』は完結いたします。もう少しだけお付き合いいただけると嬉しいです。
ハロウィーンくらいには完結させたいのですが、長さ的にちょっと微妙な感じです(笑)
ラストスパートをかけて鋭意執筆しております。評価ブクマ、感想レビューいただけるとありがたいです。
あと少し、『ヒロインって案外楽じゃないですよ?』をよろしくお願いいたします!




