予選……?
「アルバートすごかったなー!」
俺何やってんのか全然わかんなかったわーとイデアが笑う。
まぁイデアは作戦がどうのってタイプではないので仕方が無いのかもしれないが。
パデルテニスは時間がかかることもあって、裏番組で同時にウィザードシューティングの予選が行われている。恐らくアルバートの2次予選は見ることが出来ないが、彼なら大丈夫だろう。
私たちはセドリックの応援をするためウィザードシューティングの予選会場に来ていた。
……セドリックこそ余裕で予選突破しそうではあるけど。
本当はエドガーも共に観戦する約束をしていたのだが、女子の競技の方でトラブルがあったらしく来られないとのことだった。生徒会って大変だな。いや、1人だから?というかフラッグサバイバルで優勝したら生徒会に私を入れるというのは本当だろうか?入れるだけ入れて、秒でクビにされそうだけど。
「セドリックー!頑張れー!」
第2試合、セドリックが登場するのが見えたので、私もエリカたちに交じって応援してみた。イデアやイザナのような大声では無かったはずだが、セドリックはこちらを見て微笑み返してきた。
聞こえると思って言っていないのに。この距離で聞こえたんだ。すご。
ウィザードシューティングは箒に乗りながら現れるホログラムに魔法を当て、最終的に当てた数を競う競技。とにかく空中に不規則に現れるホログラムに魔法を当てればいい。ファーストポイントと違うのは、誰か1人が魔法を当てるとそのホログラムが消えるという点。魔法に乗ってさえいれば基本的にどのような魔法を使ってもよいというルールで、箒と魔法を同時に操作する技術やある程度の魔力量が必須となるため、他の競技に比べてオールマイティな実力者が出場する傾向が強い。
スタートの合図と同時に会場の電気が落ちる。
そして次々とカラフルなホログラムが現れる。
「綺麗……」
「見た目はね。やってる側はかなり苦しいよ。5分区切りで第3ピリオドまであるから持久力も問われる」
私なんか選考会で張り切りすぎて途中で魔力尽きちゃって飛べなくなったしね、とソフィアが言った。そう言えばソフィアは個人戦ではファーストポイントだけに出場するんだっけ。ウィザードシューティングの選考会で落ちちゃったのか。
皆が飛び回っている中、1人中心に静止しているセドリック。
彼はほぼノールックで閃光魔法を放っている。
「……信じられない。あれだけ有効範囲の狭い魔法をこれだけの精度で繰り出し、当てるとは」
後ろに座っているお偉いさんが驚いているのが分かる。無理もないけど。
ホログラムは直径5センチほどの小さな球形。しかも場所も高さも完全にランダム。
対してあの規模の閃光魔法の有効範囲はせいぜい直径にして5ミリほど。誤って人に当たってしまうリスクを考えるとそれが限界だ。有効範囲が広ければ広いほどホログラムに当たりやすくなるが、これではかなり精密なコントロールがないと全く当たらないということになる。
コントロール力がずば抜けたセドリックだからこそ成せる技。
「えっぐ。セドリックってやっぱ性格悪いでしょ」
メアリが若干引いたような目でセドリックを見る。
現在第1ピリオドが終了し、第2ピリオドに入ったところだが、他の選手に比べセドリックは箒で浮かんでいるだけで飛び回るわけではないので体力が削られることはない。それどころが、頑張ってホログラムに近づいても、目の前でセドリックの閃光魔法が当たりホログラムが消えていくのを見ると選手には相当な精神的ダメージが与えられる。
選手の中には第2ピリオドにして戦意を既に削がれている者もいる。
涼しい顔で作業のようにホログラムを潰していくセドリック。隙のない、周到な作戦。
私は今更ながらセドリックのすごさを感じるとともに絶対敵に回したくない相手だなと思った。
案の定セドリックはぶっちぎりで1位通過し、アルバートも無事予選を突破したとのことだった。
特に他に見たい競技も無かったので、皆で軽く練習をしたあと、宿泊先のホテルに戻った。
魔法競技大会は前年の優勝校にて行われるが、その開催地は実際には学校の敷地ではなく、国が保有する土地に特設会場を建設して行われる。つまり学校からは少し距離があり、応援の生徒の中には寮に戻るものもいるが、選手は基本的に他の学校の生徒と共に指定のホテルに宿泊することになっている。
時間もおやつ時だったということもあって、私たちは3人の予選突破のお祝いも兼ねてホテルのラウンジでアフタヌーンティーを楽しんでいた。
「それにしてもセドリックくんは圧勝だったんだって?俺も試合さえなきゃ見に行ってたのになー」
「圧勝なんかじゃないよ。というか僕は君の魔法に驚いたけどね。あんなの初めて見た。流石エイド先輩」
「わかってるじゃんセドリック氏ー!でもでもエマ氏の魔法はもっとすごいからマジ期待してて」
エイドは珍しく鼻息を荒げて言った。まぁ確かに連日徹夜で作ったものだから気持ちはわかるけど。
セドリックが思い出したように「最後の練習でちょっと使ってたね」と言う。そう、でもあの時よりもかなり精度上がってるから。あの後もエイドと研究室に籠ってギリギリまで改良してたから。
思えばなんだかんだ楽しかったなーと脳が記憶を美化し始めているのに気づいて、いけないいけないと冷静になる。
「ちょっと私も予選突破したんですけどー」
エリカが不満そうにスコーンを頬張る。
子供っぽいその反応につい可笑しくなってクスクスと笑っていると、「なによ!」とエリカは顔を赤くする。「ごめんごめんー」とメアリがなだめる。
「エリカほんとすごいよ?今日の女子で予選突破したのエリカだけらしいし」
嘘だろ?と思い聞き返すがメアリも信じられないが本当だと言った。
なんでもフィジカルダービーで事故があり、有力な選手が1人棄権してしまったのだという。
元々今年の1年女子は魔力量が飛び抜けた天才タイプがいないらしく、パワーサープレッションでは全員予選落ちとなり、今日の3種目の中で予選を突破したのはエリカだけなのだそう。
そう言えばエドガーも今年の1年生女子の実力は芳しくないと言っていた。詳しくは知らないが、もう1つの団体競技であるトレジャーハントの新人戦のメンバーには女子は居ないらしい。元々向こうは1チーム3人だけということもあって、男女混合戦とは言えど必ずしも混合のチームでなくて良いのだそう。
「10年連続優勝は厳しいかもな」
アクアが紅茶に砂糖を入れながら言った。ウィンチェスターアカデミーの生徒が予選落ちした分、クリスタルカレッジが多数予選突破を果たしているらしい。このままではクリスタルカレッジに優勝を取られてしまうだろう。
「今頃エドガーは大忙しでしょうね。もしかしたら新人戦は捨てるとか言い出したりして」
生徒会長であるエドガーは競技の出場者の決定や様々な面において権限を持っている。
彼がこの大会における作戦を立案するのだが、ソフィアの言う通り新人戦の優勝は捨てて、本戦で勝ち総合優勝を狙うという可能性も十分あり得る。そうでなくとも得点の高い競技に実力者を出させるなどの変更など。
「このメンバーでフラッグサバイバル出たいけどなぁ」
「エリカ氏。流石に団体戦のメンバー変更はないでしょ」
「わかんないじゃないですか!会長が言ったらそうなるんだから!」
「流石に会長さんもそこまで馬鹿じゃないでしょー」
「僕が、なんです?アルバートさん」
聞きなれた声に全員がゆっくりと振り返ると、そこには呆れた様子のエドガーが立っていた。
「全く。まだ他の試合がやっているというのに、随分と言い御身分ですね」と早々に嫌味をばら撒いてくる。てか隈すごいけどちゃんと寝てんのかな?
「まぁいいでしょう。予選突破もしてくれましたし……エマさん。少しいいですか?」
どうしよう。すっごく行きたくない。
え?まさかこの期に及んでメンバーから外されるとかある?
私がそんなことをぐるぐると考えていると、皆も同じようなことを考えたのかこの場で話せと主張した。エドガーは、なぜだと言いながらもまぁ別に隠すような内容でもありませんし、と言う。
「エマさん。急なお話で申し訳ないのですが……」
あぁダメだ。この流れ、絶対外される。
私結構練習頑張ったんですよ?エイドと死ぬほど研究もしたし……
やっぱり選考会で勝ち抜いてもない私がフラッグサバイバルに出るなんてダメなのかな。
「明日のウィザードシューティングに出てくださいませんか?」
……は?




