アムネス王国
アメリアと共に人気のない裏道に回してもらった馬車に乗り込む。前回の反省を踏まえ、仲の良い友達にはしばらく休学すると伝えた。彼らは何か言いたげだったが、流石は上流貴族、ある程度の事情は耳に入っていたのだろう。それ以上詮索されることは無く、快くでは全くないがそれなりに送り出してくれた。
数週間と伝えたが、おそらくそれでは無理だろう。宝珠を手に入れたら一度ウィンチェスターアカデミーに戻るつもりではいるが、その間に次のレガリアの情報が入ればそのまま現地に向かうことになるのだから。
数時間馬車に揺られた後、今度は船に乗ってアムネス王国まで向かう。
アムネス王国は古い歴史を持つ島国で、小国ながらもそれなりに高い水準の魔法力を誇っている。宝珠はおそらくそこにある1番古い海底遺跡の奥深くにあるだろうとのことだった。
そもそもレガリアは歴史ある国が保有しているので、ベノ曰く場所の見当だけならそこまで難しいことではないのだとか。
港に到着すると流石夏休みシーズンということか、もう夕方だと言うのにたくさんの観光客と思われる人たちでごった返していた。
中心街の宿をとると、汗を掻いたこともあってそのまま風呂に直行した。
「うわぁ……すっごいスタイルいい」
スレンダーなヒロインとは違い、悪役令嬢のキャラデザは凹凸のはっきりとしたシルエットだった。だからそうだろうなとは思っていたけれど、やっぱり実際見ていると本当に綺麗。出るところは出ているのに全然イヤらしくない。グラビアアイドルも裸足で逃げ出すような完璧なプロポーションだった。
「そう?前世とそんなに変わらないし、気にしたこともなかったわ」
前世とそんなに変わらないだって……?
日本人でこの完璧なプロポーション?嘘でしょ?
でもこの様子を見るに嘘をついているようにも思えないし……
「そう言えば女優さんだったんだっけ?」
「そうよ。自分で言うのも何だけど、そこそこ売れっ子だったんだから」
ということは私も知っていたりしたのだろうか。まぁ特に詮索するつもりもないけれど。
大浴場には時間のせいもあってか私たち以外の人はおらず、まだステンドグラスから光が差し込んでいた。手ですくった湯船のお湯もそれを受けてキラキラと輝いている。
「捜索は明日から?」
「うん。とりあえずベノさんの言っていた海底遺跡に」
隠された海底遺跡。
完全に沈んでしまっていることもあって中々捜査が進んでいないと言うが、ラーハの魔法を使えば2人分の海中呼吸魔法を持続させるだけの魔力を供給することは可能だ。リーシェもいるし、捜索だって普通よりはやりやすいはず。
夕食を食べ、そろそろ寝ようかと準備をしていると、アメリアに少し外の風に当たらないかと誘われた。流石にレディーがネグリジェのままで出歩くことは出来ないので、部屋のバルコニーで夜風に当たりながらココアでも飲もうかという話になった。
「ありがとう」
彼女はココアを受け取ると、そのまま遠くを見つめていた。
「エマは……戻りたいんだよね?」
どうしたの、そう聞こうとした瞬間彼女が不意に口を開いた。
独り言かと思うほどの小さな声で。けれど、彼女はしっかり私に問いかけている。
「うん。戻れるのなら。私は元々こっちの人間じゃないし」
「そう……ならまだ言わない」
何が、そう問いたかったが彼女はきっと答えてはくれないだろう。
ここに来るときもそうだった。もしかしたら彼女は何かを知っているのだろうか。この先の行く末をわかっているのだろうか。
私は夏夜の涼しい風に吹かれながら、少しばかり熱いココアを飲み込んだ。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
気付けばもうこの作品も40万文字以上書いているみたいで、当初の予定であった10万文字の4倍!?と自分でも驚いています。
今回から捜索編へ突入いたしました。いい加減完結させないとなと感じており、おそらく次の編で完結できるかなぁと思っています。本当は200話以内に完結させるのが目標だったのですが、それは無理そうです。ここから完結に向けてもう一度構成を再考してから書こうと思っておりますので、少し更新頻度が落ちるかもしれません。(特に平日)必ず完結させますので、温かい目でのんびり楽しんでいただけると幸いです。
完結まであと少し、もうしばらく『ヒロインって案外楽じゃないですよ?』をよろしくお願いいたします!




