軌道修正
ウィンチェスターアカデミーに転校させられる?
でもアメリアはゲームの進行を止めるためにクリスタルカレッジに行ったはずじゃ……
「魔法省でインターン中なら知ってると思うけど、今国際情勢が不安定なの」
この話は私も実家で父の資料を盗み見たものだからオフレコでね。
私がゆっくりと頷くと彼女は周りに人がいないのを再度確認して話し始めた。
「反魔法勢力が異常なスピードで力をつけていて、先日南の国のとある小国で民衆が蜂起して革命を起こしたそうよ。過程と結果はフランス革命に似たようなものだった。そしてそれを知った各国の民衆が今色々なところでテロを起こしたりしている。今は小国に留まっているけど、いつ大国で起きてもおかしくない」
力の拡大した原因の1つに非魔法常用型の製品が生まれ、その非魔法常用型の武器が手に入るようになったことが挙げられると考えたクリスタル帝国は、反乱などが起きている国に対して非魔法常用型の製品の輸出を一切禁止した。それが今戦争の火種になるのではないかとアスカニア王国は危惧しているらしい。
「今のところアスカニア王国はアスカニア王国とは友好条約を結んでいるけど、非魔法常用型の製品を輸出しているし、それでかなりの利益も出してる。クリスタル帝国に遠慮して輸出を止めても、利益を追求してもこの先の損害は避けられないでしょうね」
戦争に巻き込まれる前にとりあえず国に戻そうと言うのがアメリアの父の考えらしい。
魔法省によって情報がかなり規制されていることもあって幸い今のところ問題は起きていないが、危険な状況に変わりはない。彼女曰く環境はかなり変わっているが、キャラクターの配置はゲームの展開に少しずつ軌道修正されていると言う。
いやでも。これって……私のせいじゃん。
エイドからコスモーターが実用化された報告は受けているし、その収入もいただいている。そして、それをきっかけに非魔法常用型の製品が格段に増えたことも聞いていた。最初は喜ばしいことだと思っていたけれど。
「エマ。婚約者、降りるなら今のうちよ。もう遅いかもしれないけど」
分かってた。クリスタル帝国はアスカニア王国と違って未だに他国との戦争が絶えない軍事国家。最近は落ち着いているけれど、その分研究も進み魔法の技術も向上している。多分今やり合えばアスカニアはクリスタル帝国に遠く及ばない。
1年目の魔法競技大会のときから敵に回しちゃダメな国っていうのは皆が持ってる共通認識だった。
「アスカニア王国とは友好条約を結んでいるけど、そんなのいつ反故にされてもおかしくない。ねぇエマ、レオン皇子との婚約はどういう経緯で貴方になったの?父の資料では貴方はヒューゴ王子かベン王子の婚約者候補になってた」
婚約の時に変なところは無かった?間違いなくアスカニア王国とクリスタル帝国との和平のための駒にされてるよ。
クリスタル帝国ともし戦争なんてことになればいくらアスカニア王国でも勝てない。だから婚姻を結ばせて……クリスタル帝国としても王家に莫大な魔力持ちが入って来るのは悪くない話のはず。その間は形だけでも友好な関係を築ける。アスカニアが魔法常用型の製品の輸出を止めないのはこれがあってのこと。
もし仮に何かあっても、所詮は平民。アスカニア王国にもたらす損害は大きくない。
多分アスカニア王国、いやこの魔力至上主義の世界において私という存在は必ずしも利益をもたらすものではない。いくら魔力が役に立ってもそこは問題ではない平民が魔力持ちというのが社会の根幹を揺るがす問題なのだ。
「エマ、魔法省は中立じゃないよ」
もともと大国が中心に作ったものだし、その使命は世界の均衡を守ること。世界の均衡って言うのは皆が平等に暮らせる世界なんかじゃない。『貴族が強大な魔力を持って平民を支配する世界』のことよ。
「エマさん!」
「あ、はい!!」
驚いて後ろを振り返ると、そこにはカンカンに怒ったエドガーの姿があった。どうやらこの避難場所は避難しきれなかったらしい。
しばらく説教を受けていたが、私の心はそれどころではなく全く頭に入って来なかった。
どこからが偶然で、どこからが仕組まれていたのだろうか。
今思えば、レガリアがかかっている大事な状況でベノさんたちが反魔法組織に手間取って対処できなかったり、春休みから一切魔法省から連絡が無かったのもおかしかった。今、彼らは何を考えているのだろう。そんなことばかり考えてしまう。
やっと説教が終わると、私は踊る気にも挨拶をする気にもなれずすぐに部屋へ戻った。
途中、アメリアに引き留められたが彼女は私の表情を見て「また今度にするわね」といってホールの光に消えて行った。
「はぁ……どうすればいいんだろう」
部屋に戻る途中も考えずにはいられない。
ヒロインってもっと楽しくて素敵なものだと思ってたのに。とんだ外れくじだな。
俯きながら角を曲がると、誰かにぶつかった。咄嗟に謝ろうと顔を上げると、1番会いたいようで会いたくない人物が目の前に立っていた。
「ベノさん……」




