デジャヴ
第2ピリオドが始まる。
しかし、今度は雨が降ってくることは無かった。
会話の内容までは聞こえなかったが、おそらくこのままでは決着がつかないと2人共インバー・ルーチェンスを使うのは止めたのだろう。
しかし、セドリックもレオンもほぼノールックでどんどん点数を稼いでおり、他の選手との差は縮まるどころか広がる一方だった。
他の選手の中で唯一アルバートだけはその差を縮めていたが、第1ピリオドでの差は大きく中々苦戦を強いられているようだった。
『試合終了です!』
ピー!という合図とともにターゲットが消える。
掲示板を見ると、そこには順位が映し出されており、3位がアルバート。そしてレオンを破り、見事セドリックが優勝を果たしていた。
普段は冷静なセドリックが遠くからでもわかるほど大喜びしている。
ウィンチェスターアカデミーの応援席も彼に負けず劣らずの盛り上がりだった。
「頼みますよ?」
「あはは……はい」
そして残すは女子ウィザードシューティング。
ここで個人戦が終了だ。エドガーからの期待に苦笑いしながらも私は控室へと向かった。
「あ、やっぱりエマも出るのね」
「え、アメリア!?」
アメリアは昨年魔法競技大会に出場していなかった。
だから今年も出ないと思っていたのに……
なんでも今年は先輩たちがいないせいでウィザードシューティングの選手が芳しくないからと無理やりねじ込まれたらしい。
「予選は別のブロックだったみたいね」
私は負けず嫌いだから、簡単にヒロインに勝ちを譲るほど優しくないよ?
彼女は好戦的な目で、けれど楽しそうに言った。
「うん。望むところ」
これは、パワーサープレッションのように簡単にはいかないだろうなということを肌で感じた。
『これより女子本戦ウィザードシューティング決勝戦を行います』
さっきと同じような歓声の中、試合会場へと足を踏み入れる。
ウィンチェスターアカデミーの応援席には最後の種目とあってみんなが見に来ていた。というかセドリックとかそんなに急いで見に来なくても良かったのに。
『これより第1ピリオドを開始します』
ちょうど向かい側に立っているアメリアと目が合う。
『3・2・1スタート!』
ピー!という合図とともに私は去年と同じ完全制御魔法を展開する。
散りばめられたホログラムを横目に、これまた去年と同じ魔法を展開する。
「インバー・ルーチェンス」
刹那、会場中に輝く雨が降り注ぐ。その光は私の衣装に反射してなんだか私だけが目立っているような気がして恥ずかしかった。今年の衣装はレヴィが用意したいと申し出て来たので任せたが、おそらくこの素材を選んだのはこのためだろう。嫌がらせなのか何なのか。
雨に当たったホログラムはどんどんその姿を消していく。
私は掲示板に記された得点をぼんやりと眺めていた。後は放っておいても優勝だろう。
「インバー・ルーチェンス」
聞きおぼえのある声で同じ詠唱が聞こえた。
声のする方を見ると、やはりアメリアが私と同じ魔法を使っている。
何だかデジャヴ。さっきもこれと全く同じ展開を見たような気がするんだけど。
『第1ピリオド、終了。1分間のインターバルの後、第2ピリオドを開始します』
レオンを見ていて不思議だったこと。それは魔法式を公開していないのにも関わらず、どうして使えたのか。彼女を見てその理由が分かった。
彼女は確か魔法解析が大の得意だったはず。去年はその優秀さを買われてエンジニアというか作戦立案を担当していた。
交換留学中にインバー・ルーチェンスを見せてくれと言われたことがあった。おそらくその時のデータをしっかりとっていて解析したのだろう。
「ねぇエマ。このままじゃ勝負がつかないと思わない?」
「インバー・ルーチェンスは使わない、と?」
「話が早いね。そう言う事」
「いいよ、乗った」
というか勝負がつかない以上乗るしかないのだ。
見ている観客もつまらないだろうし。
来年からは禁止魔法に指定されるんだろうなぁと思いながら第2ピリオドの開始を待った。
『第2ピリオドを開始します』
新しい魔法を別に作ってきたわけでも無いので、完全制御魔法を使いながら閃光魔法でホログラムを破壊する。それだけでは使用魔力量が少なく安定しないので空間把握の魔法も併用して常にホログラムの位置を把握する。
ほぼほぼ私とアメリアの一騎打ちだった。
後は持久力と瞬発力の勝負。
ラスト30秒。アメリアのスピードが一気に落ちる。
魔力切れか。インバー・ルーチェンスを第1ピリオドで丸々使って、第2ピリオドでもずっと全力で魔法を使っていたのだから当然だろう。
この時ばかりは自分の魔力量の多さに感謝するしかなかった。
合図と共に宙に浮かぶホログラムが自動で消失した。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
もうすぐ魔法競技大会編も終わります。その後に関しては少し予定よりは早いですが伏線(?)回収と共にちょっとシリアスなお話にしようという感じです。あんまり恋愛系は書けないかもしれませんが、出来るだけバランスを保ちつつ……という感じで書けたらいいなと思っております。
話が複雑になってきてややこしいと思うところもあるかもしれませんが、温かい目で見ていただければと思います。
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これからも『ヒロインって案外楽じゃないですよ?』をよろしくお願いいたします。




