セドリック兄さま
「えーっと、それでエリザベスちゃん?話って……」
誰もいなくなった会議室で、私は彼女と2人きり。そう言えばまともに会話するのはこれが初めてかもしれない。相談かな?周りは上級生ばかりだし、いくら優秀とは言えやっぱり不安だよね。
私は少しでも親身に話を聞こうと、今の私にできる1番優しい笑顔で彼女に問いかけた。
「気安く呼ばないでくださる?」
「あ、はい。すみません……」
あれ?なんか違うぞ。
相談って雰囲気じゃないよね。ていうかなんか怒ってる?私なんかしちゃった?
私の中で描いていた可愛い後輩像がたった一言によってボロボロと崩れていく。
「話には聞いていたけれど、どうしてこんな方が。わたくしの方がずっと……」
えっと……ほんとに何?
私は置かれている状況が理解できなさ過ぎて、ただただ立ち尽くしていた。
「えっと、どうしたの?……」
しばらくたって泣き出した彼女にとりあえず声を掛けた。
すると彼女はさっきまで流していた涙を止め、ムッとした顔でズンズンと距離を詰めてくる。
「貴方は全然ふさわしくないわ!セドリック兄さまの隣に立つのはわたくしよ!」
セドリック……兄さま?
「ちょっと兄さまに気に入られているからって調子に乗らないで頂戴。学力だって大したことないくせに。第一レオン皇子の婚約者なら兄さまに近づかないで!わたくしがこれまでどれほどの努力をしてきたと……」
「こらリズ、止めるんだ!」
怒りのあまり私に掴みかかってきた彼女を止めたのは、セドリックだった。大方声が聞こえて様子を見に来たのだろう。バトルロワイヤルの会議室は私たちの使っている会議室の向かいだから。
彼女はセドリックを見ると、途端に顔を青くして手を離した。
「セドリック……兄さま」
「リズ!何やってるんだ!」
普段温厚なセドリックだが、この時ばかりは怒りを露わにして声を荒げた。それに対し彼女はショックだったのか、「だって……」と小さい声で繰り返し今度は静かに涙を流した。
「エマ大丈夫?リズがごめんね」
私に掛けられた言葉は先ほどの様子からは想像できないほど優しく穏やかな表情から発せられた。その様子を見た彼女はさらに流す涙の量を増している。
あぁ、確かにこれは可哀想だわ。本来ヒロインならここで彼に泣きつくんだろうけど……
「大丈夫。心配してくれてありがとう」
私は淡々と礼を述べ、頬に添えられた手を下ろさせた。
「それで、全然話が見えないんだけど。セドリックとエリザベス……さん?はどんな関係なの?」
未だ泣きっぱなしの彼女を見ながらセドリックに問いかける。
「あぁ、彼女は僕の従妹だよ」




