魔法の重ね掛け
「古代魔法の重ね掛け、ですか」
「えぇ、現代魔法における縦横重ね掛けをさらに古代魔法を組み合わせた形で出来ないかなと思って」
縦横重ね掛けとはその名の通り、縦と横それぞれの方向の魔法を重ねることで魔法の強度を倍増させるものだ。1つ1つは簡単な魔法でもこの方法で重ねることで強力な魔法へと変化する。
私が提案したのはここに現代魔法だけでなく古代魔法を組み合わせる方法だ。事実上2種類の魔法が1度にかかっているので解除するときにも同時に2つの解除コードが必要となる。
「悪くない。それなら失敗のリスクも少なく強度も維持できる」
「それは古代魔法を操れる人間なら、ですよ」
古代魔法の理論自体の研究は進んでおり学問としても確立されているが、それを自在に操れる人間は今はいない。古代魔法っぽい魔法ならあるが……という感じだ。
まぁ仕方ない。今まで古代魔法の祖であるラーハの研究が何一つ進んで無かったんだから。
「エドガー先輩。古代魔法は私に任せてください」
「……?」
「この春休み死ぬほど勉強したんで」
「それなら俺もやるわ。こいつほどじゃないけど勉強したしな」
「でも、仮に出来たとしても現代魔法と重ねるなんて……」
相性のいい魔法を作ることは大前提として、それを1つの魔法とするにはそれぞれの魔法の効果が打ち消し合うのではなく相乗効果をもたらすようなものでなければならない。
「そんなの競技で使うレベルの魔法じゃないですよ……普通に学会レベルです。そんなものをこの短期間でなんて」
「先輩……気合ですよ」
こっちは去年の魔法競技大会で地獄を見てるのよ。
今更魔法1つ作るくらいで大したことは無い。
「はぁ……分かりました。やりましょう」
渋っていたエドガーも勝つにはこれしかないと思ったのか、最終的には首を縦に振った。
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「という訳で、僕たち本戦組はこのような魔法を開発することを目標に準備を進めます」
「凄いですね。発想力も決断力も……」
ベンは驚いたように目を見開いた。
「これを考えたのはエドガー先輩ですか?」
「いいえ、そこにいるエマさんですよ」
「へぇ……そうでしたか」
彼は興味深いと言った様子でこちらに目線を向けた。
あぁやっぱカッコいい……じゃなくて、マズい。できるだけ興味を持たれないようにしようって決めてたのに!
「では新人戦の方も進捗を教えていただけますか?」
しかし、彼はそれ以上特に何も言ってくることは無く会議は滞りなく進んだ。
ある程度方針が固まると、そこからは個人というか各チームの作業になるので、次回までにやって来ることを決めて会議は終了した。
研究室に行ってちょっとでも作業を進めようと、みんなと一緒に出て行こうとした私の腕を誰かが掴んで引き留めた。振り返ると、それは今回唯一の1年生、学年主席のエリザベスだった。
「エマ先輩、少しお時間よろしいでしょうか?」




