無意味な喧嘩
私たちが使っていた会議室の向かいにある部屋。
そこはもう1つの団体種目、マジックバトルロワイヤルの出場者のために貸し出されている。
彼らはまだ新人戦のメンバーとは合流しておらず、中には本戦のメンバーのみ。それもみんな顔見知りなので上手く作戦を練って、当初の予定ではもうすでに実践練習に入っているはずだった。
「……よ!」
「だから……だって!」
部屋の外からでも聞こえてくる声。
結構仲のいいチームになるとエドガーも踏んでたはずなのに、ふたを開けてみれば毎日揉めてばかりいる。
「だから、誰か1人でも残ればいいんだから誰が残っても一緒よ!」
「誰が残ってもいいなら僕が残っても問題ないだろう?」
「は?俺が残るって言ってんじゃん?」
ドアを開けると、彼らの言い合いがダイレクトに聞こえてくる。
私は思わず知らんぷりをして逃げようかと1歩退いたが、生憎と逃がす気はないといったエドガーに腕を掴まれる。
「えっと……2人共その辺にしといた方が……」
そう言った瞬間、全員の視線が一気に集まる。
部屋の隅には諦めたようにソフィアとイザナが、それぞれ読書と筋トレをしている。セドリックとアルバートの言い争いを何とか止めようとしていたエリカはもうすでに疲れ切っていた。
というか2人共怖いよ?瞳孔開いてるけど。
「エマ!」「エマちゃん!」
「は、はい!」
2人に突然名前を呼ばれた私は咄嗟に大声で返事をする。
すると、さっきまで言い争っていた2人はいがみ合いを止め、こちらに駆け寄ってきた。
「エマはマジックバトルロワイヤル見に来るんだよね?」
「えっと……うん?」
「じゃあやっぱり僕は譲るわけにはいかないな」
「俺だってそうだぜ?」
え、これどういう状況?全く意味が分からないんですが。
「君たち、いい加減にしなさい。来週からは後輩たちとも合流予定なんですから」
「センパイ。俺は別にセドリックが言って来なきゃ何も問題は無いんですよ」
「アルバート。君こそいい加減諦めたらどう?僕が最後まで残る」
「ストップ!」
エドガーは心底呆れたように頭を抱えた。
「君たちの言いたいことは大体わかりました。いいですか?エマさんはマジックバトルロワイヤルは見に行きません」
「なんで……」
「同時にトレジャーハントがあるからですよ。去年もそうだったでしょう?それに試合時間で言えば君たちの方が早く終わりますからどちらかというと見に来るのは君たちの方になりますよ」
刹那。会議室に沈黙が走る。
すると、いがみ合っていた2人はさっきまでの様子とは一変して最後まで体力を温存し勝ち残る役を譲り始めた。
「君がやりなよアルバート」
「いやいややっぱり学年主席のセドリックが適任だよな」
「「勝てれば何でもいい」」
いきなり意見が変わりすぎてなんだか怖い。
ソフィアとエドガーは呆れた表情を浮かべているし、エリカに関しては怒りすら感じているように見える。
「しょーもな」
「結局、2人もただの男子高校生ですね」
え、なに?何が起こったこの一瞬で。
みんなが呆れている中、私とイザナだけが頭に?を浮かべていた。




