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「ところで君たちは何の種目に出る予定ですか?」
生徒会役員は選考会まで忙しいので、練習場所に演習場を貸切るくらいなら出来ますよ。
それぞれが作業をしていると、ひと段落したエドガーは眼鏡を外し、コーヒー片手にそう言った。
……え?出場前提ですか?
私は今年出るつもりなかったんだけど……
ただめんどくさいと言うだけではない。そもそも魔法競技大会は学生のアピールの場。去年の私は魔法省の人間にアピールしようと張り切っていたが、今年はそうではない。
何故ならもう私の進路はクリスタル帝国の皇太子妃もしくは魔法省で決まっているのだから。
レオンとの契約で、卒業までに私が彼を好きにならなければ、魔法省へと推薦してもらう手筈だ。アスカニア王国王太子のヒューゴと卒業したら公爵家を継ぐ予定のセドリックからは私が卒業した暁には推薦状を書くと言った旨の契約を書面で既に交わしているので、条件は満たしているし、ほぼ確実に入省出来ると思って間違いない。
ただでさえ忙しいのに、出る必要なくない?
「あの……私は出場するつもりないんですけど……」
そう言うと、エドガーは目を見開いた。
「レオン皇子が君は絶対団体戦に出場させろと言っていたので、何か約束でもしているのかと思っていましたが……いいんですか?」
え?団体戦?
……あ、そう言えば。
1、妃教育は受けなくてもいいが、パーティーなど必要な場には必ず参加すること。
2、国民へのお披露目など公には発表しないが貴族たちには伝えるためそれにふさわしい行動をすること。
3、来年以降の魔法競技大会にも必ず参加すること。
レオンが提示してきた条件にそんなのあったな。婚約の方に気が行ってすっかり忘れていたけれど。
契約を破るわけにはいかないし……出来るだけ練習の要らない種目にするか。
「すみません。やっぱり出ます。1番練習要らないのってどれですか?」
「貴方、露骨にめんどくさがりますね。ちなみに貴方ほどの選手が出場しない選択肢はありませんよ。個人戦はともかく団体戦には絶対に出てもらいますからね。1番練習が要らない……個人戦ならやはりパワーサープレッションでしょうね。貴方ほどの魔力量なら練習無しでも本戦優勝は堅いでしょう」
パワーサープレッションは、一対一で行い、合図で同時に一つの的に魔法を当てる競技。所定の場所まで押し切った方が勝ちとなる。流す魔力の量がそのまま押す力になるので戦略や努力というよりはその人の純粋な魔力量とそれを流すスピードが問われるのだ。
「じゃあパワーサープレッションにします」
「適当ですね。というか貴方、昨年のウィザードシューティングで優勝していたでしょう。今年も出てもらわないと困ります」
「えー……ならパワーサープレッションとウィザードシューティングで」
出来れば目立ちたくないし、そもそもやる理由がないのでやりたくはないが、こればかりは仕方ない。去年の様子を見るに、魔法競技大会はウィンチェスター生にとって勝たなくてはいけない大事なものだし今年の2年女子はあまり実力が芳しくないようなので。
「僕もエマと同じ……というか去年と同じ種目にします」
「俺は去年ファーストポイントとパデルテニスに出てた訳だけど……今年は違うのにしようかなぁ」
「その2種目はアルバートに合ってると思うよ」
「けどイマイチ盛り上がらないし……ウィザードシューティング挑戦しようかな。セドリックとも戦ってみたかったんだ」
「……僕?アルバートがいいならいいけど」
セドリックとアルバートは意外にもやる気らしい。まぁ確かに2年生の場合本戦は3年生との熾烈な争いになるので出場するだけでも十分すごい。それに実際やってると楽しいし。
「エドガー先輩はどうするんです?」
「僕も基本的には同じものを。早めに本戦の団体戦メンバーはある程度決めておかないといけませんね。本戦の出場メンバーは選考会をするまでもなくエントリー集計をすれば大体わかりますから」
新人戦のメンバーを考える時間を確保するためにも余裕をもって進めておかないと、とスケジュールに何やら予定を書き込んでいる。
なるほど、そう言う感じで考えてたんだ。確かに魔法競技大会は基本的には魔力量がものを言う競技ばかりなので、努力したからと言って去年と順位が大きく変わることは考えにくい。というかよっぽど使用魔法を工夫しない限り、特定の人が2種目とも出場するように上位層は入れ替わらない。
選考会で新入生のポテンシャルをしっかりと見抜くためにも、本戦の団体メンバー選考にはあまり時間をかけていられない、というか選考会を待っている場合ではないと言う事だろう。
「エントリー受付は最初の考査が終わってすぐ。忙しくなりますからそれぞれ準備をお願いします」
「「はい」」
ここまで読んでくださりありがとうございます。
先週は私生活が忙しく中々更新が進みませんでしたが、また今日から更新していきますのでよろしくお願いします。ところでこれからは2年生編の中でも魔法競技大会編へと突入していきます。昨年とは少し違った魔法競技大会を楽しんでいただけると嬉しいです。
少しでも面白いと思った方、ブクマ評価感想レビューお待ちしています。
これからも『ヒロインって案外楽じゃないですよ?』をよろしくお願いいたします!




