アレの季節
新学期が始まって1週間。怒涛の体験入部期間を終え、私たちの生活も落ち着きを見せ始めていた。
各部活の申請や予算も予定通り行われ、絢斗の様子も特にこれといった変化はない。
「そろそろ、アレの季節ですね」
「あれって何です?」
生徒会室で優雅にハーブティーを飲んでいると、どこからか帰って来たエドガーが封筒を持って入ってきた。私たち3人は彼の言葉に首を傾げる。エドガーは黙って生徒会長用の椅子に腰かけた。
しばらくすると、セドリックが思い出したように言った。
「そう言えば……もうすぐ魔法競技大会ですね」
魔法競技大会。スターズと言われる5校の魔法学校が集まって、学校別で魔法競技を競う大会。ウィンチェスターアカデミーは10年連続優勝を誇っている。去年は新人戦の団体で出場したんだっけ。なんだかもうすでに懐かしい。
「選考会とエントリー集計、団体戦メンバーの選考……去年を思い出すと頭が痛い」
「まぁ去年はエドガー先輩1人だったしなー」
そりゃキツイだろとアルバートが笑う。
おーい、アルバート。エドガーが君のことガン見してるよー。
おそらく彼は今回もこき使われるのだろう。
「すぐに選考会の募集用紙を作らないと……エマさん、お願いできますか?これが去年の資料です」
「わかりました」
「セドリック、君はエントリーシートをお願いします」
「はい。競技は昨年と同じですか?」
彼の言葉を受けて、エドガーは持っている封筒の中を探る。分厚いホチキス止めされた資料をパラパラとめくり、素早い動作で該当の箇所を開いた。
「今年は……個人戦種目は同じですね。ただ、団体戦種目は変更になったそうです」
団体戦種目のトレジャーハントとフラッグサバイバル。
けれど、今年はフラッグサバイバルが廃止され新競技が採用された。
「マジックバトルロワイヤル?」
「選手は全員箒に乗り、落ちれば失格。最後まで残っていた学校の勝利。殺さなければどんな手段を使っても可……だそうです」
つまり、対人の攻撃魔法も使用可能だと言う事。それにしても野蛮過ぎない?絶対怪我人大量発生じゃん。
「どうしてそんな競技が採用されたんです?」
「知力を競うトレジャーハント。魔法を競うフラッグサバイバルという形で運営してきたが、昨年度の試合傾向的にフラッグサバイバルが頭脳勝負に偏り始めているため、単純な実戦形式をとった、だそうですよ」
え、それって私たちのせい?いやまさか。
この競技の最終決定権は確か魔法省が持っていたはず。監修だって言ってたし。魔法競技大会は生徒が各所に自分をアピールできる数少ない場。昨今の状況を見るに、魔法省はすぐにでも現場に出せる即戦力が欲しいのだろう。だからわざわざ頭脳系と実践系の2競技を採用している。
「でも今年は黄金世代いないしなぁ」
アルバートの言葉にみんなが頷いた。
今の4年生、つまりアクアやエイドをはじめとした彼らはその飛び抜けた優秀さから黄金世代と呼ばれていた。昨年の本戦は彼らの活躍で、どの競技も圧勝だったという。けれど、4年生は基本的には魔法競技大会には参加しない。
してはいけないと言う決まりはないが、それぞれがインターンで忙しいのと、もうインターンやらなんやらに出ている彼らにとっては魔法競技大会の出場はあまりメリットが無い。学校としても勝ちたいのはもちろんだが、それ以上にインターンや就職先に大きく影響を与える彼らの将来への大事な機会を重視している。そのため、新人戦は1年生。本戦は2,3年生で行われる。
学校によっては4年生が少し出ていたりもするが、ウィンチェスターアカデミーでは基本的にそれは無い。つまり今年は今の3年生と、去年あまり結果の振るわなかった2年生で本戦に出場しなければならないと言う事。1年生の力量はまだあまり分かっていないが、まず間違いなく去年以上に大変な戦いとなる。エドガーは考えたくもないと頭を抱えていた。




