転校生
「アストロスクールから来ました。一条絢斗です」
ウィーブルに着くと、改めて全員が自己紹介をする。
エドガーから順に回し、最後に絢斗の番が回ってきた。『アストロスクール』その名前を聞いた途端、空気が凍った。
しまった、口止めしとけばよかったかな。
「僕の記憶だと、アストロスクールって……」
「普通科高校の名門だったはずだぜ?」
「そもそもスクールと呼ぶのは普通科高校のみですよ。魔法科高校はカレッジかアカデミーと呼ぶことになっているので」
3人とも訳が分からないと混乱していた。
そりゃそうだ。普通科高校に通うのは魔法が使えない生徒。そんな学校から魔法科高校の名門であるウィンチェスターアカデミーに異例の転入。理解できないのが普通だろう。
「詳しいことは言えないんだけど、魔法省関連で色々あって私がウィンチェスターアカデミーに入学するよう勧めたの」
「エマが?」
「てかエマちゃんと一条君ってどういう関係な訳?」
「彼の転入にはクリスタル帝国のレオン皇子が関わっていると聞きましたが、どういうことです?」
質問攻めにされ、私は昼食どころではなかった。
絢斗に答えさせると、言ってはいけないことまで言ってしまう可能性があるので全ての質問に私が答える羽目になったのだ。
「……疲れた」
「お疲れだね」
やっとのことで解放されると、私は絢斗に学校の案内をしていた。
着いてくると聞かなかった彼らは、予期せぬトラブルで呼びに来た生徒のおかげで総動員だ。何でも新入生が早速揉め事を起こしその仲裁にセドリックとアルバートが。エドガーは理事長から何やら呼び出しを食らったようだった。
「ここは?」
「とある先輩の研究室」
学校のはずれにある棟の角部屋。
ここは、魔法工学の天才エイド・ボイスのための専用研究室。正直外部の研究所と比べてもかなり設備が整っている。しかし、その待ち主は今ここにはいない。
エイドはこの春晴れて4年生に進級し、有名な研究所へインターンをしている。彼に限らず4年生はそれぞれ時期や期間は違えど、ほとんど学校にいることは無い。
エイドの場合は夏前まではもう戻って来ないらしい。
そこで、私は彼にこの研究室を不在の間貸してくれと頼んだのだ。
ここなら設備がかなり整っているので、絢斗や古代魔法に関する研究も問題なく行えるし、何よりセキュリティーが高く人が来ないのでそれが外部に漏れる心配がほとんどない。
たくさん並んでいる機材も、ほとんど彼から使い方を教わっているし、何なら入り浸っていたので落ち着く。エイドとしても、掃除や機械のメンテナンスのことを考えると私が使ってくれていた方がいいと快諾してくれた。
「この春休みに古代魔法について色々勉強したの」
まだ全然終わりは見えないけど。
「絢斗にはこれからここで定期的な魔力量の計測、魔法の実践を通して私の研究に協力してもらう。クリスタル帝国の間も魔力を取り込んでたと思うけど、もし気分が悪くなったり異常が起きたらすぐに言って、わかった?」
「うん、約束する」
レオンからの報告で、彼がもうすでに座学ではウィンチェスターアカデミーの授業について行けるレベルに達したと聞いた。実技やその他の日常生活に関しても、春休み期間に私が出来る限り環境を整えたつもりだ。あとは、絢斗にも対価を支払ってもらわなくては。
「じゃあこれから私が呼んだらここに来ること。よろしくね」




