入学式Ⅱ
「太陽の光が満ち溢れ、命が生き生きと活動を始める春、私たち250名は名門ウィンチェスターアカデミーの1年生として無事入学式を迎えられたことをとても嬉しく思います。本日は私たちのためにこのような素晴らしい入学式を開いていただきありがとうございます。期待と不安に胸を膨らませ……」
「良かったですね。新入生が優秀で」
「いや全く」
結局、私が怒られることは無かった。正しくは怒っている時間が無かったのだが。
何でも総代を誘導する役割を任せていた子は間違えて別の人を連れてきてしまっていたらしい。私が彼女を連れてきたのは式が始まる15分前。もうすでに保護者の入場が始まってしまっているのでリハーサルどころではない。
並みの新入生であれば緊張でガチガチになるところだが、彼女はそんな緊張を全く感じさせず堂々たる態度で挨拶をこなしていた。
長い式が終わると、新入生はそのまま学生寮へと案内され、明日からウィンチェスターアカデミーの生徒としての生活が始まる。学生寮への案内は寮母さん始め、他の生徒の仕事なので私たち生徒会メンバーは出席者の退場が済むと会場の片付けを行う。
「魔法って便利だな……」
定期的に思う。この作業も手作業でやるなら4人でなんて無茶苦茶だが、浮遊魔法など簡単な日常魔法で椅子やカーペットの撤収は一瞬で出来てしまう。片付けるだけなので設営の時よりもかなり早く終わってしまった。
「お腹すいたー」
「そうだね。お昼食べに行こう」
「それでしたらウィーブルへどうぞ。今日は休みなので」
「それって新メニューの試食っすか?」
「食べるからには役に立ってくださいよ」
「よっしゃ!」
この後はもう仕事もないので、ウィーブルでお昼ご飯にしよう、と盛り上がっていると、講堂の入り口から名前を呼ばれた。
振り返ると、そこにはウィンチェスターアカデミーの制服を見に纏った一条が立っていた。
「久しぶり、一条君」
「うん。もう絢斗でいいよ」
「じゃあ絢斗。ウィンチェスターアカデミーへようこそ」
どうも。
彼は少し恥ずかしそうにはにかみながら頬を掻いた。
転入生とはいえど、どうせ新学期からなので入学式に参加しないかと誘われたらしい。
「新入生とは別で案内するって言われたから学校を見て回ってたんだ」
「そうなんだ。じゃあ私案内しようか?」
「え?本当?」
「はい、そこまで」
私と絢斗の間をエドガーが割って入る。
振り向くと、そこには明らかに機嫌の悪いセドリックとアルバートが黙ってこちらを見つめている。
「君が2人目の転入生ですね?僕はこの学校の生徒会長をしているエドガー・ルイスです。申し訳ありませんが、エマさんはこれから僕たちと昼食の予定なので、案内はその後にお願いします」
エドガーは眼鏡をグイッと持ち上げて、いつもよりも低い声で言った。2人目?
「そうですか。分かりました。じゃあエマ、その後に」
「あ……うん」
「いえ、エドガー先輩。彼も昼食に誘ってはいけませんか?エマと知り合いのようですし……是非とも仲良くなりたいです」
「そうそう。エマちゃんとの関係も聞きたいし、なぁ?」
珍しくセドリックとアルバートの意見が一致した。それを聞いたエドガーも何か思うところがあるのか、すぐにその通りだと二人の提案を受け入れた。
「君はどうですか?」
「えぇ、ではぜひお願いします」
絢斗もそれを受け入れ、結果5人でウィーブルへと向かうことになった。




