役割分担
どうして、と聞く間もなく彼はテーブルにクロッフルを3つ置いた。
注文したのは2つのはず、と首を傾げているとエドガーは他の席から持ってきた椅子をこちらに寄せて腰を下ろした。
あぁ、一緒に食べるんだ。
「お久しぶりですね。エマさん」
「そうですね。ご心配をおかけして申し訳ありません」
「いえいえそんな。少しインターン先の魔法省にお話をお伺いしただけですよ」
「あはは……」
ニコリと微笑みながら、彼は棘のある言葉を次々と浴びせて来るので、私はただ笑ってごまかすことしか出来なかった。
「転入生もやって来るとか」
「……流石生徒会長、情報が早いですね」
いや、知っててもおかしくは無いと思ってたけど、決まったのって言っても数時間前だよね?
優秀なのか何なのか、ちょっと怖くなってくる。
「まぁ僕が貴方にわざわざ会いに来たのはこれとは別件です」
「別件?」
「生徒会関連だよ」
アルバートの言葉を聞いて、そう言えば年度末だったなと思い出す。
「卒業式とその後のプロムは生徒会が運営することになっています」
「プロム?」
「プロムナード。簡単に言えば卒業パーティーですね。参加者は卒業生とOBOG、後は招待された在校生です。会場は学校のホールを使って行います」
あぁ、海外でよく聞くヤツか。
その日は国中から一流シェフや音楽家を雇って、豪華なダンスパーティーが行われるという。
「僕たちはこれからその準備をしなければなりません。よってそれぞれに役割分担をしたいのですが……」
エドガーは私の顔を見ると、ハァとため息をついた。
「今回のように突然いなくなられては困ります。卒業式まで再びインターンの予定はありませんね?」
卒業式の準備は、会場設営に始まり、来賓の招待や卒業記念品の選定、卒業生用のコサージュの発注など多岐にわたるそうだ。それはプロムも然り。確かにそんな忙しい時期に突然消えられては、責任者のエドガーとしてはたまったものではないだろう。エドガーの問いはもっともなものだった。
「えーっと……わかりません」
けれど、私もいつ呼び出されるかはわからない。だってこの間も突然だったし。
魔法省に聞いても、レガリアについて情報が分かり次第、という返答以上のものはおそらく得られない。
エドガーはある程度察していたのか、特に驚く様子も見せず、ではこれだけお願いしますと1枚の紙を渡してきた。
そこには、卒業生用のコサージュの発注、卒業式会場の設営業者の選定、プロム会場の予約など簡単な仕事が羅列されていた。おそらくこれらは毎年同じことをしているので、昨年度までの資料を見てやれば特に問題なくすぐに終わるだろう。
「これだけで……いいんですか?」
「貴方に重要なことを任せて途中で放棄、なんてことになるよりはずっとマシです。貴方の仕事は正確で速いですから、この程度ならすぐ終わるでしょう。それに今年は優秀な後輩があと2人もおりますので」
「……まさかまたこき使われます?」
私やセドリックが学校を空けていることが多い分、すっかりアルバートはエドガーに使われてしまっているらしい。
そこから少し事務的な話をして、後は私がいない間の近況を彼らから聞いていた。
少しの間と思っていたけれど、思っていたよりも色々なことが起こっていたようで、彼らの話はいくら聞いても飽きなかった。
「何か人が増えて来たな」
「あぁ、もう昼休みですね」
気が付くとすっかり授業は終わって昼休みに入り、私たちはこのままウィーブルでランチを食べようと話していた。
「それでさ……あ」
「どうしたの?アルバート……あ」
突然私の背後を見るアルバートにつられて私も後ろを振り返る。
「やぁ、久しぶりだね。エマ」
そこにはいい笑顔のセドリックが立っていた。




