おねだり
「……もうやだ」
「ハハッ!可愛かったぜプリンセス?」
レオンはそんなことを言いながら頭を撫でてきた。
一条はどうしていいのかわからずずっと黙っている。
止めろと払ってやりたいところだが、彼はこの一瞬で私の願いを叶えてしまったのだからあまり無下にするわけにもいかない。
レオンはクリスタル帝国のいくつかの権限を既に皇太子として国王から引き継いでおり、ベノさんに連絡すると、彼は案の定渋ったがやはりクリスタル帝国を敵に回すわけにもいかず、クリスタル帝国からいくらか寄付をするとレオンが進言すると検査や捜査協力をしてくれるならと渋々許可を出した。
ウィンチェスターアカデミーにおいても、基本的には転入生は受け付けていないが、クリスタル帝国の皇室からの推薦ともなれば無視することは出来ない。
アスカニア王国としてもクリスタル帝国とは友好関係を築いておきたいので、こちらも特に問題なく受け入れられることとなった。一条は来年度から私たちと同じ2年生として転入させてもらえるよう取り計らうと約束させたのだ。流石はクリスタル帝国の皇太子。性格は終わってるけど、彼自身頭はキレるしなにより権力の使い方が上手い。
「あの、これからどうするん……ですか?」
一条は不安そうにそう尋ねた。
「俺はクリスタル帝国に戻るが、エマはどうするんだ?」
「私はそのままアスカニアかな。1ヶ月以上学校行ってないし、流石に行かないとね」
「コイツの入学まではまだある。良ければ俺の方で入学まで預かるが?」
「え、いいの?」
「あぁ、お前も忙しいだろうし何よりお前がこれ以上コイツに時間を割いているのを見たくないんでな」
「あはは。ありがとうございまーす」
レオンのセリフを軽く流すと、私は一条にそれで問題ないかと確認する。彼にとってもいきなり学校に放り込まれるより、ある程度レオンの元でこのあたりの文化や魔法科高校の授業について教えてもらった方が良いだろう。
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「じゃあまたな」
「はい。次会うときは事前に連絡してくださいね」
「善処する」
あぁこれ絶対アポなしで来るやつだ。
クリスタル帝国に着くと、2人は馬車を降りた。私はこのままウィンチェスターアカデミーまで送ってもらうことになっているのでここでお別れだ。
レオンはいつも通りだったけど、一条はやはり不安なのか浮かない顔をしていた。
「大丈夫?」
彼に家族やらなんやらを捨てさせて連れてきたのは私なので、それなりに罪悪感はある。レオンにも言ってあるし、ウィンチェスターアカデミーに入学するまでそれなりの待遇やサポートは受けさせてもらえるはずだが、彼もまだ16歳。不安なものは不安だろう。
「うん。エマ、その……ありがとう」
「え?」
「あそこから出してくれて」
あそこ、というのは彼の実家のことだろうか。諜報員の調査以上に詳しくは聞いていないので表面上の話か私は知らないが、彼なりにかなり苦労していたのだろう。
と言っても、感謝すべきは本来こちらなのだけど。
私は自分に都合のいい駒になると思ったから助けただけ。そこに情が全くなかったわけではないけど恨まれることはあっても感謝されることなど無いと思っていたから。
「ウィンチェスターアカデミーで待ってるね」
レオンが何やらギャーギャーと騒いでいたが、私はそのまま扉を閉めて出発するよう頼んだ。
ビクビクしている御者の人には悪いことをしたなぁ。
ウィンチェスターアカデミーに着くと、平日の昼間で皆授業に出ていることもあって、とても学校とは思えないほど人気が無かった。
私がいない間に花壇の花が変わっていた。冬の花が無くなり、いよいよ春の花が芽吹こうと準備をしている。1ヶ月って短いようだけど、意外と長いんだなぁ。
彼の入学までまだ少しある。私もそれまでにやるべきことはやっておかないと。
「よし、また頑張ろう」




