条件
「話って……?」
「エマが俺に連絡してきたんだ。助けてくれってなぁ?」
横からニヤニヤと嫌な視線を感じる。できれば一条には聞かせたくなかったけど。
まぁどうせ話さなきゃいけないことだし。私は腹を括って説明し始めた。
「今回の件でエレジアの摘発には成功したけど、まだまだヴィムスやその傘下の情報は謎に包まれている。私に上がってきた報告書では、エレジアの幹部たちは尋問する前に自害。というより殺されたみたい。だから結局傘下の1つを潰してレガリアを守っただけ」
でも、エレジアの本部に残されていた資料の一部にエレジアはヴィムスからの指示でとある人体実験をしていたことが分かった。その実験とは、非魔法族を魔法族へと強制的に進化させるというもの。
そしてその実験の被験者で唯一の成功例となりそうなのが。
「君だよ。一条絢斗君」
レオンは「なるほど」と面白そうに口角を上げた。
「一条君には定期的な検査と捜査への協力をしてもらう代わりに今回の件は不問にしたの」
この件が公になれば刑務所送りどころが、魔法省の指示によって殺されることは間違いない。でも、殺してしまうには惜しい。保有できる魔力を増加させたところで、魔法回路や膨大な魔法式をほとんど無意識下で処理する演算能力は後天的に生まれるのか。それともやはり上手くはいかないのか。彼らがこの実験を続けるだろうと言うことを考えると、私たちとしてはそれ以上の情報を先に掴んでおきたい。
彼としても殺されるくらいなら実験を続けている方がマシだ。そもそも彼は自分から望んで実験を受けていたのだから。もしかしたら魔法が使えるようになるのかも、という淡い期待を抱きこの契約を了承した。
「でも、このまま彼の身柄を完全に魔法省に預けるわけにはいかない」
魔法省に預けてしまえば、彼は完全にモルモット扱いになるし、彼らがこの実験を自分たちのために使わないとも言えない。彼らは世界の安定や平和のためにはある程度の犠牲や手段は選ばないのだ。
私は彼をそこで終わらせてしまうのはもったいないと思っていたし、上手く使えばもっと素晴らしいカードになると確信していた。
「だから、彼にもちゃんとした魔法教育を。監視も兼ねてウィンチェスターアカデミーに入学させたいの」
けれど、それは私の我儘だけでは到底通らない。
本当は戻ってから直談判しに行く予定だったけど、正直レオンから来てくれたのはありがたい。使者を通したりアポを取っている時間は無かったから。それに彼が居なきゃこの話は進まない。
「お前の聡さは俺もとても好ましく思っている。なにより可愛い可愛い婚約者の初めてのおねだりなのだから、叶えないわけにはいかないな」
レオンは笑ってそう言った。
気障なセリフは置いておいて、そんなに簡単に引き受けてくれるとは思っていなかったので正直拍子抜けだった。なんだ、意外といいところあるじゃん。
「ただし条件がある」
「条件?」
「お前が可愛くおねだりしてきたらな」
……は?
前言撤回。どうやらこの皇子はどこまで行っても救いようのない性格の悪さを持っているらしい。




