実験
「魔力?誰の?」
「さぁ、それは知らない」
「そんなのもらってどうするの?」
「これを取り込むと魔力量が増えて魔法が使えない人間でも魔法が使えるようになる」
「……は?」
これはどこかの誰かの魔力を吸収した一種の魔法石なのだと言う。確かに直接魔力を吸収すれば魔力量は1時的とはいえ上昇する。でも、魔法師が魔法を使えるのは、何も魔力量だけが問題ではない。膨大な魔法式をほとんど無意識下で処理する演算能力、そしてそれは魔力を通す魔法回路があってこそ可能となる。それを持たない非魔法族が魔力だけ得たところで魔法が使えるほど魔法は甘くない。
『私たちの研究。完成させたの?』
「リーシェ?」
突然出てきたリーシェに私は驚く。もちろん契約で私以外には見えないので周りの人たちは不思議そうにこちらを見ている。
「研究ってなに?」
『みんなが魔法を使えるようになる研究』
「そんなのラーハでやってたの?」
『うん。でも完成はしなかったわ。だって途中でそれを聞き付けたアスカニア王国がその研究を止めるためにラーハを滅ぼしたもの』
「でもただ魔力を得たところで魔法は使えないでしょ?」
『エマのはそうだけど、私たちのは魔力さえあれば出来るわ。それもはるかに少ない魔力で』
そこで私は今回の件に関して、使われていたすべての魔法が古代魔法だったことを思い出した。それも一般に知られている古代魔法ではなく、より祖であるラーハに近いもの。
「ねぇ、一条くん。それって誰でも自由に魔法が使えるようになるの?」
「取り込みさえすれば、アイツから教えてもらった魔法は全部出来たよ。現代魔法は試したけどダメだった」
「そう」
「でも、自分のキャパを超えた魔力は毒になる。取り込んだ者は魔法を使って消費するまで魔力過剰症の症状を抱えることになる。だから、同じ信者の中でも魔法に憧れはあれどやってる人間はほとんどいなかったよ」
魔力過剰症。魔力欠乏症の反対、体内の魔力量が自分の許容量を超えることで起こる。とはいえそんなことが起こることはめったになく、稀に妊娠中に胎児が強力な魔力を発現した場合に妊婦が発症する程度。症状としてはほぼほぼ魔力欠乏症と同じ。極端に症例が少ないため詳しいことはまだまだ分かっていないが。
「一条君はどうして続けてたの?一時的なものじゃ君の望む結果にはならないでしょ」
「魔法を使って消費せず、定期的に魔力を摂取すればいずれ自分の中のキャパがそれに順応し始める。もちろん死にそうなくらいしんどいし、実際死ぬ場合もあるけど」
彼の言葉に一同はまさか、と耳を疑った。
信じられない。けれど彼はまるで見て来たかのような口ぶりで話していく。
「僕は初めての成功例。半年摂取し続けて、キャパは倍になった。いずれ僕の中の魔力生成量もキャパに追いつくよ」
魔法回路が出来るかまでは分からないけど。
「なるほど。そういうことね」
「ちなみにお探しの翡翠の剣はアイツに頼まれて僕が学校に忍び込んで盗んだ。魔法封じの呪文と転移魔法でね」
「手口については後でじっくり聞くね」
「いいの?翡翠の剣の場所とか聞かなくて」
「あぁうん。それならもう回収終わったらしいから」
「……は?」
「流石魔法省は優秀だよね」
聞こえてきた任務成功の知らせを受け取り感心する。予定よりもだいぶ早い制圧だった。
エレジアの所在は全て押さえ、幹部もしっかり取り押さえられたという。ヴィムスや他の傘下のグループも別件で魔法省のヒューゴ達精鋭とやり合っており余裕が無かったのか、思ったよりもあっさりとした結末だった。
「ねぇ一条君。私と取引しない?」




