確保
追跡魔法で確認しながら彼の家へと向かう。
とはいえ彼の家は人通りが多く人目についてしまうので、通学路の中でも人目に付かなさそうな場所を選んで待ち伏せすることにした。
待っている間、私は近くのカフェでテイクアウトしたホットココアを片手に一緒のグループになった職員たちと話していた。
「エマちゃんは将来魔法省に就職するの?」
「はい。そうなればいいなって感じですね」
「でもレオン皇子の婚約者なんだろ?」
「任務のためにしただけですよ。向こうにもそう言ってますし」
「昨日報告ついでにベノさんがぼやいてたよ。ウィンチェスターアカデミーの生徒がうるさいって」
「あぁ俺も聞いたよ。バートン公爵家とかグレンジャー宰相家、商家のルイス家なんかがエマ・シャーロットの居場所教えろって圧力掛けてきてるとかなんとか」
え、なにそれ初耳なんですか。
私の知らない間にそんなめんどくさそうなことになってるの?
「エマちゃん何も言わないで来たの?」
「急だったし、多分また魔法省のインターン行ってくるくらいは言ったと思うんですけど……」
期間とかはそう言えば言ってないですね。
そう言えば、彼らはまぁそうだよなぁと苦笑いした。
「任務の内容的にも場所をいう訳にもいかないし」
ベノさんに胃薬持って行ってやろうぜ。
なんて彼らは笑っている。けれど、私は戻った後のことが憂鬱すぎて一緒に笑う元気は無かった。
そんなこんなで時間を潰しているうちに、一条絢斗が家を出たことを魔法で確認する。
移動速度的にもおそらく徒歩。一緒に登校している生徒もいないと見える。
私たちは会話を止め、彼がやって来るのをじっと待った。
「……そろそろ来ます」
私がそう言うと、現場に鋭い緊張感が走る。
まだ他の現場からも報告は来ていない。まぁ話を聞いている限り失敗するようなことは無いだろうが。
「一条絢斗君だね?」
魔法省の者だ。私たちと一緒に来てくれないか?心当たりはあるだろう?
数人が出て行って彼に話しかける。彼はキョトンとしていたが、魔法省の職員に与えられるIDカードを見るなり目の色を変えた。
彼は持っていたカバンで前の1人を殴り走り去ろうとする。流石に諜報部員の反射神経では避けられなかったのか、真正面から殴られていた。
「動き止めます!」
物陰から見ていた私は、杖を振って彼の動きを止める。その間に残りの人間が彼を拘束した。
「大丈夫ですかー?」
「……これが大丈夫に見えるのか?」
一条を宿舎へと連行し他のグループに報告している間、私は殴られた彼の元へと駆け寄った。
結構な力で殴られたのと、そもそもかばんに入っていた教材が多かったことから、彼の顔は真っ赤に腫れ上がっていた。なんだか喧嘩した後を思い出すな、と思いながら私は彼の顔に手をかざし怪我を治す。そう言えばこれ使ったの2回目とかだよね。原作ではこれしか使っていなかったのに、今の私はほとんど治癒魔法を使わないため、存在を忘れてしまうほどだった。
作戦立案の時にも、怪我をしたら私を頼れと指示した人に、なんで私なんですかと尋ね返し変な空気を作ってしまった。え?治癒魔法使えるわよね……?と聞かれて思い出したときには時すでに遅し。完全に彼らの中で天然、というか馬鹿認定されてしまった。そういえばエマちゃんって呼ばれたのその時が最初だったな。あれは馬鹿にされてたのか。
怪我を治し終わり宿舎に戻ると、魔法封じの手錠をはめられた一条が取り調べ用の部屋に座らされていた。どうやら私が来る前に取り調べは始まっていたらしい。
聞こえてくる状況報告を聞く限り、他のグループも順調そうだ。
「さて、私も頑張ろ」
私は取り調べ室の分厚い扉を開けた。
「あぁエマちゃん。アレ持ってきた?」
「はい」
「……え?エマ?どうして……」
突然の私の登場に戸惑う一条を見て私はいつものように笑っておはようとあいさつした。
「魔法省インターン中の学生、エマ・シャーロットです」




