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尾行

「あれです」


家を調査済みということもあって、彼は驚くほど簡単に見つかる。魔法が使えない以上、簡単に見破られるはずがないので、私たちは認識阻害魔法を掛けて後ろから堂々と尾行した。

報告書によれば、彼はこの時間いつも街の図書館へ勉強しに行く。今日もおそらくそうだろうと思って私たちも後ろを歩いていたが、彼は少し歩いたところで方向を変えた。


「あれ?そっちは図書館とは正反対……」


彼は少し早歩きになって図書館とは正反対の方向へと歩いていく。その後ろを追いかけると、彼はあるところまで行くと周りを警戒するように見回して裏路地に入っていった。


「ビンゴかも」


ラッキーね。

そう言う諜報員と共に裏路地に入ると、彼は壁の中へと消えて行った。

彼女によると、これはまだ魔法省も把握していない入り口だという。一体どれだけ入り口があるんだろう。


「ここ、朝来たところじゃないです」


だだっ広い廊下。おそらくどこかの建物の中だとわかるが、私が見た集会の会場とは全く違う場所だ。もしかすると彼が関係しているのは私が見た新興宗教エレジアではないのかも。しかしその考えはすぐに消え去る。


彼の後を追いかけて入った1番奥の部屋。そこには今朝スピーチをしていた男と翡翠の剣があった。間違いない。犯人は彼らだ。

私たちはそのまま彼らの会話を見ていた。


「絢斗。学校の動きはどうだ?」


「警察が入って調査をしていますが、誰も魔法の存在には気付いていません」


「警備用の魔法が掛かっていたからもしかしたらと思ったが……所詮はその程度か」


これでカルロス様にいい報告が出来る。

男はそう言うと、翡翠の剣を撫でるようにじっくりと眺めた。


「では……!」


「あぁ、約束のものだ」


一条は男から何か石のようなものを受け取り、部屋を出た。


「……どうしますか?」


私は彼女に判断を仰ぐ。

どう考えても現行犯だ。どこかに持ち去られる前に捕らえるべきだろう。

けれど、彼女は首を縦には振らなかった。


「一旦戻りましょう」


「どうしてです?」


「ここがクリスタル帝国だからよ」


「……え?」


彼女が持っているスマホの地図には確かにクリスタル帝国と記されていた。

スマホの故障でなければ、さっき壁を通った時に私たちは長距離を転移したことになる。

人体の空間転移魔法。これには特殊な魔法石と魔法陣が必要なはず。魔法省ですら簡単には使用できないのに、それをどうして彼らが?


あれこれと疑問は尽きないが、彼女は一旦戻るべきだと言った。クリスタル帝国での戦闘及び調査の許可をとっていないため、下手に戦って周辺に被害を出すわけにはいかない。

仕方なく宿舎まで戻ると、中では他の職員がそれぞれの作業に追われていた。一緒に来た彼女はさっきのことをみんなに報告するからと他の職員の作業を中断させ、会議用の部屋に集めた。


私はその隅に座りながらその様子を眺める。

すると、不意にティアラが光った。


『エマ』


「リーシェ。どうしたの?」


もしかして、さっきのこと。何かわかるの?

そう尋ねるとリーシェはゆっくりと首を縦に振った。


『さっきの空間転移魔法。あれも私たちの国で使われていたものよ。彼らの中には私たちのことをよく知っている人がいるの?』


「さぁ、どうだろう」


『あの石もそうよ。あれは私たちの国でやっていた実験』


「実験?」


『未完成のまま終わっちゃったけどね』


ラーハが滅びちゃったから。

リーシェは悲し気にそう言った。


「リーシェ。ずっと聞きたかったんだけど……」


リーシェはアスカニア王国()に力を貸してくれてるよね。憎くないの?自分の国を滅ぼしたアスカニア王国が。


『うーん。憎いと言えば憎いかな。私は大人になれなかったもの』


言葉とは正反対に彼女はフフッと笑った。


『でも、ずっと憎んでいても仕方ないでしょう?今のアスカニア王国と昔のアスカニア王国は全然違うもの』


少なくともエマは、私が生きていた時に見たアスカニア王国の人たちとは全然違うわ。

曇りのない瞳に私は何かがこみ上げてくるのを感じた。尊敬というか驚きというか。この齢二桁もいかないような少女が私なんかよりもずっと大人でずっと聡明だと疑わなかった。


「さん?……エマさん!」


「あ、はい!」


「よろしいですか?」


「え?はい」


「では決まりですね。クリスタル帝国の許可はエマさんに任せましょう」


「……え?」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一条君組織とつながってますね。反魔法組織にいる理由もないわけではないですし相手をするのは面倒くさそうです。普通に考えて皇子に気軽に頼めそうなエマちゃんに許可を取る役が来るのは仕方ないでしょ…
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