エレジア
中へ入ると、そこにはたくさんの人であふれており、もはや1つの都市のようになっていた。集まる人々の国籍は様々で、おそらく入り口はここだけではなく至る所に隠されているだろうということが推測できた。そして、やはり魔法を使えない人が圧倒的に多い。学生も結構いるけれど、その制服はどれも普通科高校のものばかり。
「あの、今からここで何かあるんですか?」
「何だいお嬢ちゃん。ここへ来るのは初めてかい?」
そうなんですよー。
軽く笑って返事をすると、そのおじさんは今からここで集会をすると言う。怪しまれると困るので深くは聞けなかったが、おそらくここは反魔法組織の集まりで間違いないだろう。
次の瞬間、人々から割れんばかりの歓声が上がる。
私は押しつぶされないように少し小高い場所へと移動した。
『よく来てくれた。未来の希望たち!』
広場の高台から一人の男が宗教染みたスピーチを始める。残念ながら、顔はフードで隠されていて良く見えない。けれど、人々はその男にひたすら熱狂していた。
私はせめてこの光景を残そうとバレないようにスマホのカメラを起動する。
『この世界は腐っている。そう思わないか?魔法は全てを破壊してきた。今こそ、私たちの手で新時代を創ろうではないか!私たちこそ太陽なんだ!』
長々と話しているが、私にはその内容が全く理解できなかった。とにかくここにいる人たちは今の社会に不満を持っていて、それを変えるべく行動を起こそうとしている、私に読み取れたのはそれくらい。想定外だったのは、その規模の大きさ。私の見る限り、これはヴィムスではない。現在反魔法組織の中で一番大きいと言われている組織ではないのだ。なら、この世界の反魔法組織の総規模は?
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宿舎に戻るころにはすっかり日が暮れてしまっていた。
出たのは朝なのに。お腹もすいたしなんだか眠い。
そう思ってドアを開けると、そこには数人の魔法省の職員と思われる人たちがいた。
「……あ、遅くなってすみません」
色々ありまして。
この人たちもおそらく到着したところなのだろう。リビングへ向かう途中、彼らの服装を見て、私は首を傾げた。
「皆さんは研究職か何かですか?」
彼らが魔法省の制服を着ていないことに気が付いて声を掛ける。すると、彼らが取り出した身分証には役職のところに『諜報部員』と記されていた。
彼らは私がもらった事前資料などを作成することを仕事としていて、あまり表に出て事件を解決しているイメージは無い。どうしてあなた方がと問うと、魔法力の強い職員は別の事件に駆り出されていて、今は彼らしか動ける人材が居ないのだとか。
深刻な人手不足を感じつつ、逆にちょうどいいかと思って今日の出来事を彼らに報告する。
「それは本当にヴィムスでは無かったの?」
「私が受け取ったヴィムスの情報とは合致しませんでしたし、雰囲気も少し違う気がしました」
絶対とは言えないけど、やっぱり違う。
そう言えば、と私はあの時感じた違和感についても話す。
「魔法をなくすと言っているのに、彼らの集会所への入り口は魔法が掛けられた鏡でした」
普通なら、矛盾しているように感じるけど。
「それは古代魔法を使っているからでしょう」
「どういうことですか?」
「現代魔法と古代魔法では本質が違いますし、何より必要な魔力量が少ない。反魔法組織の中には古代魔法を魔法ではなく神の力として肯定しているものもあります」
「エマさんの見た集会はおそらくエレジアのものでしょうね」
「確か新興宗教の……ヴィムスの傘下に入ったんだったか?」
「そう言えばこの周辺に信者が増えていたな」
どんどんと彼らの中で話が進んでいく。
そして話は一条の話題へと変化した。
「あの子は多分黒ですね。そもそもあの子以外に侵入できる人間はいないでしょう」
「彼に魔法が使えないとなると、後ろにいる存在の方が厄介だ。おそらく単独犯ではないだろう」
「彼は反魔法組織とのつながりが疑われていましたよね?やはり1番怪しいのはそこでは?」
「尾行します?」
「そうだな」
彼らは情報収集においては世界トップクラスの実力を誇る集団。
私は犯人特定は彼らに任せようと話には参加せず、黙って彼らを見ていた。
「では私はエマさんと一条絢斗を尾行します」
「……え?」
それぞれが役割を分担していた時、いつの間にか私も尾行させられることになっており思わず聞き返す。すると、彼らは逆にどうして驚いているんだ?と言わんばかりの視線を向けてくる。
「貴方は認識阻害魔法が得意だと聞いていますし、そもそもこの件の一端は貴方にもあるのですから」
やらないなんて言いませんよね?
私は頷くしかなかった。




