鏡の中
魔法が使える?そんな訳……
そもそも魔法が使える人間が普通科高校にいるはずがない。
『本当よ。だって私感じるの』
ここにあるあの子の魔力とあの子が纏ってるレガリアの気配。
「じゃあ彼はずっと隠してるってこと?」
でもそんなことして彼にメリットなどあるのだろうか。私には彼が魔法を求めているように感じられた。それなのに、わざわざ隠してアストロスクールに入学した?
私はその動機が理解できず、中々リーシェの話を信じられなかった。
あまり長居するわけにもいかないので、私は記録だけ取って、再び認識阻害魔法を掛け学校を出た。
次の日、学校は休校になった。表沙汰にはならないが、少しだけ魔法省も介入し始めたと報告を受けている。私はやらなければならないことが山積みにも関わらず、何となくやる気になれなくて早朝から今まで来たことのない道なんかを散歩していた。
基本は学校と家との往復。後は自炊のための食材を買いに行くくらい。そう言えば食事に関して専属のシェフを雇ってくれるというベノさんに自炊するからと断りを入れたときは驚かれたなぁ。私からしたら専属のシェフの方がびっくりだけど。
「うわ。結構遠くまで来ちゃったな」
何にも考えず歩いていると、周りは見たことのない森へと姿を変えていた。
夜にはベノさんが派遣してくれた魔法省の人が来るからと軽く構えていたが、流石にそれまでに多少の仕事はしておかないと。そう言えばまだ報告書にもまとめていなかったとやっと冷静になった。
戻ろう。朝ご飯すら食べていないし。
そう思うけれど、もう森の出口すら分からない。
何となく歩みを進めると、そこには小さな建物が立っていた。
森の中に佇む小さな家のような建物。
ちょうどいい。誰かいればその人にこの森の出口を聞こう。
そう思ってドアをノックするが、反応はない。
試しにドアを引いてみると、鍵はかかっておらず簡単には入れてしまった。
「お邪魔しまーす……」
誰かいないかと辺りを見回すが誰もいない。中の様子からして、ここは留守というより空き家だった。生活感がまるでないし、日用品はゼロ。けれど不思議と内装は綺麗なままだった。例えるならモデルルームのような雰囲気。
何だか気味が悪い。こんな森の中にこんな家があるなんて。
私はすぐに出ようとしたが、それは出てきたリーシェによって止められた。
『エマ。あそこ』
彼女が指さした方向を見ると、そこには大きな姿見が置かれていた。
「これ?」
尋ねると、彼女は無言で頷く。
大きいところ以外は特に何の変哲もない普通の姿見。特に私には魔力があるようにも感じられないし、リーシェがこれを指さした理由が理解できなかった。
私は何となくその姿見に手を伸ばした。
すると、鏡に触れた手はそのまま鏡の中に入っていく。
私は驚いてすぐに手を引っ込めた。
『やっぱり、転移魔法が掛かってるわ』
リーシェが転移魔法と判断できて、私には分からない魔法。
そんなのは古代魔法以外ありえない。
私はふと追加調査の報告書を思い出した。
彼との関係が疑われている反魔法組織。けれどそれはつながりがあるという疑い止まりで確証はない。その理由の1つとして、反魔法組織のアジトが判明していないことが挙げられていた。規模や構成員が把握できない以上判断は出来ないと。
もしかして、これがアジトの入り口なんじゃ……
私は認識阻害魔法を掛けて、鏡の中へと飛び込んだ。




