やっぱり
解析を始めるが、私の方は思うような結果が出ない。やはり、古代魔法というだけでも難しいのに情報がほぼゼロのラーハの魔法では解析も困難を極める。
ここはリーシェに頼るしかないだろう。そう思って彼女を見ると、彼女は「やっぱり……」と1人で何かを呟いていた。
「どうしたの?」
『この魔法、ラーハので間違いないわ。それでね、ちょっとだけ、あの子の魔力の痕跡が残ってるの』
「あの子?」
『イチジョウって子よ』
魔力の痕跡?彼の?
だって彼は魔法が使えないはずじゃ……
「そんなわけないじゃん。魔法が使えないのに魔力の痕跡なんて残らないでしょ?」
魔力の痕跡とは、魔法を使った後にその魔法式が残っている状態のことを表す。魔法式は一般にみんな同じものを使うが、ある程度の難易度の魔法を実行するときには基本的に杖を使って呪文へと変換する。その処理量が魔法の上手い下手だったりするのだが、そこで処理しきれなかった魔法式は一定期間その場に留まってしまうことがある。それを魔力の痕跡と呼び、人によって苦手な種類があったり、その人の魔力と共に残っていたりするのだ。
つまり、魔法を使えない人は呪文の処理などをすることがないため、魔力の痕跡など残るはずがない。
『それはエマ達の魔法のことでしょ?』
ラーハのはそうじゃない。
エマ達のは魔法式っていう魔法の設計図を使って、水とか火の要素を杖で呪文に加えてつくるものでしょ?私たちのは呪文っていうお願いなの。
「お願い?」
『精霊たちにお願いするのよ』
古代魔法は杖の代わりに自然に住む精霊たちの力を借りるのだと言う。
「そんなこと出来るの?」
『エマたちと同じような事でしょ?』
現代魔法は杖を使って精霊を強制的に魔力で呼び出し使っているものなんだとか。そのために魔力を使うことになるから、本来の魔力量よりも若干威力が落ちる。なるほど、スマホが熱くなるみたいな感じで関係ないところに魔力を使っているんだ。
「待って。じゃあ現代魔法も古代魔法も結局原理は同じってこと?」
『そうだよ?』
何をいまさら、といった様子で彼女はこちらを見る。
いやいや大発見だよ。教科書変わるよ。
だって今は、魔法を行使するには僕たちが持つ魔力と元素が必要だと考えられていて、古代魔法はこの原理が分からず作られているから、強いけどリスクが高いため基本的には避けられている。授業以外で使ってる人なんて見たことないし。
彼女の言っていることが本当なら、わかっていないのはむしろ私たちの方だ。でも確かにそれなら納得がいく。空気中に火の元素なんてあるわけないし、精霊にお願いすべき呪文を魔力でごり押ししようとすれば失敗する可能性は高いだろう。
「でも、それがどうつながるの?」
『あの子のネックレスはね。お守りなの』
「お守り?」
危険から装着者を守ってくれるという。しかし、それはあらかじめ込められている魔力に由来するので、彼のネックレスではせいぜい転んだ時に助けてもらえる程度だと言う。
『でも、私が知ってる使い方とは多分違うわ。なんていうか……』
監視されてるみたい。
『それにね。エマはあの子に魔力は無いって言ってたけど……』
あの子は多分、魔法が使えると思う。




