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問題

その後の授業はあまり覚えていない。というより、今朝の出来事がショッキング過ぎて頭に入ってこなかった。放課後、いつもなら情報収集や代表候補の練習を見に行くのだが、今日ばかりはそんな気にはなれず、宿舎へ直行することにした。


「……ただいま」


誰もいない部屋に向かって挨拶をする。こればかりは元の世界から抜けない癖の1つだった。


「もう戻ったのか?早かったな」


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


び、びっくりした。

部屋にはヒューゴが座っていた。ソファーの上で優雅に私のお気に入りの紅茶を飲んでいる。

私は腰を抜かしてしまい、うるさい心臓を落ち着けながらその様子を見ていた。


「どうしてここに?」


ある程度呼吸が整ってから、私は彼に尋ねた。

すると彼は立ち上がり、分厚い紙の資料をこちらに差し出してきた。


「頼まれていた追加資料だ」


私は手を洗うと、彼の向かいのソファーに座り資料を確認した。


「何かあったか?」


資料を読んでいるとふとそんなことを聞かれる。

観察眼が優れているのかたまたまなのかは分からないが、私も一人で抱えておくには重い話だったので、思い切ってヒューゴに相談した。


「なんだ、そんなことか」


「そんなことって……」


全て話し終わると、ヒューゴは驚く様子も見せずにそう言い切った。


「主に貴族社会の魔力至上主義は今や社会問題だ。君だってそれ関連の論文で論文コンテストに出場したと聞いているが?」


確かに私たちのテーマは『操者に魔法を必要としない魔法道具による移動手段の検討』。この研究の背景としては、長年問題視されてきた魔法師と非魔法師の日常生活における格差を挙げたし、私たちはこの研究が問題の解決への一歩となることを願って発表したのだ。けれど、あの時の私は少なくともここまで大きな問題だとは思っていなかった。いや、思っていてもわかっていなかった。どこか遠い世界の話だと思っていたのだ。


あの時私は魔力格差の一因として、日用品に対する魔力必要性を挙げたが、今ならそんなものが解決しても状況はほとんど変わらないと言うことが分かる。なぜならこの問題の特に貴族社会においては魔力至上主義の考え方そのものが問題の根幹なのだから。


なんだかんだ言っても私には魔力という揺るがない地盤がある。友人にもそれなりに苦労している人は居るが、みんな強力な魔力を持っている所謂エリートたちばかり。元の世界で例えると、日本から学校に行けない子供たちを想像している感覚に近い。問題だと思うしどうにかしなければいけないのは分かるけど、如何せん遠い世界の話過ぎて想像の域を出ない。それは動画や話を聞いても同じ。

けれど、いざ目の当たりにすると想像では終われない。


「君の仕事はレガリアの護衛と反魔法組織関係者の摘発だ。同情で目を曇らせることのないように」


それだけ言うとヒューゴは出て行ってしまった。おそらく次の仕事が控えているのだろう。

私は再び書類に目を戻した。


一条絢斗。

最初の方は先にもらっていた資料とほぼ同じ。2枚目には家族構成や再婚の背景について。

やはり、再婚理由は魔力持ちを産むため。彼は妹が生まれたときに一条製薬の跡取りをはく奪されている。妹にはまだ魔力は発現していない。

会社関係者の話によると、彼は未だに一条製薬を継ぐことを強く希望している。しかし父親はそれを認めず魔法薬学や錬金術についての専門教育は受けさせてもらっていない。


魔法薬学や錬金術はある程度まで魔法は必要ない。実技の過程で必要になることはあっても、座学の範囲内なら問題はない。けれど、彼はそれすら受けさせてもらえず魔法薬学については父には内緒で独学で勉強中。素行や学習状況については良好。特に問題点は見受けられない、と。


「凄いな、ここまで調べるんだ」


なんだかこっちが彼に対して申し訳なくなるほど詳しく調べられている。

……ん?これって。

書類の下に手書きで殴り書きされた箇所がある。そこには目を疑う情報が記載されていた。


魔法省指定の反魔法組織の集会と思われる集まりに数回参加しているとの情報あり。(真偽は不明)


「真偽不明とは言ってもこれは……要監視ってところか」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一条君とても怪しい。反魔法組織の方に関わりがあるかはわかりませんが、一切関わっていないのに噂になる事など嵌められた時やあまり良く思っていない人が噂を流したときですし、間接的にでも関わりがあ…
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