潜入開始
木造の建物に落ち着いた内装。景色は一面雪で覆われてしまっているが、やはり東の地となるとアスカニア王国やクリスタル帝国の造りとはまた違う。あっちがヨーロッパだとすると、こちらはアジアだろうか。日本に似ているか、と言われれば即答は出来ないが少なくとも日本と中国を混ぜたくらいの雰囲気はある。
私は室内の温かさに若干汗をかきながら、案内されるがままに廊下を歩く。流石にティアラを付けるのは……と思ったが、ここにはそもそもティアラを付けるという文化が無いそうで、基本的に鎖国国家のため付けていても問題ないという魔法省の判断でティアラはそのまま頭に付けている。
正直この魔法省の判断は、どうにも私を囮にしようという魂胆があるように見えて仕方ないが、私に反論できるはずもなく今に至る。まぁ確かに知らなかったらただのアクセサリーだよね。そう自分に言い聞かせて考えないことにした。
元の世界に似た制服で木の廊下を歩く。廊下で待っていなさいと先生がドアを横に開けるときのガラガラとした音。違うとは分かっていても、どうしても元の世界の転校生のような気がしてならない。
入りなさい。そう聞こえて、私は教室の扉を開ける。
中に入ると、そこには黒板やつくえと言った、見慣れた景色が並んでいた。やっぱり作っているのは日本の会社だし、東の地となると日本風になるのだろうか。私はちょっと嬉しくなりながら教卓の前に立つ。
「転校生を紹介します。今日からみんなの仲間になるエマ・シャーロットさんだ」
「初めまして、エマ・シャーロットです。分からないことばかりですが、皆さんと仲良くできたら嬉しいです。よろしくお願いします」
まばらな拍手が響く。私の容姿が珍しいのか、みんな口々に何かを言っている。
確かにここには日本のように、ほとんど黒髪黒目しかいない。こっちに来てから黒髪黒目なんて逆にいなかったから何とも思わなかったけど、彼らからすれば私の容姿は十分に派手だろう。
ヘーゼルの緩く巻いたロングヘアに、淡い緑の瞳。顔立ちはどちらかというと可愛い系で、アメリアをはじめとしたこの世界の人よりは堀が浅い。アスカニア王国では比較的受け入れやすい顔だけど、ここの人たちからしたら、十分外人!って感じなんだろうな。まぁ私もバスや電車で海外の人を見かけると、どうしても目で追ってしまっていたし物珍しい気持ちはわかるから特に気にはしないけど。
「じゃあ、シャーロットさんの隣は……イチジョウ!」
「はい」
イチジョウ、そう言われた男の子の隣の席に座る。
よろしく、と声を掛ければニコリと微笑んでくれた。ていうか結構かっこよくない?
私はこの世界の顔面偏差値の高さを実感しつつ席に着く。
「はい、じゃあ1限の準備しとけよー」
そう言って先生は教室を出ていった。




