依頼
「あーダメだ。全然集中できない」
ウィンチェスターアカデミーに戻って3日。私は未だにレオンとのキスを忘れられないでいた。
そもそも私は今まで彼氏など居たことがないので、あれが正真正銘のファーストキス。え、何レオン私のこと好きだったの?それとも遊ばれてる?
困惑と共に怒りすら湧いてきそうである。
しかし、考えるたびに唇の感覚を思い出してしまい何をしていても全く手に着かないのだ。
「今日はもう勉強いいや」
冬休みの間にガッツリやろうと思っていた勉強も、集中できなければ意味がない。特にやることもないし、今日は1人で街に買い物でも行こうか。そう言えばこの間エリカが素敵なカフェを見つけたと言っていた。ケーキがすごく美味しいのだとか。
「よし、ケーキ食べに行こ」
そう思って準備をしていると、寮母さんが急いだ様子で部屋まで訪ねてきた。
「来客、ですか?」
来客って誰だろう。学校の人ならわざわざ訪ねてはこないだろうし、考えられるのはレオン関係か魔法省がらみだろうか。流石にこのままでは出られないので私は着替えて軽く化粧をしてから言われた通り応接室に向かう。
失礼します。
ドアを開けると、そこには魔法省の制服を着たヒューゴが座っていた。確かにいきなり第1王子が来たら、寮母さんもびっくりするよね。彼女は震えながら紅茶を淹れていた。
私が座ると、ヒューゴは彼女に席を外させすぐに本題へと入った。余程時間が無いのだろう。忙しいなら文面で良かったのに。そう思いながら私は彼の話に耳を傾ける。
「冬休みが終わったら、1ヶ月ほどとある学校に潜入して欲しい」
この間の件で、魔法省は本格的にレガリアを回収することにしたらしい。しかし、そのほとんどは現在個人所有されていてその回収は容易ではない。そして残りの3つの中で唯一学校という公機関が所有しているレガリアは、1か月後のとある儀式が終わるまで回収できないのだと言う。私に与えられた任務は、それまでレガリアを守り、儀式が終われば魔法省まで回収してくること。
「彼らがもしレガリアを狙っているのなら、魔法省に回収される前に必ず盗りに来るはずだ。君には生徒として潜伏しながらそれを食い止めて欲しい」
確かに、ティアラがあればある程度怪しい人物を見つけることが出来るし、学生という事からも私ほどの適任はいないだろう。正直面倒だが、彼らと約束した以上簡単に断ることはできない。
「わかりました」
「話が早くて助かる。これがその学校の資料だ」
渡されたのは10枚ほどの紙の資料。学校の情報だけでなく、私が潜入するクラスの生徒の情報まで事細かに記されている。流石は魔法省。任務1つをとっても事前の下準備が全然違う。
私はそれらに軽く目を通しながら疑問に思ったところを質問する。
特に変わったところのない普通の高校。アスカニア王国より東の国に存在する、非魔法学校。生徒の100パーセントが魔力を持たずそのほとんどが平民層。本当にびっくりするくらい普通の学校。こんなところにレガリアがあるの?
翡翠の剣。その名の通り翡翠に似た魔法石を使用した剣。古くからの伝承でその学校に代々保管されている。毎年2月頃に新年を祝う行事があり、そこで選ばれた生徒がその剣を使用して舞を披露する。
生徒は希望者の中からオーディション形式で選ばれ、当日は学校の生徒だけでなくその地域に住む人々や卒業生など多くの人が訪れる。
「この学校は非魔法学校の中ではかなりの名門校で歴史もある。事前の報告では既に反魔法組織関連の動きもあると見られている。可能ならその摘発もお願いしたい」
まぁ確かに魔法を持たない優等生なんて、反魔法組織からしたらこれ以上ないカモだろう。スターズ以上に丸め込みやすいだろうし。それからは設定や住む場所など任務についての詳しい説明を聞いて、話し終わると彼はすぐに戻ってしまった。
冬休みが明けるまで、残りもう1週間。
正直何もしたくないけど、今やれることはやっておかなくちゃ。
「また、忙しくなりそう」
私はストールをひっかけ図書室へと向かった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
ここで冬休み編は終了です。次回からは潜入任務編へ突入となります。
長さ的には冬休み編と同じくらいかなぁと思っていますが、もしかしたらもうちょっと長くなるかもしれません(笑)
暑い日が続いていますが皆さんどうか体調にはお気を付けください。
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皆様これからも『ヒロインって案外楽じゃないですよ?』をよろしくお願いいたします!




